待ってました! 中国野菜の奥深さが堪能できる店がオープン/ひと皿の向こう側

近年、魅力的な店が続々とオープンしている中国料理から目が離せない状況が続いています。

あまり知られていない特定の地方の料理を食べさせてくれる店、ワインやシャンパーニュと味わうモダンなチャイニーズを楽しめる店、店主のセンスと技が光る個性的な店、そして、ホテルの華やかなチャイニーズレストランもマイ飲食店リストから外せません。

大人気のため予約困難な店も増えていて、神楽坂【中国菜 膳楽房】もそんな一軒。
その【中国菜 膳楽房】の姉妹店【中国菜 智林】のオープンに、思わず「待ってました!」と、心の中で叫んだのは私だけではないはず。

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メニューの中で特に目を引くのは、【中国菜 膳楽房】同様、珍しい中国野菜や旬の野菜などさまざまな野菜が味わえる野菜をメインにした料理。
意外な組み合わせやユニークなアプローチで野菜の美味しさを再確認させてくれる料理が並びます。食べたことのない中国野菜の料理を味わう楽しさも。

オーナーシェフの榛澤知弥(はんざわともや)さんが10年間修業した幡ヶ谷の【龍口酒家】が、野菜料理を多く提供していた店ということに加え、榛澤さんご自身も野菜好きということで、野菜料理を多く提供しているのだそうです。

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誌面でご紹介したのはこちら。

汽鍋(チーグォ)という鍋を使った「汽鍋の蒸しスープ」。¥7,000のコースに含まれます(4人分ですので、4人以上のオーダーで)。
雲南省の伝統料理で、一年を通してさまざまな具材で食べられているそうですが、キノコの産地として知られる地方でもあるのでやはりキノコの採れる時期の、キノコをたくさん入れた鍋が格別。

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こちらは今回使用した乾燥キノコ3種。

奥の白いキノコは四川省で採れたキヌガサタケ、手前右は福建省で採れたチャジュタケ、左が、栄養たっぷり、冬中夏草の一種であるサナギタケです。

具材は、大山鶏のひな鶏をベースに、3種の乾燥キノコ(写真)のほか、干しシイタケ、ヒラタケ、シメジ、カキノキダケ、生キクラゲ、ナツメ、干し貝柱、ネギとショウガは薬味として入れて、最後に取り出します。味付けは塩のみ。以上の具材のみを入れた汽鍋を、水を入れた鍋の上にのせて火にかけて5時間ほど蒸し煮にします。

鍋の中央にある小さな穴から出てくる水蒸気が循環することで、具材からは旨味やさまざまなエキスがしっかりと出ますが、具材自体の食感や旨味も保たれるところがこの汽鍋の素晴らしいところ。鶏肉もプルプルです。

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そして、こちらは「板春雨と香菜の炒め煮」(¥1,350)。

メニュー名はわかりやすく“板春雨”となっていますが、乾物の春雨ではなく、板状にした生の緑豆でんぷん(粉皮)を使用し、香菜とニンニク、塩で炒め煮にした一品。
ぷるぷるの食感は乾物の春雨とは別物。春雨好きならもちろんのこと、そうでない人でもリピート率の高いメニューだそうです。

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「自家製泡菜と魚の煮込み」(¥1,800)。

泡菜(パァオツァイ)とは、主に白菜を乳酸発酵させた四川の漬物で、酸味が特徴です。

白菜の泡菜と魚を使う四川の料理「酸菜魚」をベースにした一品ですが、この料理には白菜ではなくキャベツを使った自家製の泡菜を使用。
合わせる魚は白身魚、今回はイサキです。ほのかな酸味でさっぱりと、でも旨味はしっかりと感じながら食します。

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「黒くわいとイベリコ豚の炒め」(¥2,000)。榛澤シェフが、黒クワイには少し赤みのある豚肉を合わせたいと考え、イベリコ豚をチョイスしたという一品。

「黒クワイは炭水化物を多く含むので、その消化吸収を高めるためにビタミンB1を多く含む豚肉とナッツを合わせました。カシューナッツは香りと味のアクセントにもなっています」(榛澤シェフ)。

シャクシャクとした黒くわいの食感、イベリコ豚の旨味、カシューナッツの香ばしさが一体となって紹興酒へと誘われます。
紹興酒といえば……
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ご存知と思いますが念のためサクッと紹興酒の説明をさせていただきますと……黄酒(ホアンチュウ)は、米を原料とする中国の醸造酒で、浙江省紹興市付近で造られるもののみが「紹興酒」と呼ばれます。

こちらでは紹興酒も含む黄酒が20銘柄以上揃い、すべてグラスで味わうことができます。その中から榛澤シェフのお勧めを4本ご紹介。

右から、10年熟成で味わいは丸みを帯び、スモーキーさが際立つ「即墨老酒(ジーモウラオジョウ)10年深焦型」北方派 青島(グラス¥1,000)、伝統的な手作り製法、中国国際食品市で金賞受賞。「東湖(ドンフー)12年」江南派 浙江省(グラス¥800)、なんと内蒙古で育つ牛のミルクが主原料。「百吉納奶(バイジーナーナイ)」北方派 内蒙古(グラス¥900)、最新の製法で生まれたドライでフルーティーな味わいが特徴。「黒谷干紅(ヘイグー)」北方派 洋県(グラス¥750
いろいろ飲み比べてみたくなります。

「この店では、お酒を楽しみながらゆっくりと料理を味わっていただきたいと思っています。ですので、お酒にあう料理、ということを意識した料理が多いかもしれません」(榛澤シェフ)
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駅から少し離れた場所のせいか、神楽坂の喧騒もなく、ここでは時間の流れが緩やかに感じられます。

アラカルトの料理をつまみながらゆっくりとお酒を楽しむのもよし、4人以上なら、アラカルトにはない料理が組み込まれているというコースを試してみるのもよし、使い勝手のよい、大人が通える店の誕生です。
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中国菜 智林
東京都新宿区白銀町12-5 白銀ビル1
03-3268-3377  17:0023:00L.O.22:00
月曜休ほか、月に2回不定休 2019413OPEN

撮影/牧田健太郎 取材・文/齊藤素子 編集/川原田朝雄

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著者プロフィール:
「モキチ」ことライター齊藤素子。銀座・泰明小学校卒業。OLやギャラリー勤務を経て、1995年『VERY』創刊時にライター稼業を始める。食や旅のページを中心に雑誌やWEBで活躍中。その一方で、世界初の腰痛専門WEBマガジン『腰痛ラボ』では編集長を務める。