“越境体験”で子どもの未来が変わる!? 「トビタテ!留学JAPAN」、知っていますか
「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」という留学支援プロジェクトを知っていますか?選考は「成績・英語力不問」、必要なのは「情熱・好奇心・独自性」だけ。日本に留学生を増やすことを目的に、文部科学省が初めて官民協働で設立した留学促進キャンペーンのフラッグシッププロジェクトです。2014年の立ち上げから現在までに7801人が留学、約240社から117億円以上の寄附が集まっています。社会がグローバル化する中で、子どもを留学させたいと考える親も増えていますが、金銭面や安全、学校の単位取得など心配事が尽きないのも事実。「トビタテ!留学JAPAN」のディレクターとしてプロジェクトの立ち上げに関わり、昨年『トビタテ! 世界へ』(発行:リテル株式会社/1500円+税)を出版された船橋力さんに、海外体験のメリット、語学力以上に身につく力、留学にふさわしい時期など、多岐にわたりお話を伺いました。
船橋力さんプロフィール
文部科学省 官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクター/1970年、横浜生まれ。幼少期と高校時代を南米で過ごす。上智大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社し、アジア等でODAプロジェクトを手掛ける。同社を退社後、株式会社ウィル・シードを設立し、企業および学校向けの体験型・参加型の教育プログラムを提供。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2009」選出。2012年、NPO法人TABLE FOR TWO International理事に就任。2013年、文部科学省中央教育審議会委員に任命され、同年11月より現職。現在はシンガポール在住。
――まずはじめに、“トビタテ!”の設立の経緯と概要をうかがえますか。
一言で説明すると、海外に留学するのが当たり前の文化を作ろうという目的でスタートした留学促進キャンペーンです。高校生3万人から6万人に、大学生6万人から12万人にしようという留学生倍増計画ですね。また、主な取り組みとして2014年に日本代表プロジェクトという官民協働の海外留学支援制度をスタートし、将来の日本の財産になるような人材を輩出したいとも考えています。
一番の特徴は、行きたい場所・期間・目的をすべて自分自身で作れるということ。特に大学生に関しては、座学のようなアカデミックな留学よりも、インターンシップやボランティア、フィールドワーク、PBL(課題解決型学習)など、多様な実践活動を奨励しています。あとは成績や英語力不問で、情熱・好奇心・独自性が採用基準であること。企業の採用面接のイメージに近いです。その他、留学前と帰国後にしっかり研修をする、日本のことを海外で発信し、帰国後は留学の魅力を発信する。ネットワークを大事にすることを理念に掲げています。
世界はどんどんグローバル化しているにも関わらず、日本では海外の高等教育機関に長期留学する人数が減少傾向にあり、国としても危機感を抱えていました。私自身、2011年にダボス会議に出席し、世界の変化と日本のプレゼンスの薄さに衝撃を受け、何よりも自分の力不足に打ちひしがれ、これはまずいと危機感を覚えました。そんな時、他の出席者とともに下村文部科学大臣と会食する機会があり、その気持ちを伝えたところ、それならとにかく学生を世界に出してみようということで、一気に話が進み、官民協働のプロジェクトという形でトビタテ!が設立されたという経緯です。
―― 座学のようなアカデミックな留学と、トビタテによる“越境体験”の一番の違いは何でしょうか? 越境体験でしか得られないものとは?
