【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊵夏の入り口

 

にぎやかな声が聞こえる。

棚の上の時計に目をやると、数字の6が見えた。起きるにはまだ少し早すぎる。もう一度目を閉じ、鳥の軽やかな口笛をたどりながら、しばらく布団の中でうとうとする。瞼の奥に窓から差し込む朝の光がほんのりと感じられ、また深い眠りの世界に入ってしまいそうだ。

A1

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気が付くと辺りがすっかり明るくなっていた。

窓のカテンを開いてみると裏庭のハブが朝の陽に照らされている。昨日に続き今日も晴れ。何だかほっとする。もうすぐ夏とは思えないくらい冷たい雨風が続いた1週間がやっと終わったようだ。コーヒを片手にタイムや野イチゴの花をぼんやり眺めた。太陽の光が眩しい。今日は暑くなりそうだ。

B

ふと目を移すと窓の横に白い花が宙に浮いている。思わず、あっ、と声を出し家族を呼んだ。毎日この位置から見えている、ふんわりと垂れさがっているバラの枝の先に白い花がちょっと恥ずかしそうについていたのだ。ベランダの戸を開け急いで裏庭へ飛び出すと、壁づたいに高く伸びたバラの木にちらほらと花がついていた。雨で庭に出ることが少なく気が付かなかっただけなのか、急に気温が上がったせいなのか、とにかくその咲き出したバラは、誰かが知らぬ間に贈り物を届けてくれたようで嬉しくてたまらない。

 

その勢いでふらふらと庭を一回りしてみると、大輪の真っ赤なケシの花やアイリス、あちらこちらに花たちの姿が見える。

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魔法の杖を持った3人の妖精たちが世界を深い眠りにつかせ、そして又、その杖をひょいっと振りかざし一瞬にして皆をその眠りから呼び起したように、庭に再び

様々な色が集まりだした。

 

何かが溢れ出る予感。季節が移り変わる時、庭に必ずそんな空気が流れる。花たちがスタトラインにつき走り出す為の何かを待っている。数日前までの悪天候と静けさの後、深い眠りから覚めた庭がゆっくりと動き出した。

 

1時。

 

外はまだ明るい。

犬と一緒に麦畑の道へ散歩に出かけた。

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芍薬畑にグラミネをかき分けながら向かうと、今年は少し遅れて咲き出した芍薬の花が夕日に照らされている。少し膨らんだ丸い蕾。今夜、私たちが眠りについている間に柔らかな夜をくぐり、朝にはもう無数の花びらが豊かに溢れ出しているかもしれない。

 

E

 

空が燃えている。

 

夏の入り口。

気持ちのいい1日が終わった。

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/