松山ケンイチさん「主人公同様、今、田舎暮らしで子供たちと共に“お金で買えない幸せ”を体験しています」
<Special Interview> 松山ケンイチさん(37歳)
映画『川っぺりムコリッタ』に出演
主人公同様、今、田舎暮らしで
子供たちと共に“お金で買えない幸せ”
を体験しています
子供たちと共に“お金で買えない幸せ”
を体験しています
– 今回、松山さんが演じたのは、誰ともかかわらずに生きようと決め、北陸の小さな街の塩辛工場で働き口を見つけた孤独な男・山田。「ハイツムコリッタ」という社長から紹介された安アパートで暮らし始め、風呂上りの冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはんが楽しみ。それにしても、『かもめ食堂』の荻上直子監督の作品だけに、食べるシーンが多いですね。
「僕は、嘘っぽくならないように、食事シーンは演技じゃなく実際に食べるようにしているのですが、荻上作品は長回しで撮るので、夕飯どきに決まって押しかける隣人の島田・ムロツヨシさんと会話をしなくちゃならない。それで、「ご飯を頬のこのへんにキープして、どのタイミングで飲み込むか……」なんて、計算して食べていましたね(笑)。でも、白いお米って味わって食べると本当に美味しい。だから、その幸せを改めて味わって、完食していました。それに、ホカホカのご飯の上の塩辛がまた美味しくて。昔から家には塩辛があったのですが、僕は食わず嫌いで食べたことがなかったんです。それが、食べてみたら、思いのほか美味しくて……。撮影場所の塩辛工場からお取り寄せして、今も冷蔵庫に入っています(笑)。映画に映る食事は、料理番組かCMかっていうくらいめちゃくちゃ美味しそうで、食べても本当に美味しかったですね。アパートの住人たちと一緒に囲んだスキヤキの画は、とりわけ迫力がありますが、これぞ鍋を囲んで生きる喜びを共有しているシーン。ご飯って偉大! 肉って偉大! です。そして、“家族じゃないけれど家族みたい”、そんなコミュニティが成立するところが、この作品の素晴らしいところで、僕自身好きなところです」
– 社会からはみ出したアパートの住人たち、特にムロツヨシさん演じる島田とのキャッチボールが印象的です。
「アパートの住人たちは、生死の狭間でそれなりに生きている人たち。こんなふうにその日暮らしに生きている人たちは、テレビやネットニュースで見てはいたけれど、自分の認識の外にある話でした。今回演じることになり、初めてそんな人たちと向き合って感じたのは、そんな環境の中でもささやかな幸せや喜びを感じながら生きていること、そしてそれ以上に漂うのが、悲しさやもろさ。ふとバランスを崩したら、いなくなってしまうんじゃないか……と。それを一番強烈に感じたのはムロさんで、今までみたことのないムロさんでした。それは、この映画の一つの見どころです。そして、もう一つの見どころは、塩辛工場の従業員役の江口のり子さん。帽子を深く被っているから、誰も江口さんだとかわらかない! でも、ご本人は楽しんでやっていらっしゃいました」
– 松山さんご自身も現在田舎暮らしをしていらっしゃって、主人公の山田同様に採れたての野菜の美味しさを知るのは、共通するところですね。
「この本を初めて読んだ時、僕は東京で暮らしていました。でも、東京にいたら山田のように、目の前に畑があって、作物を収穫して、それを共有して近所の人とご飯を食べる、そんな生活を理解するのは無理だと思ったんです。それを習得するためには、実際に田舎暮らしをするのがいいんじゃないかと思い、この作品の出会いが、今の二拠点生活を始める一つのきっかけとなりました。人と人が助け合うこと――労働力や思いを差し伸べ合い、そこにお金のやりとりはないんです。田舎では、皆が助け合いながら歌うように生きていて、すごく健康的だと思いましたね」
– コロナ禍、郊外に移住する人も増えましたが、松山さんが田舎暮らしを始めたのはコロナ前でしたね
「田舎暮らしを決意したのは、子供たちの存在も大きいんです。東京で子供を育てるのは、すごく難しい。僕自身も様々に迷ったり悩んだりする中、子供達も異なる立ち位置で迷ったり悩んだりしていて……。どうなぐさめていいのか、背中を押していいのかと、僕自身わからないところがあったんです。それで、田舎、ホームに帰ろうと。僕自身、田舎育ちだから、子供達にもその環境で得られるものを教えようと思ったんです。いや、僕にはそれしか教えられるものがないから。
野菜の味も、スーパーで値札が付いたものを食べるのと、自分で収穫した野菜を食べるのとでは全然違う。自分で種からまいて育てると愛着がわくし、それで枯れたり死んだりしてしまうと、すごく悲しい。
そうやって出来たものを食べる喜びは、お金には代えられません。その喜びを仲間と共有できたら、さらにいい。そういうところに幸せのヒントがあると思うんです」
– 俳優生活20年、役者として自分の描くミライは――?
