マンガ家・東村アキコさんインタビュー「生きてゆくうえで本当にためになったのは『パタリロ!』です」

東村アキコさん

1975年、宮崎県生まれ。昨年は、芸術の各分野において優れた業績を挙げた人などに贈られる「文部科学大臣新人賞」を受賞。ヒット作多数で、『かくかくしかじか』でマンガ大賞、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞(ともに2015年)。『東京タラレバ娘』の英訳版も最優秀アジア作品賞に(2019年)。

昨年発売された『稲荷神社のキツネさん』(光文社)は累計6万部突破。最新作はWebにて日韓同時連載された『私のことを憶えていますか』(文藝春秋)。30歳女性ライターが主人公で、初恋がテーマの作品。


★ 私自身、いま大切な知識・教養の9割りを子供の頃に読んだ『パタリロ!』から学びました

私が〈漫画家になる! 「ぶ〜け」でデビューする!〉と心に決めたのは小5の時。「ぶ〜け」に載っていた逢坂みえこ先生の作品を読んで、和風でこんなに文学的な少女マンガがあるのか、と衝撃を受けました。実際「ぶ〜け」が休刊するギリギリ前にデビューが決まり、父親は喜んでましたが、母親には「お習字の先生になってほしかった……」と(笑)。

また、「りぼん」っ娘でもあったので、岡田あーみん先生、さくらももこ先生、一条ゆかり先生は好きでしたが、生きてゆくうえで本当にためになったのは「花とゆめ」に連載されていた魔夜峰央先生の『パタリロ!』だったかもしれません。

当時、学校も家も保守的で、教えにくいことは全く教えない時代。それをすべて『パタリロ!』は私に教えてくれました。〝LGBT〞〝相対性理論〞も。大変勉強になりましたね。

私の『ママはテンパリスト』は、実は、おまけマンガとして1回限りのつもりで、7〜8時間ほどで描き上げたものでした。ところが、毎回やりましょうよ! ということになり、自分の今の子育て近況を周りに知らせる情報共有として、それに写真やビデオを子どもに撮ってやれなかったので、日記代わりになればと思って続けることにしました。

最初は、ほとんど反響がなかったのですが、単行本を出す段階で、〈今までこんな子育てマンガはなかったから少しは売れるかも?〉と思ったら、同世代のママたちが買ってくれて! 週に2回増刷がかかり、初めてバズった作品でした。

〈これでやっていける!〉と実感できて、自分のルートができたマンガ。子育てしながら描いていましたが、締切りとか子どもの熱とか、〈もう限界だ!〉と思ったことは何回もあります。世の中のお母さんたちは、こんなスゴイレベルのことをしていたのか……と痛感しました。

実は最近、あの頃の日々を毎晩思い出し、〈1日でもいいからあの日に戻りたい〉と思っては泣いてしまうんです。子育てが大変だったけど、あっという間、ほんの一瞬の楽しい日々でした。

今、息子の〝ごっちゃん〞は中学3年生。マンガ雑誌や単行本でなく、スマホでマンガを読んでいます。時代ですね……。

ただ、ひとつだけでも息子と自分の共通点を作ろうと、「和文化」を大事にしています。日本の伝統文化を学ばせていて、お正月も鏡餅に使う裏白を取りにいかせたり、上にのせるミカンもわざわざもぎ取りにいかせたり。袴を着て、中1から茶道を習っていて、私が着物を着るときには帯結びを手伝ってもらっています。

そのうち大きくなって、誰かにさりげなく帯の手伝いをしながら「昔から母親の帯を手伝っていたんだよね」と言えたらカッコいいかな……、と(笑)。息子は最近、三味線にも興味が湧いてきたようでうれしい限り。背が伸びきったら、着物も作らせたいなと思っています。

撮影/杉本大希〈人物〉、清藤直樹〈静物〉 ヘア・メーク/里美(竹邑事務所) スタイリスト/関谷佳子 取材/東 理恵 ※情報は2021年4月号掲載時のものです。

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