アカデミックな留学も越境体験の一種ではあります。大事なのは“越境体験”=自身の居心地の良い場所=コンフォートゾーン(Comfort Zone)から出ること。ただ、そういう意味でトビタテ!の“越境体験”でしか得られないものがあるとしたら、実践的で異文化に飛び込む体験を通じて、主体性と困難を乗り越える力、そして自分を知る経験につながることかと思います。
日本ほど安心安全で同質的な国は多くありません。逆に言うと、人が成長する時やモチベーションが湧くきっかけは危機感かワクワクしかないと思うのですが、日本ではそれが見つかりづらいとも思います。“越境体験”をすることで初めて問題意識が生まれる。そして主体的に動かないと何も進まないので、それを乗り越える経験を経て、自信がつく。異質なものと触れることで、自分の好きや得意、苦手や下手を知ることもできます。
今まで国が主に推し進めていたのはアカデミックな留学や語学研修で、単位取得や座学が前提でした。トビタテ!では、海外の高校や大学などで単位取得をするアカデミックな留学も応援していますが、それだけではなく、社会との接点を持つ実践的な活動を重視しています。大学生については語学を主な目的とする留学は認めていません(高校生のみOK)。実際に、企業の採用では成績というよりは、むしろ挫折やインターン体験など、どれだけ社会との接点を経験してきたかを見ているといわれます。それなのに、学校や受験ではそういった経験は求められない。そこに風穴を開けようと、トビタテ!では実践型の留学を重視しています。だから座学よりも越境の要素が強いかもしれません。
学校を作りたいから経営とお金の作り方を学びたい、イカとタコの脳みその研究をしたい、阿波踊りを世界に広めたいなど、ビジョンは本当にバラバラで、話を聞いていて面白いです。
――越境体験前と後で、どの子どもに必ず起こる変化や成長には、どのようなものがありますか?
まず、夢や問題意識、目的が見つかります。具体的に言うと、勉強にやる気が出る子が増えます。日本の大学生の多くが明確な目的がないまま大学に行き、何となくレールに乗っているように感じています。こんな4年間の過ごし方ではお金と時間の無駄だと思います。特に高校生で留学すると、目的意識が高まって、急に成績が伸びる子がとても多いです。搭載されるエンジンがドンと大きくなり、行き先が見つかる感じですね。あとは、自分の価値観と軸が固まる。日本の教育は自分のことを考える時間がなくて、相手に合わせ過ぎてしまいますが、いろんな価値観に触れて、自分の軸が固まっていくんですね。
もちろん成長には差がありますが、大きく成長するのは、とにかく素直で好奇心がある子。オーラが変わるくらい別人になる子もいます。海外では必ず「Who are you?」と聞かれるので、自分は何者なのだろうと考えざるを得ない。欧米に行く子は特にその傾向が強いです。個を大事にする国なので、突きつけられるのでしょうね。
――親としては、せっかく海外に出るのなら、英語を身につけて帰ってほしいと考えてしまいますが、トビタテでは重視されていないように思います。語学の習得よりも重要な成果があるとしたら、それは何でしょうか?
独自に設計した「これからのグローバル人材に必要な17個の人材要件(コンピテンシー)」に関しての留学前後の変化を見ると、主体性と異文化許容力、あとはタフネスが伸びるという結果が出ています。すぐに英語力が身につかなくても、もっと大事な技能を身につけられる。留学は全部自分でやらなきゃいけないので、段取り力もつきますね。
大学生以上はより具体的な学びのテーマを重視し、語学留学を主目的にしたプランはNGにしていますが、高校生に限ってはそれも受け入れています。たとえば3ヶ月で語学が身につくかというと、4技能の中で聞く・話すは身につきますが、読む・書くは身につかないのが正直なところです。ただ、面白いのは、帰国後に読む・書くが身につくこと。友達ができて毎日のようにチャットをするので、結果的に英語も伸びていきますね。
――事業計画書を作成したり、留学先も自分で手配したりと、それなりの労力を伴うため、一時的に学業を後回しにしなくてはならないこともあると思います。時には勉学を先延ばしにしたとしても、“越境体験”をするべきでしょうか?
