私の「子育て本」本好きママモデル・識者・経営者の選んだ一冊は?【前編】

SNSでなんでも知ることのできる現代ですが、子育てに悩んだ時にはやっぱり本を手に取りたいもの。検索では見つけることのできない新たな視点や元気をもらえる言葉に、きっと出会えるはずです。この記事では子育て中に何度も本に救われてきたと語る7人の推薦者に、「母になる」自分を助けてくれた本を紹介してもらいます。

推薦者・クリス-ウェブ 佳子さん
『ハーズ ’80年代に女が考えたこと』ナンシー・ニューハウス編 / 『美女の正体』下村一喜

“母親になり役割が増えていく中でも女性である自分を見失わずに肯定できた”

女子差別撤廃条約が採択された年に私は生まれ、キャリアウーマンとして’80年代を生きる母の姿をずっとそばで見ていました。もがきながらも、しなやかに、自由になっていくところを。長女が3歳の頃に古本屋さんで出会った『ハーズ ’80年代に女が考えたこと』は、母と同じ時代にアメリカで力強く生きた女性たちのエッセイ集。「別居」「仕事」「親子問題」などの壁にぶち当たった女性たちが試行錯誤しながら、〝女性〟として人生を選択していく様子が、生々しい言葉で書かれています。決して暗い話ではなく、むしろ前向き。母、妻の役割はもちろん大事、でも〝女性として〟道を進んで良いと肯定してもらえる一冊です。この本は、今も私の人生の糧。

もう一つ自分を肯定できた本に、写真家・下村一喜さんの『美女の正体』があります。〝世の中は美女だらけ〟というパンチある一言から始まるのですが、きれいごとではなくとにかく元気と自信をもらえる。育児の中で一番自信を失うのは、母親としても妻としても努力はできているけれど、女として努力する時間がないことなんです。街できれいなお母さんを見た時や、もしかするとVERYを読みながらそんな気持ちになる人もいるかもしれません。頑張れとは言わず、過酷な努力も強いらない。けれど、ほんの少し意識と行動を変えるだけで自分を肯定できる術を教えてくれます。私がこの本で女である自分を改めて認められたように、たくさんのお母さんに寄り添ってくれるはずです。

クリス-ウェブ 佳子 

モデル、エッセイスト。VERY専属モデルを務める傍ら、ラジオのメインDJ、コラムの執筆などさまざまな分野で活躍。エッセイ集『考える女(ひと)』(光文社)も発売中。

推薦者・申 真衣さん
『食べ物連載 くいいじ』安野モヨコ 

“大変な時こそ、笑いに変えようと思えた一冊”

娘を産んですぐの頃、ご飯を食べるのもままならず、台所で卵かけご飯を立ち食いし(笑)、そのまま倒れて寝る、という生活を送っていた時に、昔読んだ『食べ物連載 くいいじ』を引っ張り出しました。その中の「超!時間がない時の非常食」という、たった1ページのコラムを思い出したのです。漫画家である著者が締切りに追われ、ご飯も食べる時間がない最中に編み出したのは、とにかく〝そのまま食べる〟という手段。ゆで卵立ち食いin台所、豆腐に塩、ミニトマトやバナナをそのまま頬張る……。ご飯も椅子に座って食べられない日々に落胆していましたが、〝こんな毎日もあり!〟と笑いに変えてくれたこの本に当時とても救われました。歯切れのいい言葉と軽快なリズムの中にも、くだらない日常をきちんと愛でている文章に触れたくなり、今もよく読み返しています。

申 真衣

会社役員、VERY読者。本誌6月号の特集で大々的に登場して以来、読者から〝もっと見たい!〟の声が続出。大学卒業後、外資系金融会社を経てベンチャー企業の役員を務める。長女は3歳。

推薦者・山川 咲さん
『おなかの中から始める子育て』池川 明 / 『スウィート・ヒアアフター』よしもとばなな

“自分の身に起きたことや目の前にあるものすべてを尊いと思うことができた”

会社のメンバーがくれた『おなかの中から始める子育て』を読んだ時、あまりに衝撃を受け、著者の池川明先生を訪ねて広島へ行きました。2度の流産を経験し3度目の子どもを授かっていた私は、自分に言い聞かせるように「今、赤ちゃんはお腹の中で喜んでいる。赤ちゃんは確かに私のことを好きな気がする」と伝えたら、「都合よく捉えていい」と力強く言ってくれ、とても救われました。それに通ずるこの本にも後押しされ、どんなに短い期間でも自分のお腹にいてくれたことが、子どもにとって幸せだったのだと思い直せたのです。子どもを産むまでのコミュニケーションや心配ごととのお付き合いを10カ月間じっくりできたことで、穏やかな気持ちで育児に入れたように思います。とはいえ、いざ始まると夢みたいに激しく、娘が泣きやまなければ胸が張り裂けそうな時もあります。

よしもとばななさんの小説『スウィート・ヒアアフター』は、〝私〞で生きてきた日々に戻れると同時に、目の前一瞬一瞬の甘さも苦しさも、今しかない尊い時間なのだと思わせてくれます。事故で恋人を亡くした主人公が、幸せな時間や消えない辛さを携えながら、その後の人生を生き続ける物語の中で新たな視点をくれました。〝娘が泣きやまない。でも、これだけ泣いているからこそ、一瞬笑ってくれることが愛おしい〞。日常の小さな粒を逃さずにすくえるような感覚をくれた、ばななさんの言葉に、私は力をもらいました。

山川 咲

クレイジーウェディング創業者。2012年、夫とともに㈱CRAZYを創業。現在は、CRAZY WEDDINGのブランドマネージャーとしてブランド全体を統括。今春「I WAI OMOTESANDO」をオープン。長女は2歳。

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私の「子育て本」 本好きママモデル・識者・経営者の選んだ一冊は?【後編】

撮影/西原秀岳〈TENT〉 取材・原文/藤井そのこ 編集/湯本紘子

*VERY2019年9月号「検索では見つからない答えがあるから 「母になる」私を助けてくれた一冊。より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。