『映画ネメシス』で櫻井翔演じるポンコツ探偵が豹変⁉【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.44】
広瀬すずさんと櫻井翔さんのW主演で人気を博したドラマ『ネメシス』待望の映画化作品として話題を集めている『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』。ドラマ版から緊迫度もミステリーの難解度もよりスケールアップした劇場版の魅力を辛酸さんにクローズアップしていただきました。
(※コラム内で映画のストーリーにふれています。ご注意ください)
ポンコツぶりがかわいかった風真が映画では闇キャラに…?
広瀬すずと櫻井翔がW主演の人気ドラマ『ネメシス』が映画化。入江悠監督の『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』はドラマに登場した個性あふれるキャラたちも登場し、謎の難易度も伏線の複雑さもアップ。アクションもキャストも豪華で、あっという間の99分です。
舞台となるのは、探偵事務所「ネメシス」と横浜の街。事務所の社長は江口洋介演じる栗田一秋で、そこで探偵として働いているのが櫻井翔演じる風真尚希、天才的な考察力を持つ助手・美神アンナを広瀬すずが演じています。この連載ではやはり櫻井翔が演じる探偵、風真尚希に注目していきたいところ。ドラマでは「ポンコツ具合がかわいい」探偵と評判でしたが、映画ではいきなり闇系のキャラに……。ストーリーは、栗田一秋と美神アンナが暗い地下室で縛られている物々しいシーンから始まります。拘束されている状況がつかめず動揺する2人。暗闇からコツコツ……という足音が近付いてきたと思ったら、スーツ姿の風真尚希でした。アンナの首にかけたネックレスを引きちぎり、「早く渡せばこうならなかったのに……」と言って、栗田の首にハサミを突き立てます。櫻井翔にこんな悪そうな声が出せるとは……というような悪党ボイスが印象的でした。実際の撮影ではネックレスを引きちぎるシーンの後、広瀬すずを「大丈夫? 痛くなかった?」と気遣ったそうで、さすがの育ちの良さです。
ゲノム編集のすごさを実感するアンナの美しさ
アンナは父親が天才遺伝子学者で世界初のゲノム編集ベビーとして生まれ、その遺伝子の情報がネックレスに保存されていたのです。これだけかわいいのは遺伝子を編集したから、と納得させられます。その遺伝子の技術を悪用したい闇の組織から、たびたび狙われるアンナ。若干頼りないながらも守ろうとする風真の姿にも萌え心が刺激されます。冒頭のシーンはアンナの悪夢だったのですが、夢の中で周りの大切な人が次々と殺されるというリアルな場面に遭遇し、精神的に追い詰められて事務所も休みがちになってしまいます。毎回夢の中でハサミを振りかざす風真に対し恐怖心が芽生えたのか、次第に避けるように……。探偵事務所も仕事の依頼が減ってきて、家賃を払うためにアンナは交通整理のアルバイトにも従事します。
そんなアンナのもとを「窓」と名乗る白髪の不気味な男性(佐藤浩市)が尋ねてきて、データを渡さないと予知夢が現実になって大切な人が次々死ぬことになる、と脅してきます。「窓」が手渡してきた名刺には、黄金螺旋と数式が書かれていました。螺旋は遺伝子にもつながるのか、謎が深まります。悪夢の中では度々トマトが登場し、アンナが最近引っ越してきた部屋にも大きなトマトのアートが飾られていました。生命力の象徴でもあるトマトも何かの伏線なのでしょうか。
映画版でも存在感を放つ橋本環奈
バイクに乗った男性が襲ってくるバイクアクションや、夢の中で車が次々追突するカーアクションなど、派手なアクションシーンも見どころです。殺しのシーンで心拍数が上がり、夢だったという流れでホッとしたと思ったら、現実世界にも窓おじさんが現れたりして、緊張感が保たれます。別の意味で緊張感があったのは、広瀬すず演じるアンナと橋本環奈演じる菅 朋美が対峙するシーン。朋美は遺伝性の病気を患い、ドラマでは黒幕とされた女性です。アンナが朋美のもとを訪れ、今回の不気味なできごとについて聞こうとすると「私が教えてあげるとでも思った?」と無表情に言う朋美。映画の資料に掲載されていた「現場ではアンナと朋美の関係性をすぐに作り出せたんじゃないかなと感じています」という橋本環奈のコメントがどこか意味深です。
風間のとぼけた魅力が緊迫した展開に癒しを与えれてくれる
そんな空気に癒しをもたらしてくれるのが、どこかとぼけた魅力があってムードメイカーな風真です。心配になってアンナの部屋を尋ねた風真が買ったばかりの電磁波測定器を見せると、アンナはその音の変化に気付き、部屋の壁に測定器が反応することを突き止めます。壁を破壊しだしたアンナを、なすすべもなく「あぁ……」と言いながら見ている風真。壁の中には正体不明の不気味なマシーンが隠されていました。「この世に晴れない霧がないように、解けない謎もいつかは解ける。 解いて見せましょう、この謎を。 さあ、真相解明の時間です」とキメ台詞を放つ風真ですが、結局アンナが自分で何かに気付いて不動産屋に走り出していました。
その後、アンナの部屋が危険だから「とりあえずオレのとこ来たら?」と誘ったのに断られ、淋しげな風情の風真。いろいろ物騒なことがあっても、アンナはひとりで自分の部屋に帰ると宣言しました。悪夢を見る部屋で眠ることで、何かのヒントが得られるのかもしれませんが、敵対組織が監視している部屋に戻るなんて危険すぎます。しかしこの時、風真はまったく止めようとしませんでした。心配そうな表情ながら、部屋に戻るアンナの後ろ姿をただ見つめていました。もしかしたら、自分の部屋に来るか誘ったのを即断られたショックが尾を引いていたのでしょうか。いつもスーツ姿で育ちの良さを漂わせたジェントルマンな探偵、風真尚希。しかし日頃自分を押し殺している反動で、内面にダークなキャラが生まれてしまったのかもしれません。夢の中ではバイオレンスな行動に出てワルなキャラに豹変。あの悪夢はマシーンが見せた夢とは限らない気がしてきました。探偵として一番解きたい謎はアンナの女心……。アンナとしては、風真は恋愛を超えた人として大切な仲間なのかもしれません。ゲノム編集ベイビーのアンナだからこそ、相手の遺伝子を本能的に感知し簡単に恋には落ちないのでしょう。そして遺伝子の欲求よりも理性をとって、紳士に徹する風真。また闇のキャラが発動しないか、ギャップに萌えつつ見守っていきたいです。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。