すでに「離婚約」を交わした4組の夫婦。各ケースから見えた、“課題”と“希望”とは?

最近、世間や読者の間でも聞くようになった「離婚約」。経験者たちに聞いてきました。

◯ アドバイスを頂いたのは…

岡野あつこさん
岡野あつこさん
夫婦問題研究家。自らの離婚経験を生かし、夫婦の問題に悩み苦しむ人を一人でも多く救いたいという思いから離婚カウンセリングを始め、これまでに29年間、3万6千件以上の相談を受ける。 現在は離婚カウンセラーの養成にも力を入れる。
山下 環さん
山下 環さん
弁護士。あさみ法律事務所所属。『離婚·離縁事件 実務マニュアル』(共著·ぎょうせい)『実践訴訟戦術 離婚事件編』(共著·民事法研究会)『離婚の準備·手続·進め方の全て』(監修·日本文芸社)など著書多数。離婚カウンセラー資格も持ち、女性ならではのアドバイスが手厚く離婚に悩む女性から評判。
目次 ★ ケース1:離婚するまであと2年 「夫から提案する離婚約の期間は?」
★ ケース2:離婚するまであと5年 「その先を見据えた準備へ動けた好例」
★ ケース3:離婚するまであと2年 「子供へ伝えるタイミングは?」
★ ケース4:離婚するまであと4年 「離婚約で互いのいい部分を見直し」

 


★ ケース1:離婚するまであと2年 「夫から提案する離婚約の期間は?」

>>妻が仕事を見つけ軌道にのるまでが目安

40代半ばになり、不仲な関係をやり直すなら今だと思っていましたが、大喧嘩したことがきっかけで離婚話に発展。お互いに楽しくない結婚生活はよくないと、離婚を見据えることになりました。

それ以来毎月第一日曜日、子供が寝た後の時間を2人で話す「離婚定例会」と決め、そこで親権、養育費、妻の仕事探しの進捗、名字をどう変えるか、お互いの親や子供にいつ伝えるかなど、3時間ほど話し合っています。

その時はお酒を飲まないことが約束。離婚約期間、お互い恋人を作ってもいいことにするかも話し合いました。専業主婦の妻が仕事を決めて落ち着くまでの2年後が目安です。

(R・Oさん 46歳男性·43歳妻·12歳、10歳の女の子)

● 20代の若い頃に出会った人が 最良なパートナーだとは限りません(岡野さん) 離婚した後の選択肢も、男女ともに増えています。そこには女性が経済的に自立していることや、離婚が恥ずかしいものではなくなったこと、出会いが多いこともあげられます。離婚にはステップが必要なので、夫婦で時間をかけて冷静に話し合える「離婚約」はいいですね。
● 口約束ではなく決めた約束を 「書面化」しておくとよい(山下さん) 「離婚約」は、夫婦で予め離婚の時期や条件を決める約束なので計画的に円満離婚できるというメリットがあると思います。お互いに冷静な時に、親権や養育費などについて決め、
実際に離婚する段階で公正証書にすると、万一、養育費の支払いがない時に給与の差押えなど、強制執行が可能となります。

 


★ ケース2:離婚するまであと5年 「その先を見据えた準備へ動けた好例」

>>自分自身への「離婚約」

結婚生活の初期から、夫はすぐに仕事を変えたり、浮気も度重なり、義母にひどい扱いを受けたこともあって離婚をして実家に戻ろうかと悩んでいました。でもまだ小学生だった子供にはパパが必要だと思い、結婚生活を続ける決断を。

そこから約6年耐えていましたが、ある日夫が思春期の悩みを抱えている長男に寄り添うことなく、冷たい言葉を言い放ったことで覚め、離婚届を取りに行きサイン。「私はサインしたから」と夫に伝えたことで自分の中で離婚約をしました

仕事を探したり資格を取ったりと準備をし始めましたが、一向に夫が承諾せず、5年後にやっと離婚。でも自身で絶対離婚すると「離婚約」を決めたことで前向きになれ、心も生活も準備ができました。

(S・Kさん 49歳女性·20歳長男·18歳長女)

● 離婚は「覚悟と準備」が ないとできない(岡野さん) 自分が自分に約束した離婚約ですね。「覚悟」があれば、別れるまでの時間があることで今後の生活を見据えて用意できることは増えるでしょう。
● 早いうちに相手の財産を把握しておくとよい(山下さん) 離婚後の生活のために、財産分与による財産の確保が重要ですが、離婚約の場合、離婚までの期間が長いと、その間に財産を隠されてしまう恐れがあります。もし、離婚約で財産分与を決めずに離婚してしまった場合でも、離婚後2年間は財産分与請求が可能です。不動産や預金だけでなく、退職金や生命保険の返戻金も対象となり得ますので忘れずに!

