コロナ時代、おうちにいながら旅へ! 人気絵本「しんかんせんでビューン」で子どもの心が育つワケ

GoToトラベルのニュースを見ていた子どもに、「また電車に乗れるの? 旅行に行ってもいいの?」と無邪気に聞かれ、なんだか胸を打たれました。
わたしたちの日常を一変させたコロナ禍ですが、「いつかまた気軽に旅をして、遠くの家族に会いに行ける日が来る。だってそれが当たり前だもの」と大人なら思います。
でも、スポンジのようにやわらかな子どもの心には、もしかしたら当たり前なんて言葉はまだないのかもしれません。
そこで本棚から1冊の絵本をひっぱり出して、一緒に読むことにしたのです。

秋田から九州まで、絵本で旅気分が味わえる!

これがその絵本「しんかんせんでビューン」。
もしも、乗りものの本は男の子向けと決めつけてしまっていたら、もったいないかもしれません。読むと不思議、本当に新幹線に乗って旅をしているような気持ちになれる絵本です。

表紙をめくると、主人公のけんたはおじいちゃんとおばあちゃんに見送られて、秋田駅から新幹線に乗り込むところです。新幹線を乗りついでお母さんが待つ熊本駅まで、これからひとりで旅をするのです。
新幹線も駅も、通りすぎる町も、とても細やかに描かれています。東京駅に近づくと、関東近郊に住んでいる人なら、自分の家はこのあたりかなと思うほどです。

旅のワクワクドキドキがぎゅっと詰まってる!

シュン シュン シュン シュン ゴワァーン

読み聞かせていると、子どもとふたりで旅をしているような気持になります。「あっ、川で遊んでいるね」なんて、新幹線の窓から景色を眺めているみたい。
視覚と子どもの心を研究してこの絵本を生み出したのは、「視覚デザイン研究所」です。今回はそのひみつを作画の國末 拓史(くにすえ たくし)さんと編集長の早坂 優子さんに教えていただきました。 

リアリティを高めるために、あえて個性を抑えた絵柄に

「子どもってミニカーで遊ぶときに、寝そべったりして、目線を同じ高さにしているでしょう。子どもの目にはミニカーが、実物と同じくらい大きく見えてるんじゃないかな。さあ今から乗り込むぞっていう気持ちでいるんだと思います。
絵本も同じです。小さくても子どもの前には、大きな世界が広がっているんです」
そう話すのは、作画を担当する國末さんです。

だからあえて絵は個性を抑えて、細部まで描き込むことでリアリティを高めているのだそう。カラフルな色づかいで読む人を開放的な気持ちにし、旅に出るワクワクを盛り上げます。
新幹線を指でさして進行方向に動かしながら、「ガタン ゴトン」など擬音を声に出して読むと、なんだか楽しい気分になってきます。
乗っているのはいろいろな動物たち。「ここにいるのは誰だろう?」「クマさんも乗り換えかな」気がついたことを話してみてください。きっと子どもからも教えてくれるでしょう。

ねらいは、子どもの感情力を育むこと

この絵本はひとりの作者が考えたのではなく、編集部のスタッフが大好きなシーンを持ち寄って、子どもが喜ぶストーリーに組み立てていったそう。実際の社会にあるものがたくさん絵の中に描き込まれているので、どんどんお話がふくらみ、何度読んでも新しい発見があります。

「日常の中で社会体験を積み重ねていくように、子どもたちは絵本の中でも川を越えたり山を登ったり、いろいろな体験をするでしょう」と話すのは、編集長の早坂さんです。
体験したり、見たり感じたりすることで、豊かな感情力や共感力が育まれ、社会の中で幸せに生きる力につながっていくのだそうです。

「見えていないかも?」と思ったら……

細かな描き込みには、子どもの視力の問題を早期発見できるようにとのねらいもあります。決して珍しいことではありません。実はうちにも幼稚園のときに弱視とわかって、メガネで矯正をした子どもがいます。
視力は子どものうちに伸びるので、もし「細かな部分が見えていないのでは」と気がついたら、どうか早めに眼科医に相談してみてください。

お家にいながらワクワクドキドキの旅を体験できる「しんかんせんでビューン」。
秋田から熊本まで実際には新幹線で10時間の距離ですが、この絵本を大人が子どもに読んであげるとしたら、10分くらいでしょうか。ぜひけんたと一緒に日本縦断してみませんか。

「しんかんせんでビューン」
作:視覚デザイン研究所
絵:くにすえ たくし