加熱する中学受験、子どもに無理のない学校に入れたい [受験進路相談室]

Kさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小4)、次女(保育園年少)
【今回相談する子どもの状況】
長女9歳 バレエを週2。公文など勉強系は通ったことなし。小4の2月から希学園に入塾予約。
来年の2月からの入塾予約をし、中学受験に挑戦することにしました。ただ、今住んでいるエリアの中学受験の過熱ぶりを見て、子どもの無理を強いない範囲で、入れる学校に入る、を始める前の私の約束事にしようと思ってるのですが、それは実現可能なのでしょうか…。
また、私自身、女子校出身でコンプレックスがあるので、できたら共学に、と思ってるのですが、名の知れた共学に入るなら、それなりの頑張りが必要ですよね…。それに共学でいうと、中学受験で大学附属校に入れちゃうのももったいない気がしていて迷っています。またパパは公立育ちなので、公立でもいいと思ってるから、やるなら私が塾代を出すことになるはず…仕方ないですよね、よくあることですかね。

K:自分の中学受験はすごく楽しくて、いい成功体験でした。でも今はすごく大変だとも聞きます。娘にもいい経験をしてほしいと思うけど、それは甘いのかなって。あと、自分が2校受かって、行きたい学校はレベルが高いほうだったんだけど、母親に「無理しなくていいんじゃない」って言われて、偏差値的には低いほうに行ったら、6年間ずっとほぼトップの成績を取れてすごく楽しかったんですよ。だから、偏差値だけじゃないなとわかっているし。だから悩みとして言うならば「ゆるい中学受験じゃだめですか?」ということです。それと、私自身に女子校コンプレックスがあるので、共学に入れたいんですけど、そこそこの共学ってやっぱり難しいですよね。「あんまり無理はしたくない、でも共学には入れたい、甘いですか?」みたいな。

おおた:そこそこのレベルってどれくらいをイメージしているんでしょう?

K:四谷大塚の偏差値で50ちょい上くらいとか? 私は大学が青山学院大学でした。中学受験の成績では青学なんて絶対に受からなかったけど、最終学歴では並べちゃったみたいな経験もあって。だからいまは大学付属校が人気だと聞きますが、大学で外を受ける生徒が多い学校のほうがいいかなとも思っています。

おおた:女子校がすごく楽しかったのに、女子校コンプレックスがあるというのは?

K:まず、男性の友達がいない。今も一人もいない。あとは、男性を見る目がなさすぎる(笑)。結果、今の夫で良かったかもしれないけど、結婚相手を選ぶって就職とかよりも一番大事なのに、その目を女子校では養えない。みんな10代から20代、悪い男としか付き合ってないんですよ! 出会いも合コンしかないし、結婚相手を選んだり男性を見る目がなさすぎて、それがちょっとなぁって。しかも、うちは姉妹なので、日常的に男性がいたほうが健全かなって。それに女子校時代の友達は働いてない人が多いんですよ。今は時代が時代だから変わってるかもだけど、社会で活躍する子にはなってほしいし。

おおた:まあそうすると、あと数カ月で中学受験生活が始まるよという時に、いろんな不安がわーっと押し寄せているっていうことですね。

K:そうです。

女子校と共学校のどちらに行っても、最終的に男性を見る目が養えていればいいと言うのであれば、いい男をお母さんがたくさん見せてあげればいい

おおた:まず、みんな最初は不安だよっていうことと、その中でお母さんが中学受験に良い体験を持っていることは、お子さんの中学受験をサポートする上での一つのリソースではあると思うんです。

K:あとは、学校見学が全然できなくて、これが続いていくならどうやって学校を選んでいいか悩みます。一方で、コロナによって、上手にオンラインにできたとか、逆にそうじゃない学校も聞くし。ちょっと閉鎖的で小規模な学校だと、校長先生のさじ加減に左右されちゃうとかも聞くし。コロナでこうなった今、学校選びの新しい知見が必要なのかなって。

おおた:基本的にはコロナだからって学校選びの基準を変える必要はないと思う。オンラインにパッと切り替えられた学校は、単にトップダウンな組織だという可能性もあるわけで。中国やロシアのコロナ対応が迅速だったのと同じ理屈で。