 


★ ケース3:離婚するまであと2年 「子供へ伝えるタイミングは?」

>>期間が長いがゆえに見極めることが最重要

ずっと見て見ぬふりをしていた夫婦関係ですが、コロナで夫婦ともに家にいるようになり、子どもの進路の話の流れから、子どもが高校生になったら私たちどうする? と私から切り出しました。すると夫から、子育て終了と共に解散してもいいのでは? と言われました。

私も夫は子育てのパートナーとしてはベストだけれど、子育て卒業後2人で生きていくのは合わないと感じていて。なので、子どもが高校生になったら別れる、と話がまとまりました。親権は夫が希望しているので、私は養育費を払い、一人暮らしをする予定です。そのことを子どもにはいつ言うか、迷い中です。

(I・Kさん 40歳女性·46歳夫·12歳長男)

● 親権は夫、養育・監護権は妻にして育てるというのもありです(岡崎さん) 子どもにとってすごく嬉しいことなら言っていいと思いますが、がっかりしたりショックを受けそうであれば、まだ曖昧な離婚約中ではなく、いつ別れるか本当に決まったらでいいでしょう。冷静に話し合える間柄なのであれば親権は夫、養育・監護権は妻にして、その後も責任を持って2人で子どもを育てるというのもありです
● 子供に会う回数や面会交流について決めておく(山下さん) 養育費の相場は、裁判所のHPに「養育費算定表」が載っているので、双方の収入とお子さんの人数や年齢が該当する箇所を見て参考にしてください。また、子どもが父親と暮らす場合には、離婚約の条件として、母親が子どもに会う回数や長期休みの旅行などの面会交流についても決めておくとよいでしょう

 


★ ケース4:離婚するまであと4年 「離婚約で互いのいい部分を見直し」

>>よりいい関係を築けることもありえます

結婚して15年。夫への小さな不満が積もり積もって、大きな価値観の違いを感じるようになりました。

1年前に喧嘩した際、「もう無理」と私から宣言。すると夫は、フリーランスで出張も多い私が今離婚をしたら子育ての負担が大きい。子育てのチームとしてもう少し頑張ろうと言ったんです。

子育てのパートナーとして夫が必要なのは間違いないので、長男が大学生になるまでは協力し合うことに。結果、離婚への期限が決まったことで夫に優しくできるようになり、以前より夫婦仲がよくなりました

また今までは目の前の仕事で精一杯でしたが、これから先のことを長い目で考えるようになりました。 離婚も見据えた生活費や貯蓄の管理は夫が全てやってくれています。

(O・Fさん 43 歳女性·5 0歳夫·16 歳長女·1 4歳長男)

● 改善のチャンスが待っていることも(岡野さん) 離婚約をしたことで夫婦関係がいい方向に変化し、復縁する可能性も充分あります。離婚約を決めることで、お互いに落ち着いた気持ちで改めて夫婦のこと、子供のことなどを考えたとき、改善のチャンスが待っていることも。「離婚約を決めてスッキリし、はじめてパートナーに本音を言えるようになった」という方もいるほどです。結果、よりいい関係を築けることはすばらしいですよね。
● 書面やメール、 LINEなどで残しておくと安心(山下さん) 離婚約について書面化しても、途中で夫婦仲が改善した場合は、その書面は破棄したほうがよいでしょう。お互い離婚はしたくない、という趣旨の内容を書面やメール、LINEなどで残しておくと安心です。せっかく関係が修復できて離婚したくないと思っても、相手が翻意して離婚を希望した場合、離婚約の書面が残っていると裁判で不利になる恐れがあるので注意してください。

「離婚約」は夫婦仲を見つめるチャンス。 これからの人生を どう過ごしたいか、誰と過ごしたいか。 いつだって幸せは、 自分の覚悟と決意にある!

撮影/吉澤健太 取材/立花あゆ ※情報は2021年2月号掲載時のものです。

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