日本は一見、選択肢が多そうで、大事な場面では答えが決まっています。受験はこのタイミングでこう、就職でこう、女性はこう働いて男性はこう働く。ここをもっと自由にしないと、苦しむ子が増えると思います。トビタテ!の役目は、より広い視野、新しい視点や居場所を作ってあげること。長期で留学する場合は、少数派ではありますが、単位互換が出来ずに休学、留年をする子もいますが、1年2年の留年なんて企業は全く気にしません。人生100年時代において最短距離を辿るのではなく、もっと大事なものを得ていく生き方を推奨しています。「留年すると友達と離れてしまうのが嫌」と考える子もいるかもしれませんが、行った子たちはみんな、友達が倍になったと言います。海外では、そういう学生もたくさんいるので、それが当たり前だと思うようにもなるんでしょうね。日本の大学は3月卒業で4月入学ですが、海外は9月入学。その隙間はギャップイヤーとして、自分は本当は何をしたいのか、どういう人間なのか、向き合う時間だと考えられています。越境体験もそういった時間になればと思います。
――高校生の場合は、短期間のプログラムが大半だそうですが、たとえ数週間でも越境体験をする意味はあるのでしょうか?
特に初めての留学は、目的さえちゃんとあれば、短くてもいいと思います。私は20代が終わるまでに3回留学してほしいと言っているのですが、要はホップ・ステップ・ジャンプなんです。一回目はどこでもいいから行ってみればいいし、一人が嫌なら友達と一緒でもいい。二回目は「この国をもっと知りたい・このテーマで留学したい」という欲求が出た場所に行く。三回目はそれを深めるために行く。一回で終わりではなく、できれば定期的に海外に出て、自分を見つめて、世界が刻々と変わっていく様を自分の目で見てほしいですね。
産業界でも68%の企業が高校生の留学を推奨していて、大学生では遅いと考えています。高校生で行く子は、大学生でもまた行く子が多いので、たとえ短期間でも多感な時期に海外体験をしておけば、そこから次のアクションへと繋がっていくように思います。
――今は、小学生や中学生で海外留学をする子どもも増えていますが、留学や越境体験のような海外体験は、何歳くらいで経験するのが最も効果的なのでしょうか?
海外生活や越境体験は慣れなので、そういう意味では早い方がいいと思います。親子留学ならなおさら、早くても構わないですよね。我が家の高校一年生の長女は、もともと海外に全く興味がなかったのですが、10歳になった時に2分の1成人式として、僕と二人きりで一週間海外旅行をしました。旅先の条件は、本人が行きたい国、夢に繋がっている国にしようと話し合い、「今興味があるのは何? 何になりたいの?」と聞いたら、「魔女になりたい」と(笑)。チェコスロバキアにある魔女学校を調べたり、結局はハリーポッターの舞台であるイギリスに行きましたが、「パパ、私ここに留学したい」と言い始めて、旅行をきっかけに急に留学が視野に入ってきました。そういうきっかけを作ってあげるのは、小学生など早いうちがいいと思います。
――将来海外に出てほしいと親が望んだとしても、本人にその意欲がない限りは難しいと思うのですが、たとえば小学生などの小さい子どもに対してそのような視野を自然に持たせるために、親ができることはありますか?
家族で旅先を決める時に、子どもの興味がある国を選んでみるだけでも違うと思います。きっかけが魔女でもいいし、サッカーが好きならスペインで本場の試合を見てみよう、でもいい。日本でもサマーキャンプなどで外国人と接する機会を増やしたり、ホームステイを受け入れるのもいいですよね。何のために行くかが一番大事ではありますが、たとえば高校生で留学するとしたら、中学生の時点で考え始めないと難しい。そういう意味では、小さいうちから海外に触れるきっかけをたくさん作ってあげてほしいですね。
■トビタテ!留学JAPAN、もっと知りたいという方はこちらへ
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<note初回号>https://note.com/tobitate_for_all/n/n8424987d1f1c
■「地方」と「高校生」に留学の選択肢を増やし応援したいとの思いから、船橋さんが現在挑戦中の「全国すべての中高15000校に書籍を届けるクラウドファンディングプロジェクト」にも注目!
https://a-port.asahi.com/projects/tobitate/
撮影/相澤琢磨 取材/宇野安紀子