K:じゃあ、あまりブレないほうがいいんですね、コロナだからどうっていう。

おおた:あとは文化祭をどうしたかとかも、生徒中心で考えているかどうかを見る基準にはなります。そもそも学校行事は生徒たちが楽しむためのものなのに、近年は特に文化祭が受験生の親子向けになってしまっていて、それって学校としてどうなの?って僕は元々思っていたので。今回は外部の人は入れませんよっていうところがほとんどで、例がない状態で、子どもたちがどう振る舞ったのか、どこまで子どもたちに任せたのかが大事かなと思います。例えばオンライン文化祭をやりましたよと。子どもたちが頑張って作ったのなら、大人から見て稚拙に感じるところがあっても、むしろそれは生徒中心の学校であることの証しなんだろうなって僕は評価する。あとは女子校を避けるのかどうかっていう話もしておきましょうか。女子校と共学校のどちらに行っても、最終的に男性を見る目が養えていればいいと言うのであれば、いい男をお母さんがたくさん見せてあげればいいんですよ。娘さんと同年代である必要はありません。逆に共学に行くのであれば、どうしても異性の目を気にしちゃうと思うので、ジェンダーロールに囚われないように仕向ける会話をしてあげるとかね。どっちにも構造的なメリットとデメリットがあることを意識して親がフォローしてあげれば、それは子どもがちゃんと乗り越えていくと思うので、どっちに行っても大丈夫ですよ。いずれにしろ、最終的に子どもに選ばせてあげるのが大原則。子どもの本心は聞いてあげてほしい。

K:でも、共学人気なんですよね。

おおた:それは誤解されていて、大学附属校人気なんです。大学附属校が、附属校としては共学にしなきゃマズイよねってなって、2000年くらいから共学化して、それが共学人気と重なってるだけ。

「これくらいでいいんじゃない?」って親が言った時に、「ママ、私はそれじゃ嫌だ」って言った時が一番強いですよ。それを待たなきゃ。

K:やっぱり大学受験はすごく大変になってるんですか? 昔だったら私のいた中堅女子校からでも青学に入れちゃったんですけど。

おおた:それは今も変わらないと思う。

K:そうなると、ちょっともったいない気がしちゃうというか。

おおた:もったいないとは?

K:私は中学受験では青学に入れない成績だったけど、大学では入れた。中学から慶應に行くのは大変だけど、大学なら入れるんじゃないかとか。だからそのへんの附属校とかに行くよりも、大学で慶應に行ったほうがいいのかなっていうか。

おおた:いいのかな、っていうのは?

K:最終学歴は欲しいのかも。そうそう、そこはゴール。そこにも根拠はないんですけど、肩書を言うとしたらそこしかないから、だったら良いほうがいいのかなって。そこをゴールとしたら中高で附属じゃなくても、大学受験をゴールにしたらいいかなって。

おおた:そしたらね、いい方法がありますよ。高校なんてどこでもいいので、鉄緑会って塾に入ればいいですよ。

K:何それ? いつ入れるの? それってすごい大変じゃないですか? 初めて聞いた。

おおた:ダントツの東大合格率。

K:東大までは無理じゃない?

おおた:いや、今、皮肉で言ったんですけどね(笑)。最終的に入る大学のブランドを気にするなら、中学受験しない選択もあるじゃないですか。都立高でも良い大学に入れるし。それでも中学受験をするのは?

K:そもそも都立高出身者のイメージがわかないというか、未知すぎる。あとは大学受験で浪人してるイメージがある。でもそれは、私が知らないだけですね(笑)。

おおた:無理はしないでそこそこの中高一貫に入って、東大は無理でも早慶くらいに入ってほしい、大学附属校だとそのまま上がっちゃうのはもったいないというイメージをお持ちですよね。でも世間一般で言えば、たとえば中大附属に入ってそのまま中大に行って何が悪いの?って思う人もいるだろうし。

K:そうですよね。早慶以外だともったいないって思うのかも。でも、中学から早慶には絶対に入れないから。それを目指すと、うちの場合は無理強いをすることになるから、それが怖いんでしょうね。

おおた:最終的には早慶くらいの大学に入ってほしいという思いがありながら、当面、これから中学受験を始めるにあたっての不安ごとというと……?

