Mart世代の30~40代は、ライフステージでも家庭や仕事で変化があったり、ホルモンバランスの変化を感じたりで、心も体も揺らぎやすい世代。人には言えない辛い思いを抱えている人も多いのではないでしょうか。そんなお悩みに、産婦人科医の高尾美穂先生が優しくアドバイス! 第1回は、産後職場復帰後にちょっとしたことで傷つき辛くなってしまうようになったという、Kさんのお悩みについてです。
【相談テーマ】最近弱まっているメンタルを立て直したいです
相談者:Kさん(36歳)
東京都在住
2歳男の子を子育て中の母
フルタイム勤務
メンタル低下は産後のホルモンの影響⁉
Kさん:育休からの復帰後、コロナになり、リモートワークになっています。リモートで仕事のメールをやりとりする中、人から来るメールの口調などが気になるようになってしまっていて。こうしたメンタルの低下は、産後のホルモン変化など関係あるのでしょうか?
高尾先生:産後のホルモン変化による不調は産後3~4か月がピークで、生理が戻ると落ち着く方がほとんどです。産後2年ということはもう生理は戻っていますか?
Kさん:はい。
高尾先生:であれば、不調の原因が産後のホルモン変化という可能性は少なそうですね。他にホルモンによるメンタルへの影響があるとしたらPMSです。ピルを服用すれば生理周期に関わらずホルモン量を一定にコントロールすることで、不調をなくすことができます。生理前にイライラしやすいなど、不調の時期に波はありますか?
Kさん:う~ん、特に波は感じていないですね。
高尾先生:不調の原因がPMSではない場合や、PMSがあったとしてもピルに抵抗があるという方におすすめなのは漢方です。具体的にはイライラや不眠に効く抑肝散(よくかんさん)や、精神不安に効く加味逍遙散(かみしょうようさん)あたりがいいと思いますよ。人によって合う・合わないがありますが、選択肢に入れてみるといいかもしれません。
Mart世代の睡眠不足は、実はとても大きな問題です!
高尾先生:ところでKさん、睡眠時間は取れていますか?
Kさん:0時くらいに寝て翌朝は6時起床なので、6時間くらいは寝ています。
高尾先生:6時間はちょっと少ないですね。入眠と覚醒前後の30分を引いて考えると、Kさんの睡眠時間は5時間半です。Mart世代の女性は家事・育児そして仕事……と忙しい分、みんな睡眠時間が短いのですが、実はこれ、大問題なんですよ。「睡眠負債」という言葉もありますが、睡眠不足が重なると、メンタルにはもちろん、いずれ体調にも影響が出てきてしまいます。Kさんは今、気になる身体症状はありますか?
Kさん:月曜の朝、体がだるいです。
高尾先生:そのままにしておくと不調が続いてしまうので、できることから1つずつ対応策を試してみてください。忙しくて大変だと思いますが、まず夜10時には寝る生活を1週間試してみて、体調に変化が出てくるかどうか見てみてください。
ネガティブ思考が入り込まないくらい没頭する時間を!
Kさん:しっかり睡眠時間をとりたいとは思っていますが、なかなか難しくて……。どうしたらいいですか?
高尾先生:睡眠時間を確保するためには、集中して仕事を早く終わらせることが必要です。集中力を高めることは、Kさんのメンタル維持にも効果的ですよ。余計な事を考えずに済みますから。特にメールはどんどん開封して、要件に対して回答すべきことをパッと返信すれば十分。メールは手段なんだから、行間なんて読む必要なし(笑)! メールの返信は2分以内と自分でルール決めてもいいと思います。
Kさん:なるほど!
高尾先生:ネガティブなことに引きずられないためには気分転換も大事です。特にテレワークではダラダラ仕事をしてしまいがちなので、時間を区切る工夫をしましょう。タイマーを90分ごとにかけて、時間になったら強制的に10分休憩を取るようにしてみてください。その間にトイレ行ったり、ポストを見たり、コーヒーを入れたりして、家の中をウロウロするといいですね。もちろんお昼休憩もしっかり取ってくださいね。
お昼休憩のときは、軽い運動も取り入れましょう。一度心拍数が上がってから再び下がるときにリラックス効果があるので、心拍数を軽く上げられるラジオ体操なんかがちょうどいいです。タイミング的には動きたくなくなるランチ後よりも、前がいいですね。
あるクセをつけるだけで、性格は自分で変えられる!
Kさん:前はこんなに細かいことが気になったりしないタイプだったんです。
高尾先生:テレワークでメールやチャットだけのやりとりが続くと、細かい感覚を伝えきれずに、曖昧さや誤解を生んでいくこともあります。その結果コミュニケーションのズレが生じている可能性がありますね。オンラインでもいいので、顔を見てのコミュニケーションをとると解消できるかもしれません。それと同時に、元は違ったとはいえ、今は細かいことが気になってしまってつらいということであれば、Kさんが「変わろう」とする意志も大事ですよ。
Kさん:もっと楽天的になりたい……。今からでも変われるんでしょうか?
高尾先生:変われますよ! 楽天的な判断や考え方をするように努力すればいいんです。苦手な人からメールが来た時に「嫌だな」と思っていたのであれば、「返信早くて助かるな」と思うようにするとかね。これまで使ってこなかった前向きな言葉を使い続けることで、そのうち思考回路も変わっていきます。
ポイントは、「楽天的な自分だったらどうするかな?」と考えて、判断するときに一度立ち止まること。とっさだと細かいことを気にする思考回路で行動してしまうので、「じゃない」方の考え方や言葉を探してみてください。最初は時間がかかっても、積み重ねることで、自然になりたい自分の考えや言葉が出てくるようになりますよ。
Kさん:性格は自分で変えられるということですね!
高尾先生:そうそう。これに関しては最低でも2か月くらいは時間がかかりますが、目の前の物事に対する思考や言葉を変えていくことは、人生を変えることにつながっていきますよ!
【高尾先生の処方箋まとめ】メンタルを整えるためにできること
1:漢方を取り入れる
2:睡眠時間を確保する
3:テレワークの仕方を工夫する(集中・時間を区切る・昼休みに軽い運動)
4:対面でのコミュニケーションを取り入れる
5:思考や決断の方法を変え、変わろうと努力する
【相談を終えて】一呼吸おいてポジティブ変換できるよう心がけたいです!
メンタルの不調と睡眠に関係があるとは驚きです! 仕事も、
写真は静岡のクレマチスの丘で、
教えてくれたのは
高尾美穂先生
産婦人科専門医・婦人科スポーツドクター・ ヨガ講師。産婦人科専門医として、女性の健 康をサポートしつつ、それぞれのライフステージ・ライフスタイルに合った治療を提案す る一方、スポーツドクターとして、女性のプロアスリートへのサポートも行っている。
撮影/中林 香 取材・文/須賀華子 編集/倉澤真由美