「ヒロシマ ナガサキ 最後の二重被爆者」。二度も被爆した方がいることを知っていますか?
「私たちのCHALLENGE STORY」を担当しているライターの孫 理奈です。毎年恒例、STORY9月号では戦争をテーマに取り上げています。今回は数年前に取材した内容をアーカイブするとともに、1本の映画をご紹介したいと思います。
戦争はいけないことだとわかってはいても、次世代に引き継ぐためには何をしたらいいのだろう?と思っている方も多いと思います。’16年9月号の「私たちのCHALLENGE STORY」で、私は「継承活動」を始めた方を取材しました。長崎でお会いした原田小鈴さんは祖父の故・山口 彊(つとむ)さんの語り部活動を継承し、現在、反核を訴える平和活動をなさっています。山口さんは広島と長崎で被爆された二重被爆者で、90歳で初めて語り部活動を始めました。出張先の広島で被爆し、命からがら戻った家族の住む長崎でも被爆された山口さんは、「キノコ雲に広島から長崎まで追いかけられたんじゃないかと思った」「核は平和的に利用すると言っても、技術的に論理的にも問題がある。人間の世界に核はいらない」と語り、93歳で亡くなるまで、「自分がなぜ生かされたのか、叫ぶ宿命にあった」と反核を訴え続けられました。英語が堪能だった山口さんは90歳で初めてパスポートを取得、アメリカ・ニューヨークの国連でも被爆体験を話しました。「核兵器廃絶のため、皆さんの力をお貸しください」と声を詰まらせながら訴えたという言葉、学生たちに「私の命をあなた達にバトンタッチしたい」と泣きながら伝えたというその言葉が忘れられません。
実際の山口さんの声、体験談は山口さんの語り部活動を密着された稲塚秀孝監督作品の『ヒロシマ ナガサキ 最後の二重被爆者』という映画でも知ることができます。この映画は、山口さん以外に新たに見つかった二重被爆者の方の証言や、山口さんの遺志を引き継ぎ、娘、孫、曾孫の3代にわたる継承活動を始められた家族のドキュメンタリーです。先日、東京で上映会があり、山口さんの長女の山崎年子さん、長崎で取材させていただいた原田さんに久しぶりにお会いすることができました。
上映会場には中学生の子ども達の姿もありました。真剣な目で被爆体験を聞く子どもたちを見て、私たちに親にできることはこのような映画を子どもと一緒に観たり、戦争にまつわる本を読み、戦争と平和、歴史についてお互いに感想を話し合うこと。それだけでも大きな意味があるのではないかと思いました。
山口さんは人を恨む方ではなかったそうです。映画のワンシーンで、アメリカから長崎の原爆資料館にやってきた高校生たちに英語で被爆体験を話した後、「皮膚の色や言葉は違っても私たちは同じ人間だから話し合えばわかると思います」と語りかけました。人を憎むことなく、許すことを決意した山口さんの人柄が表れている言葉が深く胸に響きました。そして涙を流しながら聞くアメリカの学生たちの姿に、山口さんの気持ちは世界に伝わるはずだと感じました。まさに後世にバトンを繋ぐ使命を果たした山口さん。その想いを繋ぐのは、今を生きる私たちの役目なのではないかと思います。
そんなわけで、今年の「私たちのCHALLENGE STORY」のテーマは「戦争にNO!を言うのは、私たち母親世代の役目です」。スポーツキャスターの高橋尚子さんと、ベトナム戦争で取材を行ったフォトジャーナリスト・中村悟郎さんの対談から始まります。STORY9月号は本日発売です。お手に取っていただければ幸いです。
※映画『ヒロシマ ナガサキ 最後の二重被爆者』は8月までさまざまな会場で上映されますので、スケジュールをご確認ください。
https://movie.jorudan.co.jp/cinema/38352/schedule/