「これから先、観る人の求めるものも変わっていくだろうし、僕も年齢を重ね、演じる役も限られていくでしょう。浮き沈みの激しい世界の中で生き抜くのは、まさにサバイバルです。そこで生き残っていくには、考えなくちゃならないし、やらなきゃいけないこともたくさん出てくる。僕は僕のままでいて、死んでいくのならそれでいいと思っていた時期もありました。でも、人というのは、そうやって生きてはいない。何とかとかして生き延びようとするのが、生きるもののサガです。本能で突き進んでどう生き残っていくのか――、自身で今試しているところは、すごくあります。自分ができることって何だろう、僕にしかできないことって何だろう……、仕事でも普段の生活でも、それを探しているところです。
しかも、“楽して”できたら言うことはないですね。仕事ばかりで精魂尽きて、子供や家族に使う時間がなくなってしまうのはイヤですから。願わくば、寝ながら野菜が育ち、寝ながら仕事が出来たらいい。とはいえ、そうもいかないから、ギリギリを攻めながら生き伸びていこうと思っています。やっぱり、欲張りですよね(笑)」
– 田舎暮らしをする今、仕事とのバランスはどうとられているのでしょうか
「今やっと、“育業”や“育休”と言われているけれど、そんな言葉の前に、僕は子供が生まれた時から育児休暇を自らとっていました。それで、今の田舎暮らしも、育児休暇の一環だと思っているんです。仕事とのバランスも、まだ今は田舎暮らしを続けていきたいという気持ちはあります。田舎暮らしは、まさに子供たちと向き合う時間で、本当に子どもから学ぶことって多いですから。でも、それを続けるためには実際お金も必要で……(笑)。それでも、子供の成長や様々な要因でそのバランスも変わっていくと思います。
僕は、やっぱり欲張りなんだと思う。東京ではお金を使う喜びを、田舎ではお金を使わない喜びを、そのどちらも見たいし、経験したい。ものすごーく欲張りですよね(笑)」
松山ケンイチ
1985年、青森生まれ。2005年に『男たちの大和/YAMATO』で一躍注目を集め、続く『デスノート』『デスノート the Last name』で大ブレイク。2016年には『聖の青春』で第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞、第59回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。公開待機作に主演映画「ロストケア」(23)がある。
◯ 『川っぺりムコリッタ』
監督/荻上直子 主演/松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆ほか
北陸の小さな街の塩辛工場で働き口を見つけた山田は、家族も生きがいもなく、無一文のような状態で川っぺりの安アパートで暮らし始める。ある日、隣人の島田が風呂を貸して欲しいと上がり込んできた日から、山田の静かな生活は一変。夫を亡くした大家の南、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口と、図々しいけれど温かいアパートの住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつほぐされていく……。9月16日(金)全国ロードショー
公式ページ
https://kawa-movie.jp/
シャツ¥93,500 パンツ¥159,500 靴¥107,800(すべてブルネロ クチネリ/ブルネロ クチネリ ジャパン︎) ブルネロ クチネリ ジャパン 03-5276-8300
撮影/嶋野 旭 スタイリスト/五十嵐堂寿 ヘア・メーク/勇見勝彦(THYMON Inc.) 取材/河合由樹
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