【中学受験㉚】夫婦の絆が深まる中学受験の話

「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を綴っております。そろそろ、時は中学受験本番。今回も、受験直前の注意事項を語ってみることにしましょう。


「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を綴っております。そろそろ、時は中学受験本番。今回も、受験直前の注意事項を語ってみることにしましょう。

とにかく受験が終わるまでは、夫婦仲良くが鉄則です。
受験生はただでさえナーバス。おまけに中学受験は12歳(11歳)の受験です。生まれてはじめてというほどの緊張感を味わいますので、実力を出し切るためにも、出来る限り落ち着いた環境で受験直前を過ごして欲しいものです。

この場に及んでも、子どものちょっとした態度(やる気が見られないとかゲームに没頭しているなどの理由が多いです)に片方の親がブチ切れ、それが発端となって壮絶な夫婦喧嘩に発展するケースも沢山聞き及んでおります。
当然、その間、子どもは勉強を集中してやれる環境にはいませんから、この時期の夫婦間の揉め事は百害あって一利なしです。

私は常々「中学受験は夫婦の今後を占う試金石」と呼んでおりますが、子どもの受験というものは、家族が紡いでいく歴史の中でも大きなものなのだなぁという思いを持っています。

受験ですので、どうしても結果が出ます。特に東京・神奈川受験は2月1日より午前・午後と連日連戦となりやすいので、不本意な結果が出た時に家族がどういう言葉をかけ合い、受験生である子どもを上昇気流に乗せていくのかは、大人である夫婦の連係プレーの腕の見せ所なのです。

3年前の受験でこういう家族がいました。

2月4日の時点で、合格は1校のみ。5連戦で4勝1敗です。その1勝も押さえ校という位置付けだったそうで、母子に笑顔は見られませんでした。
残すは2月1日と2日に受験して不合格となった第一志望校の3回目入試のみ。
しかし、その学校の倍率は約10倍。とても合格できるとは思えない空気だったそうです。

塾から「第一志望校、合格間違いなし!」と太鼓判を押されての受験だっただけに、母子のショックは大きく、子どもは自室から出てこず、「もう受かり方が分からない・・・」という泣き声が聞こえて来たそうです。
それを耳にしたお母さんはお母さんで「自分の誘導が悪かったに違いない」と打ちひしがれ、号泣。明日の受験は不戦敗のムードが漂っていたといいます。
 
ここで、この一家の主、お父さんが登場します。海外単身赴任中だったそうですが、急遽、帰国し、家族の元に駆け付けたそうです。
そして、子どもとふたりきりになって話をしていたといいます。

後で子ども自身にお母さんが尋ねたところ、父親は子どもにこういう話をしたようです。

「試練は必要な時に訪れる。今、オマエは生まれてはじめての試練に出会っているタイミングだな。いいか、チャンスは掴もうとする人間にやってくる。第1志望校がもう一度、オマエにチャンスを与えると言っているんだ。掴もうと手を伸ばすのか、無理だと諦めるかはオマエ次第。オマエの未来を切り拓いていけるのはオマエだけだ。自分で決めろ!」

そして、泣いて謝る妻に向かって、こういう話をしてくれたそうです。

「いや、こっちこそごめん。中学受験が大変なことは自分も経験しているだけによく分かっていたのに、結果として、君にすべてを押し付けていた。
でも、俺は、これは本当に俺ら家族にとって、いいことだと思っているよ。この経験は決して、アイツの人生にとって無駄にはならないから。大丈夫。俺らの子だ。きっと這い上がってくるから」

その夜更け、子供部屋から子どもが出て来て、両親に向かってこう言ったんだそうです。

「心配かけてすみません。でも、明日、僕は全力であの学校に挑みます。見てて!僕は絶対に逃げないから!」

お母さんは、その言葉を聞いて、私に、その夜、こういうメールをくれました。

「りんこさんが言っていた言葉の意味がようやく分かりました。中学受験って我が子が今、この瞬間に大きくなったって実感できるものなんですね・・・。私は息子のこの言葉が聞けただけで、もう十分幸せです。私も、もう泣きません。最後まで、息子を精一杯、応援してきます」

結果は合格。家族で抱き合って喜んだそうです。
 
お母さんはその後、こんなことを教えてくれました。

「主人がこう言ってくれたんです。『本当に君には感謝している。頑張ってくれて、ありがとう』って。普段は素直になれない私なんですが、あの時は本当に『この人と結婚してよかったな』って思いました」

この家族のお父さんは相変わらずの海外単身赴任中で、コロナもあって帰国が難しいそうですが、今は文明の利器が発達しているので、毎日、連絡を取り合って、家族の絆を深めているとのことです。

一生の一度の中学受験。結果の如何にかかわらず、家族の歴史の中でもビッグイベントのひとつになるでしょう。できれば、家族が支え合って、この“試練”を意味あるものにしてもらいたいなぁと願っています。

鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト

2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。

その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。

ブログ:湘南オバちゃんクラブ https://note.com/torinko

Facebook: 鳥居りんこ: https://www.facebook.com/rinko.torii

構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香

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