“養子縁組を選択して母に”TBS・久保田智子さんに響いたある言葉とは?

VERYで掲載中の人気連載企画「家族のコトバ」。「親になる」ということにしっかりと向き合う時間を持ち、特別養子縁組を選択して母になった、元TBSアナウンサーで現在はTBS報道記者として活躍中の久保田智子さん。血縁だけじゃない、家族という単位の多様性の大切さを考えさせてくれました。

(この記事は、VERY2022年7月号に掲載された内容です)

こちらの記事も読まれています

▶︎青山祐子さん「5ヶ月の日本生活を支えたのは?」

「養子縁組」を選択した理由

「将来子どもを産むことは難しいでしょう」と私が医師から告げられたのは20代初め、生理不順でクリニックを訪れたとき。不妊症という現実にショックを受け、自分は結婚せずにずっと一人で生きていくのかな、と考えていました。アナウンサーとして笑顔で仕事をする一方、自分の中には寂しさや絶望がありました。私と結婚することで「私の不幸=子どもが産めないこと」に他の人を巻き込んではいけないと思っていました。

そんな思いでいた20代後半のある日、TVで特別養子縁組のドキュメンタリーを観る機会がありました。それは、取材を受けている幸せそうな家族が、その事実を自然に語っていることにも驚き、母にはなれないと思っていた自分の未来に、大きな希望が持てた瞬間でもありました。

■ 夫のコトバ

「僕は智子より先には死なないから」

養子縁組という選択を
ともに選んでくれた夫

他局で政治部の記者をしていた夫とは勉強会で知り合いました。付き合い始め、そして夫のNY赴任が決まったとき、あっという間に結婚という流れに。夫は「月9」ドラマを愛して育ち、それを地でいくような熱い心の持ち主。一緒にいることの大切さや「僕は智子より先には死なないから」など私が彼を頼っていいんだと思えるコトバをいくつもくれました。プロポーズされた際に不妊のこと、特別養子縁組をしたいと思っていることを伝えました。反対されるかもしれない、結婚できないと言われるかもしれない……という私の心配は全く必要なかったぐらい、夫はすぐに賛成し、受け入れてくれました。あまりにも簡単に快諾してくれたので「本当にわかっているのかな?」と訝しんだほどでした(笑)。

夫との会話はもっぱらキッチンで。話題のメインは家事育児の分担確認とテレビ論、政治論(笑)。

親になる覚悟と決意、そして
周囲の理解を得ること

退社し、夫とともにNYへ。現地ではコロンビア大学で「オーラルヒストリー」を学んでいました。久しぶりの学生生活をしながら、ネットで特別養子縁組を斡旋してくれる民間の団体を調べました。3年半の赴任生活を終えて帰国後、いくつかの団体に問い合わせ、その中で信頼できて相性が良いと感じた機関にお願いすることにし、そこで私たち夫婦の担当をしてくださったのが相談員の鈴木さんでした。

特別養子縁組は、さまざまな事情で親と暮らすことができない子どもたちを、実子として迎え入れる制度。縁組を望む夫婦は、どんな子どもでも育てられるか、愛する覚悟があるかを問われます。特別養子縁組に限りませんが、子どもには様々な個性があり、受け入れる子どもには障がいがある可能性があること、抱えている問題が大きいかもしれないこと……相談員の方によると話を聞いた養子縁組希望者の半数ほどは、そこで登録はしないという結論に達するそう。自分で産んでいない子どもを愛せるのだろうか? 子どもに愛してもらえるのだろうか? 考えても答えの出ないことばかりでした。

夫婦で自分たちがなぜ子どもを欲しいと思っているのかをとことん考え、話し合いました。その理由を決してはっきりと見出せたわけではありませんが、子どもと共に人生を歩みたいという気持ちに揺るぎはなく、確認し合えました。それでも周りの理解を得ることには不安がありました。特別養子縁組は、自分たちの両親やきょうだいなど子どもに関わるすべての人の受け入れ態勢が整っていないと難しい。幸いなことに不安をなくし、みんなで子どもを受け入れようという結論を出せたことは本当に感謝しています。2019年、私たち夫婦は生後4日の女の子を我が家に迎え入れました。

 

NEXT>>>娘の成長を一緒に見守ってくれる相談員さんからのコトバ

娘の成長を一緒に見守る「相談員さんの言葉」とは?

■ 相談員さんのコトバ

「心が育っているから泣くんです」

子育てを支えてくれる
信頼できる相談員との出会い

特別養子縁組はあくまでも子どものための制度です。大人の都合で養子にできる制度ではないし、もちろん性別も選べません。3歳までに出来上がる「愛着形成」の基礎をいかにきちんと根付かせるかが将来の「人を信頼できるかどうか」に関わるとわかってきています。相談員の鈴木さんとの出会いがあったから、繫がった娘との縁。保育士の資格を持ち、多くの子どもたちを見てきた鈴木さんには今も子育てを含むさまざまな相談に乗ってもらっています。泣いて何かを伝えようとする娘を「心が育っているから泣くんです」と戸惑う私に教えてくれたのも彼女です。最近、自立心が芽生えて自分の世界を持ち始めた娘の成長を一緒に見守っていてくれ、娘も、彼女のことが大好きです。

生活クラブ風の村 ベビースマイルの相談員で保育士でもある鈴木久美子さんは育児の良き相談相手です。

相談員の鈴木さんが製作した特別養子縁組を描く絵本。読み聞かせも開催予定。

NEXT>>>私が生まれたときママは何をしていたの?

