【中学受験㉘】電車通学に見る「他人の目線は最高の美容液」

「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を綴っております。せっかくのファッション誌での連載ですので、今回は変わった角度から眺めてみる中高一貫校の小さなメリットを語ってみましょう。


私立中高一貫校に通う生徒さんの多くは公共交通機関を利用しての通学になります。
業界では「平均60分、限界90分」と言われておりまして、通学時間の制限時間(その多くはドアツードアで90分未満)を設けている学校もあります。

ここにも、地元公立中学に進学するのとは違う日常生活が現れます。地元に通う場合は徒歩にしても自転車にしても、通学時に出会う人たちは当然ながら地元の人が中心。
一方で、電車やバスなどを利用する中高一貫校組は不特定多数の人たちとすれ違いながら通学することが一般的です。
その多くは制服着用組ですので、極端に言えば毎日「学校の看板」を身にまとって歩いているようなものですね。

それゆえ、特に電車の中などでは他人様からの視線を感じるケースも多々あるかと思います。
それは「〇学院の生徒さんね」という場合もあるでしょうし「あの可愛い制服、どこの学校かしら?」というものもあるでしょうし「白いセーラー服ってことは、そっか衣替えか」と季節の変わり目を実感させてくれるアイテムになることもあるでしょう。

(中には「制服によって身バレするので『お宅の生徒が電車の中でうるさかった』などのお叱りを受けるケースもあって、その度に対応に追われる」とおっしゃる学校の先生もおられるので、先生というお仕事も大変です)

もちろん、制服を着ているからといって、多くの大人たち同様、風景の中の一部に溶け込んでいるのではありますが、そこには、一瞬ではありますが、様々な人の視線が注がれます。
ここが、ちょっとだけですが、自宅からの徒歩通学とは違う日常なんですよね。

よく芸能関係の人たちが「他人の目線は最高の美容液」と語ることがあります。
つまり人に「見られること」で芸や美が磨かれていくということなのですが、中高一貫校の生徒さんたちにも同じような効能がうっすらではありますが、あるように思います。

女性でも男性でも、見られることで綺麗になっていったり、居ずまいを正したりすることは当たり前のようにあることですよね。
視線を感じると、見られていることを意識するので、自分がどう見えているかを注意するようになります。
例えば、ほんの少しだけ姿勢を正して立ってみるとか、勇気を出してお年寄りに席を譲るなどの「一日一善」をやってみたりと、見られることにより、積極的に“善い行い”をしていく方向に舵を切るキッカケになることもあるでしょう。
善い行いを他人にアピールするということではなく、そのことによって、ほんのちょっとだけ自分に自信を付けていくことが出来るということに意味があります。

可愛い制服で大人気の中高一貫女子校を卒業されたOG(社会人3年生)がこんなことを教えてくれました。

「ウチの学校は本当に就活に強いと思います。事実、部活の仲間は同学年で20名ほどいたのですが、その全員が第一志望にしていた企業、あるいは職種に就いています」

彼女が言うには、それは「6年間の制服効果」も大きいのだそうです。

「この制服はすごく目立つので、人目を引くんですよ。自意識過剰ということではなく、この学校出身の生徒は他人からの視線を感じることは多かったと思います。これが嫌な子には向かない学校なんですが、この視線をプラスに捉えることが出来る子にはすごくいいと思うんです」

もちろん、そこにはプライドをくすぐられることによって「意識すればするほど綺麗になっていく」という女の子特有の法則が働いているのでしょうが、この他にも、視線をちゃんと受け止めて、自分がどう見られているかを意識していく経験値を積むことによって、自分自身を客観的に見られるようにもなるという大きなメリットがあるのでしょう。

彼女は「良い意味で自分の見せ方を知っている子が多い」と教えてくれましたが、この経験値が就活などの自身の長所をアピールする場で効果を発揮するということなのだと理解しました。

先日、あるドクターに取材しておりましたが、そのドクターがこんなことをおっしゃっていました。

「僕の私生活は本当にダメダメでグダグダなんですが、でも、医者の制服とも言える白衣を着ると違うんですよね。スイッチが『ON』になるって言うか。医者としての使命感がほとばしる(笑)。たかが白衣、されど白衣ですよね・・・」

このドクターだけではなく、多くの大人たちも、この制服効果(例えば、スーツにネクタイをしめるとか、ヒールのあるパンプスを履くとか)によって、見事に「ON」と「OFF」が切り替わっていることと思います。

「たかが制服、されど制服」。意外と深い話かもしれません。

中高一貫校の制服も、こういう目線も入れて眺めてみると、我が子に合う学校を選ぶ一助になります。

鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト

2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。

その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。

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構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香

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