【東京アートパトロール】バンクシー展 天才か反逆者か

あのバンクシーの作品が一堂に。

オークションで落札された瞬間に内蔵されていたシュレッターで断裁されてしまった《風船と少女》だったり、東京・豊洲でバンクシーらしき作品が見つかって都庁で公開された際に行列ができたことで、一気に名前が知れ渡ることになった匿名アーティスト・バンクシー。

そのオリジナルの作品70点以上が展示され、作品に込められたメッセージや風刺が映像なども交えて体感できる展覧会が横浜で開かれていて、好評です。 

ベツレヘムのバンクシーホテルで極私的バンクシー体験

以前からバンクシーのことが気になっていたものの、作品を見たことはなかったし、なんとかバンクシーを体験したいという思いが募り昨年、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ベツレヘムにあるバンクシーが手がけたホテル「THE WALLED OFF HOTEL」まで出かけてきました。

イスラエルが築いた悪名高き分離壁の真横にあるので別名「世界一眺めの悪いホテル」。バンクシーは、パレスチナの惨状を世界に伝えるべくこの土地にホテルを建設し、町のいたるところにバンクシーのグラフティアートを描いていました。オークションにかけたら数億円の値がつく作品が、あえて攻撃を受けて破壊されてしまうかもしれない場所にあるのです。

ホテルは客室が8室のこじんまりとした規模ですが、バンクシーのアートで埋め尽くされていて圧倒されます。

バンクシーは難民にとって、生きる聖人

滞在中最も印象に残っているのは、ホテルが宿泊客向けに主催している「アイダ難民キャンプウォーキングツアー」に参加したことです。パレスチナ難民のツアーガイドが、ホテルから見える分離壁の奥にある難民キャンプに歩いて案内してくれるのです。

私たちを案内してくれたのは同世代の40代後半の男性。彼は、この難民キャンプで生まれ、今は5人の子供と3人の孫がいると話してくれました。で、彼から私への問いは「あなたは何人子供がいるのか?」と。「ひとりだけ」と答えると、呆れたような怒ってるような瞳で見つめながら「そんなことで国が守れるのか? 子孫を増やさないってどういうことだ?」と問い詰めてきました。

私はこの一言で、同世代の彼の生きてきた人生のハードさと、難民の置かれて

いる立場が実感として押し寄せてきて、続く言葉は見つかりませんでした。

そして彼は「バンクシーは自分たち難民にとっては『生きる聖人』だ」とも話してくれました。バンクシーが度々ベツレヘムを訪れ、グラフティを描き、ホテルができたことによって難民の雇用も生まれて、世界中から人が集まりお金を使ってくれるようになってから、生活が少し良くなったからと。

ベツレヘムの町にはいたるところにバンクシーの作品がプリントされたステッカーやTシャツなどを売っている土産物屋があるのですが、彼曰くバンクシーからは「パレスチナ難民が無許可で作品を複製して商売するのは構わない、どんどんやってお金を稼げ」と言われているそう。「私の人生で難民キャンプを訪れる時がくるなんて」と最初はこの成り行きに戸惑ったのですが、それもバンクシーという芸術家が気づきを提示してくれて、この土地への旅情を駆り立ててくれからこそ。

アートの生み出すパワーって凄い! と実感しました。

日本で展示されているバンクシー作品を見る際も、展示会場にある作品だけでなくその作品が作られた時代と場所を俯瞰で見て、人々が置かれた状況に少しでも想像を多く持てたらより深く感じることができると思います。

【DATA】
『バンクシー展 天才か反逆者か』

会場:アソビル
神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル2F
会期:〜927日(日)
大人/平日¥1,800、土・日・祝¥2,000 ※入館は事前予約制

大阪巡回も予定。
2020年10月9日(金)~2021年1月17日(日)
※12月31日(木)、1月1日(金)は休館
※新型コロナウイルス感染状況により延期、中止する可能性がございます。詳しくはHPにてご確認ください。
会場:大阪南港ATC Gallery(ITM棟2F)
住所:大阪府大阪市住之江区南港北2-1-10
時間:平日 10:00~17:00(10月は20:00まで)/土日祝 10:00~20:00

https://banksyexhibition.jp

 写真1
ベツレヘムはイエス・キリストの聖誕教会があることでも知られる町。ホテルは2017年にオープン。ホテル名はニューヨークや隣町のイスラエルのエルサレムにもある高級ホテル「ウォルドルフ=アストリアホテル」を風刺している側面も。

写真2 

写真3
バンクシー初期の代表作《花束を投げる暴徒》(2003)はイスラエルとのチェックポイント近くのガソリンスタントの奥に描かれた巨大壁画。

ホテルのロビーにはそれを三分割してプリントした作品《Thrower》(2017)が中央に。花束のある場所には造花が置かれています。ホテルロビーは宿泊客以外でも入ることができ、カフェと博物館、ギャラリースペースやスーベニアショップがあります。

写真4
ホテルは部屋ごとにインテリアが異なり、私が泊まった部屋の天蓋つきのベットの上には有刺鉄線の奥にバンドエイドが貼られたハートが描かれた《Damaget Balloon》(2017)などが。

写真5
リビングにはジャグジーが備え付けられていて、銃弾で穴を開けられた給水タンクから水が出るようになっていました。

給水タンクは銃弾で穴を開けられると水が使えなり、あっという間に生活が立ちいかなくなるので、難民キャンプを攻撃するとき真っ先に狙われてしまうそう。「穴の空いた給水タンク」は難民の象徴でもあるのです。

 写真6
アイダ難民キャンプで生まれ育ったというツアーガイドさん。旅の中でも彼との話が一番衝撃でした。

 写真7
難民キャンプの入り口には「いつか家に帰りたい」と何世代にも渡って願ってきた難民の象徴でもある鍵のオブジェ。見たことのない、行ったことのない、かつての自宅の鍵を大切に持っている人たちがここに沢山暮らしています。

 写真8
世界で一番催涙弾の被害を受けたと言われる、難民キャンプの建物の屋上から見たベツレヘムの町。ホテルから見える壁の反対側からの景色です。

 写真9
バンクシー展の展示風景。中央に見えるのは2019年にサザビーズ・ロンドンにて約13億円で落札された《英国の地方議会》のリトグラフ。実物は250×420cmとバンクシー作品の中でも最大級。

 「パンデミック」解説パネル展示イメージ
最近新たに展示に加えられた、バンクシーがコロナ禍で発表した「パンデミック」に関するパネル。

 

text:安西繁美
女性誌やカタログで主にファッション、食関係、アートの企画を担当する編集・ライター歴四半世紀。流行には程よく流されるタイプで、食いしん坊、ワインと旅行好き。東京日本橋出身、よって下町気質。家族や友人に美大出身が多いのに私は画力ゼロ。描けないけど書けるよう