小中高大どこで勝負する?ニッポンの受験事情と有力塾がたった5分で早わかり

『子育ての「選択」大全 正解のない時代に親がわが子のためにできる最善のこと』。そんなドキッとするタイトルの本が発売になりました。子育てにおいて、何かと選択肢の多いからこそ知りたい「教育的選択」がぎゅっとまとまった一冊になっています。今回は特別に、著者であるおおたとしまささんに、現在のニッポンをとりまく受験・習いごと事情について寄稿いただきました。

 

ニッポンの教育事情の今を専門家が解説!

現在の日本の大学進学率は約55%です。さらに短大と専門学校を含めた高等教育機関への進学率は約84%になります。高校進学率は、通信制も含めれば約99%に達しています。

一般的な進学ルートを受験のタイミングによってまとめたものが図1です。中学校までは公立に通い、高校で人生初めての受験をするひとが圧倒的多数です。全国平均では、小学受験率は約2%、中学受験率は約8%です。東京都に限ると、小学受験率は約5%、中学受験率は20〜25%程度と推測されます。

図は『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)より引用 イラスト:(C)玉井麻由子(MORNING GARDEN INC.)

小学受験をするためには幼児のうちから受験対策をしなければいけません。中学受験をするためには、小学4年生くらいから塾に通い始めて厳しい受験勉強に耐えなければいけません。

小学受験や中学受験はマイノリティーなので、一種独特の世界のように思われます。一方、約9割のひとが高校受験を経験するので、高校受験という制度に対して違和感をもつひとは日本では少ないはずです。しかし海外の、少なくとも先進国では、14〜15歳という多感な時期に競争的な受験を設定している国や地域は非常に珍しいといえます。

中学受験をするかしないかは、高校受験をするかしないかという選択に置き換えられます。小学生が遊ぶ時間を犠牲にして受験勉強にいそしむのと、中学生が反抗期を抑圧しながら受験勉強にいそしむのとどちらがましかという判断になります。

私立の学校を選択した場合の平均学習費(授業料のほか、教材費や給食費、塾代や図書代までを含めた費用)をまとめたものが図 2です。小学校から高校まですべて公立の場合、学習費は約477万円ですが、すべて私立の場合、1672万円になります。国立の授業料は公立と同水準と考えて差し支えありません。

図は『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)より引用 イラスト:(C)玉井麻由子(MORNING GARDEN INC.)

2020年度の文部科学省のデータによれば、私立大学の平均授業料は年間約93万円、入学金平均は約25万円、そのほか施設設備費が平均で約18万円かかります。同じく国立大学の「標準額」は入学金が28万2000円、授業料が53万5800円です。公立大学も国立大学と同水準に設定されています。

 

NEXT>>>「小学受験」するなら“年少の11月から対策”が一般的

小学受験事情

小学校の入試項目は、いわゆる学力的な分野と行動的な分野とに分けられます。学力的な分野においても、ペーパーテスト重視の学校と、具体物を示しながら口頭で応答を見る学校とに分かれます。行動的な分野には、体操、絵画・工作、行動観察などの形式があります。もちろん親子での面接も実施する学校が多数です。

私立の中でも、慶應や青山学院などのいわゆる私立ブランド校は当然熾烈な競争になりますが、世間的にはそれほどの知名度ではない一般的な私立小学校であれば難易度が下がります。中学受験対策をウリにしている私立小学校もあります。

国立の小学校には抽選があります。また、入試がシンプルなので、国立だけを狙うなら、通塾の負荷はさほど大きくないといわれています。私立受験を基本にしながら、国立に関しては模試や直前講座で対策をする家庭も多いようです。

女子校はそれはそれで一つのジャンルになっています。女子校はペーパーテスト重視の学校が多いといわれています。

首都圏では年長の11月に入試があるので、その2年前の年少の11月から何らかの塾に通って対策を始めるのが一般的です。関西の場合、入試期間が8月から年明けまで長丁場にわたります。

首都圏大手では、「ジャック幼児教育研究所」と「伸芽会」が双璧。そのほか大手では、「こぐま会」が国立対策あるいはペーパーテスト重視の女子校対策に定評があります。こぐま会の教材は書店でもよく見かけます。「理英会」は神奈川県で人気ですし、関西にも展開しています。関西では「奨学社」も有名です。

本気度が高くなると、大手ではカバーしきれない個別の学校対策のために個人塾を併用することが増えます。あるいは、あえて大手には通わずに、信頼できる個人塾の先生にまるごと面倒を見てもらうスタイルもあります。また、特定の学校の対策に特化した個人塾もあります。

 

NEXT>>>高まる「中学受験」熱。対策には“3年”必要!?

