落合陽一さんに聞く「“持続可能な”ファッションの未来」

「ラグジュアリー」は「贅沢」という意味だし、ファストファッションは大量生産を連想させます。だからこそ、ファッション業界は「地球環境」的なテーマに常に敏感で、オピニオン・リーダーになります。私たちが持つべきサスティナブル・マインドについて、最近、SDGsに関する本を出版された落合陽一さんに、伺いました。

 

◉落合陽一さん

メディアアーティスト。1987年、東京生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。個展として「Image and Matter」(マレーシア・2016)、「質量への憧憬」(東京・2019)など多数開催。近著として『デジタルネイチャー』(PLANETS)、『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる 学ぶ人と育てる人のための教科書』(小学館)、写真集『質量への憧憬』(amana)。「物化する自然と人為の境界」を追求、イメージと物質、自然と計算機の境界などを探求し、計算機科学・応用物理・メディア芸術の枠を自由に越境し活動している。2児のパパ。

 

――落合さんがSDGsの本をいま(取材は2019年末)出されたのは。

「2年くらい前から、省庁で働いている人や、丸の内などで見かけるスーツ姿の人がSDGsのバッジを着けているのをよく目にするようになりました。話題になってはいるけれど、SDGsとは何なのか、誰に聞いてもよくわからない。それなら私が知識を深めながら本にしてみたい、と思って執筆したのがきっかけです。知らなかったことも含め勉強しながら書いたので、発売まで約2年かかりました。その中で、GDPR(EU一般データ保護規則)のことが話題になったり、これはヨーロッパ的な生存戦略とも関連があるのかな、と考えたりもしました。それらについても本の中では触れています」

――本の中にも、アメリカの大量生産・大量消費の「新しい」資本主義と、ヨーロッパのセカンダリー・マーケットで使い続ける「歴史のある」資本主義の対比の話がありました。そもそもファッションというのはサスティナブルとはベクトルが正反対のような気がしてしまうのですが。

「古着はサスティナブルですよね。ヴィンテージのジーンズは価値が下がらないものもありますし、adidasの回収シューズもGucciのエシカルな毛皮も持続可能だと思います」

――「サスティナと言えば」のステラ・マッカートニーもヨーロッパ。本に書かれていた「価値があると思われているものの価値をどうやって維持するのか」「価値がないものと思われているものをどうやって価値があるものに転換していくのか」に沿って編集部内の意識調査をしたものがあるのですが……。

「(読みながら)『同じコスパならファストファッションよりヴィンテージ(スタイリスト)』。それはそうですよね。『受け継ぐリユースって究極のサスティナブル(スタイリスト)』。たしかにそうですね。『フリマでサスティナコミュニケーション(ライター)』『ジュエリーはリメイクして使う(読者)』。これらも全部サスティナビリティだと思います。ヨーロッパのブランド製品のセカンダリー・マ ーケットでは、人の手を経てもその価値は下がらず、場合によっては新たな付加価値を得ることもあります。これからの日本でも古いものを長く大切に使っていくことがもっと重要な価値観になっていくでしょう」

SDGs(エスディージーズ)とは、Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標、の略。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人として取り残さない」ことを目標に、2015年の国連サミットにおいて全会一致で採択され、2030年の達成を目指す。

――以前、VERYにご登場いただいた時(2018年3月号、「『現代の魔法つかい』落合陽一さんができるまで」)、落合さんは洋服は「ヨウジヤマモト」一択と。それは今も変わりませんか?

「江戸時代はつぎはぎをしながら服を捨てなかったとどこかで聞きました。ヨウジヤマモトの洋服もそんな感じがします。以前、川久保玲さんが『どうして安い服を着るのか、私の服をぼろぼろになるまで着てほしい』という旨をおっしゃっていた記憶があります、それはその通りだな、と思いました。ファッションとしてハイブランドの服をぼろぼろになるまで大切に着るほうがファストファッションを次々に着回していくより重要だと思っています」

――山本耀司さんはあるインタビューで「大好きで、着込んで、その人の第2のスキンになるような服が理想」というようなことをおっしゃっていて。

「ヨウジヤマモトの服、サスティナブルだと思います。私は服を滅多に捨てないし、妻も背丈が同じくらいなので、夫婦で着回したりもしています。着込んでいるうちにほつれていく感じも味があってよいじゃないですか」

――ほんとにほつれてますね。

「もう少しほつれてくれてもいいのだけれど、くらいに思っています。サスティナブル・ファッションは、大切に長く着続けること自体がオシャレ、という文脈を作りつつあるのかもしれません」

――流行りものを選ぶだけでは個性は出せないと。

「渋くてもいいし、新品じゃなくてもいいじゃないですか。流行りのファッションを着なくていい、というのはけっこう意味があると思います。自分らしい服を着ていていいんです。ちょっと古くなって『味感』が出てきたぐらいがその人らしくてかっこいいと思います」

――落合さんはこの本を書くためにSDGsを勉強されたわけですが、自分がそうだったと。

「そう思うところも多いです。ヴィンテージが好きで、このバッグもヨウジヤマモトですが、相当長く、適宜補修しながら使っています。カメラも中古しか買いません。このLeicaのレンズは私の生まれた年のもので、30年以上たっても値段が下がっていないどころかむしろ上がっています。古くなったものを買い替える、買い替える対象がセカンドマーケットに流れてきたものであればサスティナビリティが高いし、メーカーがチューンナップしてもう一回流せば安心です。そういうのって、いいですよね」

使い込まれてほどよい「味感」の出ているヨウジヤマモトのバッグ。
シャッターチャンスを逃さないよう常に肌身離さず持ち歩いているLeicaのカメラ。レンズは落合さんの生まれた年のもの。

――長く使えるものを選び、長く使い続ける。

「古くなったファストファッションの服はダメになるものも多いじゃないですか。ですが、丁寧に作られた服、例えば古くなったエルメスの服は使えます。それは素材がしっかりしているからです。だから大量に作って大量に捨てるのではなくて、いいものを長く使うという価値観がこれからもっと見直されていくのではないかなと考えています」

『2030年の世界地図帳あたらしい経済とSDGs、未来への展望』
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これからの10年で世界に何が起こるのか。SDGsの枠組みをツールとして、GAFAMによる世界支配を推進するアメリカ、一帯一路で経済圏を拡大しようとする中国、SDGsやパリ協定を通じてイニシアチブを発揮しようとするヨーロッパ、未開拓の市場で独自のイノベーションを生み出すサードウェーブ(インド・アフリカ)と多様化する世界を俯瞰し、その中で日本の進むべき道を探る。

撮影/吉澤健太 取材・文・編集/フォレスト・ガンプJr.