HiHi Jets井上瑞稀・主演『おとななじみ』をレビュー【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.46】

ジャニーズJr.内グループ、HiHi Jetsの井上瑞稀さんと久間田琳加さんがW主演している映画『おとななじみ』。4歳の頃から20年間、片思い!というピュアな恋をユーモアも交えて描いたキュートなラブストーリー作品を辛酸さんにレビューしていただきました。【※ストーリーに触れている部分があります

恋愛の真骨頂は〝片思い〟なのかもしれない

恋愛の真骨頂は片思いにあるのか

恋愛の真骨頂は片思いにあるのかもしれません……。恋が実ってしまえば、しばらくは楽しいかもしれませんが、いつしかときめきは薄れ、価値感の違いが浮き彫りになり、会話も減少していきます。相手の良いところだけ見て、心の中で美化している、片思い時代が恋心のピークと言ってもよさそうです。
『おとななじみ』は、4歳から20年間も片思いしている男女のラブストーリー。持続可能なときめきを得られる片思いのままでちよいのでは?と思ってしまいますが、若い2人は発展したいのでしょう。
映画版は井上瑞稀(HiHi Jets/ジャニーズJr.)と久間田琳加のW主演。井上瑞稀が演じる青山 春と、久間田琳加演じる加賀屋 楓は4歳の時から実家が隣どうしでした。それから月日が経ち、24歳の2人は一人暮らしのアパートも隣の部屋。ある朝、お腹を出して無防備に寝ているハルの部屋に合鍵で入ってきて起こしてあげる楓。これは付き合っているのでは?と一瞬思わされますが、ハルは楓のことを「おかん」のように扱っていて、2人は恋愛関係ではないようです。
楓はハルに片思いしていて、小さい頃からずっとアピールしているのに「幼なじみ」としか見てもらえない……「幼なじみ」のまま「おとななじみ」になってしまった、そんな切ない女心が描かれます。人気の少女漫画が原作なので乙女心が刺激される展開で、観ていると若返りそうです。

20年来の片思いの相手が好きすぎて好物の店に就職

楓はハルのことが好きなあまり部屋を掃除したり、つい世話を焼きすぎてしまい「オカン系女子」になってしまいました。さらに、ハルが好物の唐揚げを売っているお弁当屋さんに勤務。男性に合わせすぎですが、そこまで重く感じないのはまだ20代前半でいくらでもやり直しがきくからかもしれません。また、おいしい唐揚げが名物のお弁当屋さんで働いたら、まかないや売れ残りを食べて太ってしまいそうですが、楓はスリムな体形をキープしています。若いから新陳代謝がよいというのと、片思いで女性ホルモンが分泌され、さらにカロリーを燃焼しているのかもしれません。20年の片思いも悪いことばかりではありません。
同じく幼なじみのアネゴ系で恋愛上級者の美桜(浅川梨奈)、クールで仕事ができる伊織(萩原利久)に頻繁に恋の相談をしている楓。「ハルよりいい男なんてごまんといるんだから!」と美桜に言われたこともあり、進展しない恋に見切りを付けようと思います。井上瑞稀級の男子なんてそういないのでは? と思いましたが、もう一人の幼なじみ・伊織もイケメンなので、たまたまイケメン運に恵まれて感覚が麻痺していたのでしょうか。

なかなか恋に進展できない2人の関係がもどかしい

そんなある日、お弁当屋の上司にアプローチされた楓。しかし上司は実は既婚者、妻が勝手に誤解して突撃してきて不倫の濡れ衣を着せられてしまいます。揉めていたところ、いいタイミングでハルが登場し楓を助けてくれました。ハルには「俺は楓を守る騎士(ナイト)でいたい」という使命感があったのです。
帰り道、ちょっといいムードになった2人。ハルは楓に見つめられていると思ってドキドキしますが、ハルは「髪食ってる」と、楓の口に髪の毛が入っていたのを指摘。こうやってちょっといい感じになると冗談っぽい空気にまぎらわせてしまうのが、幼なじみの関係性なのでしょうか。お弁当屋の上司と妻くらいでは、なかなか騎士道精神を発揮できなさそうです。もっと、夜道で輩に襲われたところを助けるとか、上から鉄骨が落下してきたのを身を呈して助ける、くらいのことをしないと、生存本能からの欲求を刺激できないかもしれません。ずっと友だちだった関係を恋愛モードに変えるのは難しいです。
そんな楓のことを近くでずっと見つめていた存在が……。それは幼なじみ仲間の一人、伊織でした。弁当屋の上司は問題行動で外され、変わりにきた厳しそうな女性の上司に、膨大なデータ入力と分析を頼まれてしまった楓。そんな彼女を助けてくれたのは、仕事ができる伊織でした。紳士的に楓の部屋には入らず、玄関先で朝まで作業してくれた親切な伊織。ハルはそんな2人の接近を複雑な表情で見ていました。ハルがもやもやした思いを抱くと、黒いスモークに包まれる演出が。ハルはハルで、楓に対して思いを抱いていたようです。

『ゴシップガール』みたいにくっついたり別れたりしないまじめなラブストーリー

伊織は楓をデートに誘います。デート中も「ハルと来たかった場所」と思ってしまった楓ですが、そんな楓に伊織は「俺にしてみない? 楓のこと、ずっと好きだから」と思いを伝えます。楓のハルへの思いを知ったうえで「急がない」とまで言ってくれた伊織。
最近、仕事をクビになって先行きが不安なハルと、クールなエリートの伊織、どちらがよいのでしょうか……。2人ともかっこよくて、少女漫画的な羨ましいシチュエーションです。将来性有望な伊織と付き合って生活のランクを上げつつ、時々ハルと会うことでときめきを持続させる、とかでもいいのかもしれませんが……。これが『ゴシップガール』のようなアメリカのドラマなら、とりあえずネイトと付き合ってみて次はチャック……という感じで仲間内で付き合ったり別れたりしそうですが、やはり日本のラブストーリーはまじめで、誰か一人に決めた方がいい、という倫理観が息づいているようです。好感度が高い、さわやかな青春ラブストーリーを見守りたいです。

世代を問わず恋愛のよさを実感できる作品

ハルと楓の恋を応援するカフェの店長を演じたアンミカや、常連客役の松金よね子も個性豊かです。本作のプロデューサーは「コロナ禍もあいまって、恋愛人口の減少が懸念される昨今、誰もが気軽に楽しめるラブコメ映画を目指していました」という思いだったそうです。若い世代だけでなく、何歳になっても恋愛のよさを実感できる作品です。世代的にアンミカや松金よね子に感情移入してしまいそうですが……。
映画についてのインタビューで、井上瑞稀は「コミュニケーション能力が皆無なんです」と告白。「人としゃべることが本当に苦手だったんですけど、ハルっていう明るい役を通して人としゃべること、価値観を学ぶことが楽しくて、いろいろな人と少しずつしゃべれるようになりました。私生活で活きてくる場面もあって、ちょっと友達が増えましたね」とのことです。もしかしたら人見知りでコミュニケーションが苦手な井上瑞稀は、実生活でも「両片思い」を経験しているかもしれない……役柄と重ね合わせて、胸キュン度が高まりました。

辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。