中学受験事情

この数年、中学受験熱が高まっています。さらにコロナ禍で、公立中学校に比べれば混乱に比較的うまく対応できていた私立中学校への人気が高まり、中学受験の裾野が広がっている状況があります。

入試本番は小6の主に1〜2月です。その3年前の小学3年生の2月から中学受験塾に入り対策するのが一般的です。ということは、小学3年生の秋くらいには中学受験をするかどうかの方針を、家庭の中で決めておく必要があります。

首都圏では、「サピックス」「早稲田アカデミー」「四谷大塚」「日能研」が4大中学受験塾といわれています。

首都圏ではサピックスが最難関校で高い実績を残しているので絶対的な人気を博しており、すぐに定員が埋まってしまうため、「小1からサピックスに入れないと間に合わない」と言われることがありますが、それはさすがに煽りすぎです。

サピックス以外にも中学受験塾はありますし、サピックスだって、上位クラスに入る学力があれば、小学4年生以降でも入塾の機会はあります。逆にいえば、上位クラスに入る学力がないのなら、サピックスにこだわる必要もありません。

2000年代に入ってから、「ゆとり教育」の一環として、全国に「公立中高一貫校」と呼ばれる学校が多数つくられています。公立ですから、学費は一般的な公立中学校、公立高校と同じです。

公立中学校では入学に際して学力による選抜を行ってはいけない建前になっているので、公立中高一貫校では入学に際して「適性検査」と呼ばれるテストを実施します。

東京都立中高一貫校の適性検査対策で圧倒的な実績を叩き出しているのが、「ena(エナ)」という塾です。小4の2月から入塾し、約2年間で準備するのが、都立中高一貫校対策のスタンダードです。

公立中高一貫校人気を受け、中堅私立中高一貫校各校も、4教科の枠組みを超えたユニークな入試を実施するようになっています。

多数の資料から読み取れることを記述させる「思考力型入試」や自分の得意なことについて口頭でプレゼンテーションする「プレゼンテーション型入試」など多様な入試スタイルが生まれています。習い事として学んできた英語力を試す「英語入試」もありますし、プログラミングの実技能力を試す「プログラミング入試」もあります。これらを総じて「新型入試」と呼びます。

関西の中学受験では、「浜学園」と「日能研関西」と「馬渕教室」がビッグ3といえます。特に浜学園は最難関中学で頭一つ抜けた実績を誇ります。

ちなみに、同じ日能研グループの中でも首都圏の日能研と関西の日能研は法人が違います。基本的に同じ教材を使用していますが、関西で最難関校対策を行う「灘特進コース」は、通常の日能研のカリキュラムに最難関校対策のための負荷を上乗せするコースです。それくらい、関西の最難関受験は過酷です。首都圏の中学受験とは格段にレベルが違うことはあまり知られていません。

 

NEXT>>>東京都の“高校入試相談”は12月!併願優遇とは?

 

高校受験事情

高校受験のしくみは地域によって異なるので一概にいえることがあまりありませんが、ここでは主に東京都の場合を例にして説明します。

都立高校の入試は2回。推薦選抜(推薦入試)が1月下旬に行われ、一般選抜(一般入試)が2月下旬に行われます。都道府県によって公立高校の入試を2回行う場合と1回のみの場合とがあります。

推薦入試ではもちろん普段の学校での成績がものをいいます。ただし都立高校の推薦入試の平均倍率は約3倍もあるので、推薦を受けたからといって合格できるとは限りません。学力検査は実施されず、調査書(いわゆる内申点)と個人面接や集団討論によって合否が決まります。

学力検査に基づくいわゆる一般入試では、5教科(国語・数学・英語・社会・理科)のペーパーテストが実施されます。その結果と、調査書の結果を、7:3の割合で合計し、総合成績の上位から順に合格となります。

私立の場合、入試のしくみは学校によってまちまちです。

私立高校入試は、国語・英語・数学の3教科で行われるケースがほとんどです。1月下旬に推薦入試を、2月中旬から一般入試を行います。

その前年の12月15日も重要です。私立高校と公立中学校の間には「入試相談」という制度があります。そこで、どの中学生に「推薦」や「併願優遇」などの権利を与えるのかの調整が行われます。その入試相談の解禁日が12月15日なのです。

「併願優遇」とは、都立高校など他校を第一志望にしていても、第一志望校がダメだったときに優先的に入学を認めてくれる制度です。実際には、各私立高校が設けた基準を満たした生徒に対して、一般入試の得点に加点するなどの優遇措置を行います。

もちろんペーパーテストの一発勝負で挑むオープンタイプの一般入試もあります。最難関私立高校ほど、ペーパーテスト一発勝負形式です。

東京都の高校入試の種類をまとめると図3のようになります。

図は『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)より引用 イラスト:(C)玉井麻由子(MORNING GARDEN INC.)

