「過去の良いところはそのままに、世の中の変化に対応すべきところは新たに」。4代目女性社長の挑戦

〝持続可能な社会を!〟と叫ばれる一方で、後継者不足に悩み、廃業になる企業が後を絶ちません。そんななかで、誇りを持って家業を受け継いだ〝跡取り娘〟を取材してきました。

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鈴木美樹子さん(46歳・東京都在住) (株)オカモトヤ代表取締役社長

「楽しく働ける環境をつくりたい」
創立110年の歴史を
未来に繫いでいくために
やるべきことを実現していきます

創業110周年を迎える老舗文具店「オカモトヤ」。現在は事業拡大し、企業のオフィス環境全般を担う商社となっています。そこで今年7月、4代目社長に就任したのが鈴木美樹子さんです。

鈴木さんがオカモトヤに入社したのは31歳のとき。跡を継ぐことを考えていなかった鈴木さんは、それまでアパレル業界で働いていたそう。「30歳のとき家族会議があり、父から『死ぬほど嫌じゃなければ、会社に入ってほしい』と言われました。このとき初めて父の思いを知り、私も父と一緒に仕事をしたいと思ったんです」。

そして入社9年目の’15年。鈴木さんは会社の未来を考え、“働き方改革”に着手することに。「きっかけは出産でした。女性が育児をしながら働くとは、どういうことなのか身に沁みてわかりました」。

さらに社員の働き方を見直さなければならないことも痛感したそう。「弊社では仕事柄、土日出勤が多いのですが、社員たちは振替休日が取りづらい状況だったのです。夫が会社を休めなければ、妻は育児をしながら働くことは難しいだろうと思いました」。

まず残業を減らそうと、留守番電話への切替え時間を19時から定時の18時に変更する提案をしたそうです。その小さな改革さえも、一筋縄にはいきませんでした。今でこそ“働き方改革”は誰もが知る言葉ですが、’15年当時は、その概念がなかったからです。

「19時だった理由は“お客様のため”でした。その価値観をもった父への説得には、2年かかりました。私が諦めたら、何も変わりません。切り口を変えつつ、言い続けました」。

鈴木さんはこの改革を皮切りに、働き方改革を実行していきます。「在宅勤務や時差出勤なども導入し、さらにITを駆使して業務効率化にも取り組みました。過去の良いところはそのままに、世の中の変化に対応すべきところは新たに取り入れていく。それも父から受け継いだ私の役割です」。

今年7月、社長に就任した鈴木さんに思いを伺いました。「従業員には楽しく働いてもらいたいんです。そのために私がやらなければならないことは、楽しく働いてもらえる環境をつくり続けることです」。

その思いは、お客様にも通じています。「今年『働くひとのミカタ』というコンセプトを掲げました。世の中の変化とIT技術の進歩で、人々の“働き方”は変わりました。その変化を捉え、オフィスで働く“ひと”にフォーカスしたのです。働きやすい環境をつくること、そして働きがいのある社会に貢献できる企業でありたい。それこそ私がつくるオカモトヤの未来だと信じています」。

創立100周年の記念式典にて。「祖父母、両親、3姉妹と、それぞれの夫が集まりました」。
創立時。「歴史の重みを感じますし、初心を思い出させてくれます」。
孫を抱っこする父。「両親には、娘の面倒をたくさん見てもらいました」。
万年筆用のインクは他メーカー含め多数の品揃えがあります。
自社生産している万年筆用のインク。
社員一人ひとりの思いを綴ったカードが、本社の受付に掲げられています。鈴木さんは「社員がワクワク働ける環境を提供したい」と綴ります。

〝働くひとのミカタ〟をコンセプトに掲げたオカモトヤ。自社社員のミカタとして〝楽しく働けるオフィス空間〟をつくりました。

<編集後記>人生そのものと話す鈴木さんにエールを送りたい

取材の最後に「オカモトヤは人生そのもの」と、お聞きしました。110年の歴史と看板、社員の生活までも守ることは重責に違いありません。その責任を負いつつも、人生そのものと言い切れるモノがある鈴木さんを、羨ましく感じました。鈴木さんにエールを送りたい。(ライター・髙谷麻夕)

撮影/BOCO 取材/髙谷麻夕 ※情報は2022年9月号掲載時のものです。

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