私の「子育て本」本好きママモデル・識者・経営者の選んだ一冊は?【後編】

SNSでなんでも知ることのできる現代ですが、子育てに悩んだ時にはやっぱり本を手に取りたいもの。検索では見つけることのできない新たな視点や元気をもらえる言葉に、きっと出会えるはずです。この記事では子育て中に何度も本に救われてきたと語る7人の推薦者に、「母になる」自分を助けてくれた本を紹介してもらいます。

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私の「子育て本」本好きママモデル・識者・経営者の選んだ一冊は?【前編】

推薦者・新井紀子さん
『はやねはやおき四回食 -幼児の食生活と料理230種』婦人之友社育児ライブラリー / 『私たちの選んだ子どもの本』東京子ども図書館

“子どもの成長とともに生まれる悩み。本からヒントを得て、工夫してきました”

娘が7カ月になり保育園へ入った頃、保育園で次々に感染症をもらってきて、預けているのか病気をもらいにいっているのかわからない状態でした。その時に、生活リズムを立て直そうと手に取ったのが『はやねはやおき四回食―幼児の食生活と料理230種』です。子どもの「体を動かしたい」「お腹が減った」「排泄したい」「眠い」という欲求を観察し、そのリズムを崩さないようにすると、スムーズに子育てができるというもの。これを実践し、土日も保育園と同じリズムで昼寝や食事をしたほうが、その後の一週間が楽だと気づきました。
そして少し時が経ち、娘が1歳になり言葉が出るようになった頃、今度はどんな絵本をどんなタイミングで選べばいいかわからず、『私たちの選んだ子どもの本』を手に取りました。長年子どもの本を集め、読み聞かせ活動を続けるなかで、子どもたちに支持されている絵本から児童書までを選りすぐって紹介しているので信頼できると思ったのです。
親が自分で選ぼうとすると、つい「ためになるいい話」を選びがち。でも、娘が何度も読んでほしがったのは、この本でも紹介されていた『おだんごぱん』や『プンク マインチャ』、小学校低学年になると『イギリスとアイルランドの昔話』『チョコレート工場の秘密』など、大人の価値観では測れない子ども独特の世界の話でした。その後、娘は大変本好きの少女に育ち、この本に出会えたことに感謝しています。

新井紀子

数学者。国立情報学研究所 社会共有知研究センター長・教授、一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のディレクターを務める。近著に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)がある。

推薦者・谷尻直子さん
『いのちを呼びさますもの -ひとのこころとからだ-』稲葉俊郎 

“「私一人が頑張っている」と感じていた時、その気持ちの怒りに任せない伝え方を知った”

心臓の専門医である稲葉先生は、患者の体だけではなく、心や命そのものとも向き合っています。『いのちを呼びさますもの』のなかの、〝感受性の高さは脆さや弱さにもなるけれど、どう捉えるかで対応が大きく変わる〟という言葉から始まる一節が、息子が1歳半になった頃の私にズシンと響きました。当時、仕事も子育ても家事も〝全部一人で頑張っている〟という感覚に陥っていた時に、憤りをただ怒りの感情として夫に〝ぶつける〟のではなく、自分で原因や感情をちゃんと咀嚼してから、理解してもらえるように〝伝える〟という考え方をこの本から学び、心がスッと軽くなりました。ただがむしゃらに無鉄砲に頑張らない、まずは相手にわかってもらうことを頑張ってみる。そんな〝頑張りどころ〟の正しい場所を示してくれたのです。

谷尻直子

料理家。渋谷区富ヶ谷で毎週金曜日だけ営む予約制レストラン「ヒトテマ」を主宰。近著にそこでのレシピを収めた『HITOTEMAのひとてま』(主婦の友社)がある。長男は4歳。

推薦者・齋藤美和さん
『ことばの食卓』武田百合子

“めまぐるしい日々にふと立ち止まり、リセットできる本”

私の大切な一冊は『ことばの食卓』です。筆者が作家であり夫の武田泰淳氏と枇杷を食べた日のことやバーゲンついでに入ったオムレツ専門店での情景など、ごく何気ない日常を美しい言葉で綴ったエッセイ。

子どもを授かり親になる。いつの間にか息子が私を〝親〟にしてくれたように思います。目の前のことで心が揺れ、悩んだ時、美しい言葉の世界に入り込みたいと、この本を手に取りました。10年間子育てをしてきて思うのは、毎日が飛び上がるほど楽しいわけではなく、ままならないことのほうが多いということです。その、ままならない日々をどう愛していくかを考えた時に、この本にあるような、小さなしつらえやささやかな日常をいかに大事にできるかだと常々思い出します。立ち止まり、リセットするために、これからもそばに置いておく本です。

齋藤美和

町田 しぜんの国保育園園長。書籍や雑誌の編集、執筆の仕事を経て、2005年より「しぜんの国保育園」で働く。主に子育て支援を担当し、地域の親子のためのプログラムの企画運営などを経て、2018年より現職に。

推薦者・坂本美雨さん
『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』古泉智浩 / 『がんこちゃん』萩岩睦美

“いろんな「親のあり方」を知り、親になることの意味を改めて考えています”

紹介する2冊の本は、〝親〟になるとはどういうことかを考えるきっかけをくれました。友人が、子育て中に励みになったと贈ってくれた漫画が『がんこちゃん』シリーズ。破天荒で感情豊かでまっすぐな女の子と、それに翻弄される家族の物語です。社会では〝しょうがないこと〟で済まされることにもがんこちゃんは立ち向かい、毎回いろんな事件を巻き起こすのですが、その時のお母さんの向き合い方に都度学ばされます。娘のいいところをひたすらに受け入れて、認める。それが社会的にどうであれ、彼女のことを信じる。私も母としてこうありたい、と思えました。4歳になる娘がどう受け取っているかはわかりませんが、もしどんなに状況的に彼女が悪いとわかっていても、わずかな言い分を聞いてちゃんと向き合うようになりました。

もう1冊は夫が見つけた『うちの子になりなよ』という本。6年間の不妊治療の末に、赤ちゃんを里親として受け入れることから始まる里親日記です。たとえ血の繋がりがなくても育てる過程は同じで、本当の親子になれる。産んだ・産まないではなく、深い関係を築いていける。一人の人間として娘との繋がりを築こうと思いました。里親になるのはハードルが高いと思われるかもしれませんが、〝養育里親〟という制度を知るとぐっと身近に感じられます。そして周りに里親家庭があれば、近くの家族や街がサポートしていく、〝社会で子どもを育てる〟ことが当たり前になればいいな、と思いました。

坂本美雨

アーティスト。音楽家である両親とともに渡米、ニューヨークで育つ。自身もアーティストとして活躍する傍ら、動物愛護活動をライフワークとし、大の愛猫家でもある。長女は4歳。

撮影/西原秀岳〈TENT〉 取材・原文/藤井そのこ 編集/湯本紘子

*VERY2019年9月号「検索では見つからない答えがあるから 「母になる」私を助けてくれた一冊。より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。