「私が生まれたときママは何をしていたの?」

■ 娘のコトバ

「私が生まれたときママは何をしていたの?お買物?」

娘に伝える
「産みの母」の存在

産みの母の存在を娘にいつ伝えるか。私がお世話になっている団体では早めに子どもに話し、小さいうちから自然に受け入れたほうが子どものためになるという考えでした。私は娘が2歳半を過ぎた頃から、産みの母の存在を話しています。あなたにはママ以外にも産みの母がいること、産みの母があなたを託したのは、あなたの将来を思ってのことであること。娘は「私が生まれたとき、ママは何をしていたの?お買物?」と(笑)。時間をかけながら少しずつ理解してくれたらいいと願っています。

家族とは最初からあるものではなく、時間とともに徐々に作られていくものだと今では感じるようになりました。それまでは、急に母親になり、この子の母は私で良いのかと葛藤もありましたが、それでも毎日一緒にいて、ともに過ごす時間が積み重なれば重なるほど、家族になれることを実感中です。

そしてそこから家族の多様性についても思いを馳せるように。それぞれの家族にそれぞれの形があり、同じである必要はないんだなって。例えばLGBTQの家族の形。イベントで多様な家族像について意見交換したり、公私ともに交流する友人もできました。

自分の世界を持ち始めた娘の成長は頼もしくも寂しくもあります。

対話できる家族のあり方や
家族のさまざまな形を広めたい

現在はTBSに戻り、アナウンサーとしてではなく報道記者として仕事をしています。以前と大きく意識が変わったのは、経験者だからこそ寄り添える取材をしたいと思っていて。まず取り組んだのは、子どもを特別養子縁組に出さざるをえなかった生みの母の取材でした。

また、NYで出合った「オーラルヒストリー」という分野を東京大学学際情報学府にて研究中です。報道というのは、客観的事実が重要ですが、「オーラルヒストリー」は当事者から話を聞き、個人の〝主観的事実〟を大切にした手法です。人の記憶を通して歴史を考えます。個人的には相談員の鈴木さんが作った特別養子縁組の絵本を読み聞かせるYOUTUBEの発信もしていく予定です。

次なる課題は多様化する家族間のコミュニケーションの取り方。私自身、厳しい父のもとで育ち、子ども時代は自分の思いを家族に伝えられなかったので、次世代の子どもたちにはもっと対等なコミュニケーションを通して家族の関係を深めてもらいたい。現在、姫路女学院高校で月に一度、リベラルアーツの授業をしています。高校生が家族と対話することで、仲の良い家族はもっと仲良く、もし関係性に問題がある場合には変化のきっかけになってほしいと思っています。

これからもますます多様化していくだろう家族間のコミュニケーションを私の経験も加味しながら模索していくことをテーマにしていきたい。さまざまな家族の形があることを受け入れる社会を作る、その一端を担えたらと思っています。

久保田さんのHistory

今の娘と同じ年齢か少し上ぐらいの頃。当時は神奈川に住み、中学に入り広島へ。

高校時代。厳格な父とあまり褒めることをしない母、という家庭環境でしたが、アメリカにホームステイで行ったことが家族の対話の大切さについて考える機会に。

アナウンサーとして働いていた頃。

勉強会で知り合った他社の政治部記者だった夫との結婚式。退社して夫の赴任先、NYへ。一緒にいることの大切さを伝えてくれる熱い思いを持った人。

NY時代。コロンビア大学でオーラルヒストリーに出合い、修士号を取得。

娘との縁をもらい育て始めたばかりの頃。毎日が感動でした。

■ PROFILE
久保田智子(くぼたともこ)さん

1977年広島県生まれ。大学卒業後、2000年にTBS入社。アナウンサーとして「報道特集」などを担当。2017年TBSを退社後、夫とともにNYへ。コロンビア大学にて修士号を取得。2020年帰国、その後復職、現在に至る。

あわせて読みたい

▶︎【2人目問題】ryuchell(りゅうちぇる)さん「子どもの数にとらわれず自分たちの家族の形を見つけて」

▶︎男の子を育てる「ふたりぱぱ」に聞く! 「ママ」「パパ」という役割って必要?

▶︎東大人気教授「妻が“2人目”に消極的なのは夫の家事育児協力を信用してない可能性」

撮影/吉澤健太 ヘア&メーク/石井織恵 取材・文/金沢由紀子 編集/永吉徳子
*VERY2022年7月号「連載・家族のコトバ」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。