場面緘黙症の娘。克服させるのではなく、その特性と共存していくことが大切

障がいのある子どもの介護を辛いものとして訴えるのではなく、むしろ「一緒に生きてゆく楽しさ」として伝えている女性たちを取材してきました。

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杉之原千里さん(49歳・滋賀県在住) 「みいちゃんのお菓子工房」経営、会社員

自分らしくいられる居場所を――
「場面緘黙症」と闘う娘の
パティシエデビューを後押し

「みいちゃんのお菓子工房」は中学生パティシエのみいちゃんこと杉之原みずきさんのお店です。「5歳で自宅以外の集団生活の場で声が出せず体が動かなくなる“場面緘黙(かんもく)症”と診断されました。教室では固まり続けながら目に涙が溜まっていたことも。何かしたい、でも動けないという気持ちが伝わり、我が子の障がいを親が代わってあげられない辛さを感じました」。

みいちゃんは小学4年生で不登校になりましたが、「社会の接点になれば」と持たせたスマートフォンが転機に。 「お菓子作りのアプリに興味を持ち、独学で夜まで作り続けました。うれしかったですね。同時に自宅でしか自分を表現できない娘の貴重な時間を、無駄にさせてしまっていたことに後悔しました。学校が全てではないと」。

インスタグラムに作ったケーキを投稿。SNS上では人とコミュニケーションが取れたみいちゃんは、「いつか自分の店を持ちたい」と夢を語るように。試しにと、近隣の施設を借りて不定期カフェを開くと行列ができるほどの反響が。

「体が動けず仕事には到底結びつかなかった娘が生きていける場所を見つけました。義務教育期間中である小学6年生でお店を経験させることは常識ではあり得ませんが、娘にかける将来の学費と考え、投資をすることに決めました。その選択が娘が自分らしく生きられる唯一のチャンスなら、成人まで待つ必要がないと私たち家族は思ったのです」。

現在養護学校の中等部に通いながら月2回の日曜日だけ来店予約制で営業。「病気は克服させるのではなく、その特性と共存していくことが大切と知りました。ありのままでいい。そう思うと私も気持ちが楽になりました。苦手なことは機械や人に頼ることで補える時代に。娘を通して私も世界が広がりました。娘のケーキはたくさんの方に勇気を与える力を秘めている気がします」。

お客様の気配を感じられるすりガラスが良い距離感に。
「ケーキに表情があるのは、話せない娘がケーキを通してお客様と会話しているからです」
「娘が苦手な接客を代わりにしてくれる自動販売機を設置しました」
お店が営業していない時間帯にも購入可能。
建築だけでなく、その背景や社会課題との関わりが評価され’20年「グッドデザイン賞」金賞受賞

「変わるタイミングを与えたくて、聖火ランナーにチャレンジできたらと応募。双子の兄かあくんが伴走し、走ることができました」(杉之原さん)

<編集後記>障がいがなくても、親の望みは”子どもの笑顔”で共通

今回はメディアで話題の人気者に会えて、お菓子まで買えて最高でした。おいしかった(涙)。「まさかケーキ屋を始めるとは思いませんでしたが、我が子のためだからできる母親の強さだと思います」と千里さんがおっしゃっていましたが、どの親も子どもの笑顔のために前向きになれるのですね。母は強し!(ライター・孫 理奈)

撮影/前川政明  取材/孫 理奈 ※情報は2022年11月号掲載時のものです。

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