K:始まる前の約束事を決めたいです。最低限の生活ルールとか。うちは結構テレビがいつもついちゃってるので、それをやめなきゃいけないなとか。そういうのも一回整理したいなって。途中で言うのって難しいから、最初から約束しておいたほうがいいですよね。

おおた:その心がけは素晴らしいですね。

K:うまくいっている家の人たちはこうしてますよとか、あるなら知りたいし。

おおた:それはわからないなぁ。一般化できるものはないと思うんですよね。よその家を真似するより、Kさんの家庭の良さを生かしたほうがいい。でもいきなりいくつもはできないから、まずは一つ、約束事を決めましょうか。

K:無理強いしない。

おおた:じゃあ、無理強いしないためにはどうしたらいいかを考える。どういう時に一番無理強いしちゃいそう?

K:無理強いしないと言いながら、多分上を目指しそうだなって。

おおた:上を目指す気持ちが出てくるのは良いことで、それが最終的に子どもを傷つけなければいいですよ。

K:あとは、「◯◯ちゃんはクラスが上がった」とか余計なことを言っちゃいそう。

おおた:じゃあ、人と比較することは絶対に言わないとかね。それがちゃんとできたら、もう一つ実践しようというように、一つずつやっていくのがコツかなって思います。まずは人と比較しないことから始めましょうかね。

K:そうですね、言いそうだから。一方で、私、「このくらいでいいんじゃない?」とかも子どもの前で言っちゃうんですよね。

おおた:それはいいんじゃないですか?

K:塾選びでも「上のクラスじゃなくて普通のコースでいいんじゃない?」って落としどころを勝手に決めがち。「親がそういう態度だと子どもはそれ以上伸びないよ」とか言うじゃないですか。

おおた:それは明確に否定します。そういう風に思っている人がいるから、子どもを焚きつけてギリギリまでやらせるわけで。逆に、「これくらいでいいんじゃない?」って親が言った時に、「ママ、私はそれじゃ嫌だ」って言った時が一番強いですよ。それを待たなきゃ。子どもが自分では限界まで頑張ったのに「まだいける!まだいける!」って言われ続けたら、壊れちゃいますよ。常にギリギリまで追い込めば中学受験ではすごい結果を残すかもしれないけど、親子関係としては成功だとは思わない。子どもが甘えているのを見ると厳しいことの一つでも言ってやりたい誘惑に駆られるだろうけど、そこは我慢する。そこで子どもが「これじゃ嫌だ、もっと頑張る」って言い出したら大儲け。

K:あと、夫は中学受験に前向きじゃないから、塾代は私の稼ぎの中から出そうと思っているのですが、それは仕方ないですよね。

おおた:それは危険です。

K:えっ、危険なの⁉

おおた:だって、お父さんの協力や理解は絶対に必要になってくるので。うまくいかなくなった時に「だからやめろって言っただろ」ってなる。それに、「私が塾代を出してるんだから、口を出さないで」ってなるし。お金はどちらの財布から出してもいいと思うけど、夫婦でちゃんと握れてないと、うまくいかない時にお互いのイライラが子どもにいくから、今のうちにしっかり話し合って理解を得ておいた方がいい。今日の話の中でそこが一番重要かも。

K:なるほどね。ありがとうございます。でも、楽しみたいなって。自分がすごく楽しかったから。塾も楽しかったし、テストの成績が返ってくるのも楽しみだったから。

おおた:娘さんにも同じように思ってもらえるといいですね。

【 おおたさんからひとこと 】

ご自身の中学受験がよほどいい体験だったのでしょう。娘さんの中学受験を前にして、期待に胸が膨らんで、期待しすぎちゃいけないと自分をたしなめる気持ちと葛藤しているようでした。娘と自分は別人格だということを常に意識して冷静にふるまえれば、きっと上手なサポートができるでしょう。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。
著書は『中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉』(小学館)など60冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano 編集/羽城麻子

 

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