東京の高校受験では、「早稲田アカデミー」「市進学院」「栄光ゼミナール」「ena」そして「サピックス中学部」が目立つ存在です。神奈川は、「臨海セミナー」「中萬学院」「ステップ」「湘南ゼミナール」の4塾がしのぎを削っています。埼玉は業界最大手の「栄光ゼミナール」発祥の地。ほかに「スクール21」や「サイエイスクール」も地元有力塾といえます。千葉は「市進学院」のお膝元。「京葉学院」と「誉田進学塾」はご当地有力塾といえます。茨城の「茨進」は市進グループです。

大阪の高校受験有力塾は、「馬渕教室」「第一ゼミナール」「類塾」「開成教育セミナー」。京都では、「成基学園」と「京進」が双璧をなします。兵庫では、「創造学園エディック」「能力開発センター」「開進館」「若松塾」が主な塾。三重では「eisu」グループが有力です。

札幌を本拠地とする「進学会」は北海道から東北地方までの広い範囲に展開しています。東海地方では「佐鳴予備校」のさなるグループが最大手。中国地方では「鷗州塾」が広い範囲に展開しています。四国では「寺小屋グループ」と「土佐塾」が有力です。九州では「英進館」が圧倒的な強さです。

 

NEXT>>>進化する「大学受験」。予備校・塾の最前線はどこ?

 

大学受験事情

2015年くらいの時点では、「2020年度の大学入試改革で、日本の受験制度は大きく変わる」と喧伝されていました。しかし結論をいえば、2020年度の時点では、センター試験が大学入学共通テストにマイナーチェンジしただけでした。

ただし、大学入試改革の狙いはセンター試験の改変だけではありません。個別の大学における入試を、「脱ペーパーテスト」の方向に変えていこうという大きな狙いがあります。いわゆる「AO(アドミッションオフィスの略)入試」の枠を増やしていこうという方向性です。

ただしAO入試には、「学力不問」「受験生の早期囲い込み」のような後ろ向きなイメージもついてしまっているので、2020年度から、それまでのAO入試に相当する入試形式を「総合型選抜」と呼ぶことになりました。それにあわせて、従来の推薦入試を「学校推薦型選抜」、一般入試を「一般選抜」と呼ぶようになりました。

2016年から東大と京大が戦後初となる推薦入試を開始したのには、この流れを先取りする意図があると考えられています。2015年、国立大学協会は、2021年度までに入学定員の30%を推薦入試、AO入試、国際バカロレア入試(国際基準の大学入学者資格を利用する方法)などにあてるという目標を掲げました。

実際の2021年度の入試では、総合型選抜と学校推薦型選抜の定員割合は、2割弱にとどまっていますが、2016年以降、その割合が増えていることは間違いありません。今後もその傾向は続くでしょう。

私立大学においてはもともと2015年度の時点で、AO入試と推薦入試による入学者の割合が5割を超えていましたが、2020年度の時点ではすでに総合型選抜と学校推薦型選抜の定員の合計の割合が6割弱にまで伸びています。

有名私立大学が積極的に系属校を増やす動きがあるほか、私立大学と私立中高一貫校が個別に提携し、内部進学的な制度を設けるなどの動きもあります。地方では、国立大学とそのお膝元にある公立高校が教育連携を進める動きもあります。

しかし難関大学への進学を希望するなら、やはり塾での対策が必要になるのが現実です。

大手予備校としては、「駿台」「河合塾」「代々木ゼミナール(代ゼミ)」「東進」「お茶の水ゼミナール」などが有名です。

中高一貫校の生徒たちが御用達にしている知るひとぞ知る難関大学対策塾もあります。

東京都の代々木に本部を構える「鉄緑会」は、東大および国公立大学医学部に驚異的な合格率を誇ります。日本の受験システムの最難関である東大理Ⅲ(医学部系)の合格者の半分以上は例年鉄緑会出身者で占められています。

渋谷にある「平岡塾」は老舗の英語専門塾。新宿に本部を構える「SEG」は数学専門塾として始まり、いまでは英語の多読授業も人気になっています。

中高一貫校生を対象にした塾としては、「グノーブル」にも勢いがあります。予備校系では河合塾の「河合塾MEPLO」、代ゼミの「Y‐SAPIX」があります。関西では「研伸館」が有名です。

『子育ての「選択」大全』

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構成/おおたとしまさ

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