【ママだって、こんな風に政治とかかわっていける!】➋武村若葉さん「オンライン署名で生活と政治をつなぎたい」
10月31日に投票が迫った衆院選。
私たち・子どもたちの生きるこれからの社会がどうあってほしいか。その意思を直接示すことができるのが、投票行動です。
ただ、投票は荷が重いと感じている方もいるかもしれません。「私の1票じゃ何も変わらない」と思っている方もいるでしょうか。
そこで国政選挙直前の今回、VERYでは社会や行政に声を届けようと活動をしている3人のお母さんに取材。私の生きづらさを、私だけの問題にさせないためにできることはなにか。また、衆院選で注目したい政策などについて聞きました。
第2回は、署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で社会活動家を支える武村若葉さんです。(全3回予定。前回はこちら)
◎武村若葉(たけむら・わかば)さん
Change.org Japanカントリー・ディレクター。1983年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒後、パリ大学大学院でMBA取得。PR会社に勤務した後、2013年からChange.org Japanに参画。2019年から現職に就任した。6歳と2歳の二児の母でもある。
「お友だち」からのシェアで広まる社会問題
——署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」は200 カ国で4億人以上のユーザーがいるそうですね。どんなサービスなのでしょうか。
武村若葉さん(以降、武村) 「オンライン署名」というかたちで誰でも声を上げられる、ポジティブな変化を社会に起こすプラットフォームを提供しています。2007年にアメリカではじまって、日本版ができたのは2012年です。
それ以降、国内では職場でのヒール靴強要に異議を唱えた「#KuToo」キャンペーンや、公文書改ざん問題に関わった末に自死した職員の遺族の方が再調査を求める署名など、さまざまな声が上がりました。多くの人が慣習や閉じた意思決定システムを変革しようとしている、そんな風に感じています。
——発起人となってサービスを利用する場合にも、費用はかからないのでしょうか。また、オンライン上で自分の名前を明かすことなく賛同することもできますか。
武村 キャンペーンを立ち上げ、署名を募り、集まった署名をダウンロードする。その一連をすべて無料で使うことができます。
自分の名前を明かしたくないという方も多いですので、名前を表示させずに賛同だけすることもできますし、反対に、名前を出してSNSでキャンペーンをシェアすることも選択可能です。
ソーシャルメディアは「お友だちからシェアされる」ことに大きな意味があります。知り合いからキャンペーンが共有されると、「この人はこんな問題意識を持っているんだ」と注目度がアップしたり、共感が高まりやすい。なので、「これは広めたい!」と感じた取り組みについてはぜひ、勇気を振り絞ってシェアしていただけたらと思います。
「保育園落ちたどうしよう」の数週間後に大臣と面会
——武村さんが印象に残っているキャンペーンにはどんなものがありますか。
武村 はじめてChange.orgを知った時は、「アメリカでは署名までネットでやるのか!」という驚きと同時に、大きな期待感も持ちました。インターネットの双方向性や、感情ベースのつながりの強さ、あとは拡散スピードの速さという特徴が署名と組み合わさった時、新しい取り組みになるような気がしたんです。
そんなオンライン署名の象徴のように思えた取り組みのひとつに、待機児童問題に声を上げたキャンペーンがあります。
というのも、個人的なことですが「保育園落ちた日本死ね」問題と同時期に私も子どもを産み、自治体から保育園の不承諾通知を受け取ったんです。4月から子どもを預けて働こうと思っていたのに、通知が来たのは2月。私自身がものすごく切羽詰まっていたタイミングでキャンペーンが立ち上がり、発起人の皆さんと一緒に当時の厚生労働大臣に署名を手渡すことができました。
この署名に賛同した人の中には乳幼児子育て中の方もたくさんいたと思いますが、そういう状況だととてもじゃないですが街頭で署名集めをするのは難しいかもしれない。そういった点もインターネットなら、自分と同じ悩みを持つ人たちと問題を共有し、オンライン署名というかたちですぐに声を集められます。また子育て中の人だけでなく、障がいがあったり、金銭的・距離的といったさまざまな事情を抱える人の声も集めやすい。キャンペーンが立ち上がった数週間後に政府まで声を届けることができたというスピード感に加え、そんなポテンシャルを肌で実感したキャンペーンでした。
私たちの当たり前の生活は、政治と密接に関わっている
——もともと武村さんは社会活動に関心があったのでしょうか。
武村 Change.orgに関わる前はPR会社に勤めるごくごく普通の勤め人で、社会運動も署名活動もしたことはありませんでした。
ただ私がChange.org に関わることになる2013年当時は、欧米を中心に人と人をつなぐインターネットやソーシャルメディアが大きなムーブメントになっていて、個人的にも興味を持っていました。そんな時、Change.org日本版を立ち上げたハリス鈴木絵美さんに出会い、手作業でアナログだった署名とネットとの親和性を感じ、すぐに仲間になったんです。
2020年、Change.orgがオフィスを構える20カ国の中で、日本は利用者の増加率が一位でした。その理由を明確に説明するのは難しいですが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、自分の当たり前の生活が、実はものすごく密接に政治と関わりを持っていた、ということに気づいた方が多かったのかなと思います。「働くな」というのに給付金が出ない。学校に行けない……そういった問題はすべて行政の意思決定に影響を受けており、その仕組みに意識的になった方が多かったのではないでしょうか。
——その「仕組み」のあり方を問う衆院選の投票日が間近に迫っています。武村さんが注目するポイントは?
武村 Change.orgというプラットフォームの提供者の立場で言うと、意思決定者の方々の構造自体を考え直す必要があると感じています。最近やっとクオータ制や女性の候補者を一定以上に定めるといった、多様性を推し進める仕組みが話題に上るようになってきたので、ぜひ積極的に推し進めていってほしいと思います。
なぜ意思決定者や為政者に多様性が必要かというと、社会にはさまざまな問題を抱えている人がいるからです。
多様な人の声を届けるために、政治の場にもダイバーシティを
私たちの活動はそんな人たちの声を署名として集め、意思決定者に受け取ってもらうことにほかなりません。そうして集まった声を受け止めてもらうには、市民の要望を聞く側にも、いろんな属性、いろんな立場の人が必要です。にもかかわらず現状は、意思決定の立場にある人の大半が健常な、ある年代以上の男性です。実際、先日発足した岸田内閣の平均年齢は61.8歳で、閣僚20人中、女性は3人だけでした。
これでは価値観や考え方が似通ってしまい、そこから外れた少数派の声が反映されにくくなってしまう。家事育児を一度も経験したことのない人がその苦労を理解しにくいのなら、子どもを育てた経験のある人が意思決定の場にいた方が当事者に共感しやすいですよね。そういった意味で今回の衆院選では、多様な声を受け止められそうな候補者・政党に投票をしたいと思っています。
もし投票に迷っている方がいたら、興味のある問題についてだけでいいので、自分の考えを深めてみることをおすすめします。VERY読者の方ならたとえば、選択的夫婦別姓制度は身近に感じられる方が多いのではないでしょうか。その他、環境問題や移民問題など、自分が知りたいと思えるイシューについて、選挙区の候補者の意見を見比べてみることおすすめします。
うちは夕飯の時にテレビニュースを見ながら「こんなこと言っているのおかしくない?」と夫も私もよく社会問題にツッコミを入れるので、6歳の子どもも真似をして「これはおかしいよね」と言っています(笑)。家族間で政治的な話をすることで、タブーの意識を持たずに成長していってほしいなと思いますね。
重視したいポイント・
各党がクオータ制の導入や女性候補者の増員など、多様性をどう推し進めるか
取材・文/小泉なつみ
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