【小6の受験生】もっとお金をかけるべき?そもそも受験はさせるべき?【受験進路相談】
【今月の質問】
6年生ですが、受験すべきか
まだ悩んでいます
[受験進路相談室]
Hさんの場合
【家族構成】
夫、長男(小6)、次男(小3)
【今回相談する子どもの状況】
小3から日能研に通塾中。ほか、個別指導塾に小4から通塾(一旦休会中)、家庭教師も小5の3月~。その他の習いごとは野球(週1日)とサッカー(週3日)。
小学校の運動会では大活躍。オシャレにも興味あり。彼女もいて、友だちと遊ぶのも大好きで、本人もリア充を認識しています。やりたいことが沢山あるなかで、日々逃げてしまう勉強。中学受験もするとは言いますが、毎日計算と漢字をやらせるので精一杯です。頑張れば勉強でも結果が出ることがわかるかと思い、個別指導塾や家庭教師もつけましたが、つけた時間とお金の分だけ成績も上がり、つけないと落ちます。偏差値は1年間で10落ちました。監視をすれば成績も上がることはわかったのですが、それでは中学校でも見続けないといけないので、少しでも自ら勉強してほしいと思っています。これ以上お金をかけるべきか、そもそも受験をさせるべきか、本当に息子は受験をしたいのか? 色々わかりません。
いまの状況がどういう風に変わっていったら、
お母さんの不安や不満が軽減されると思います?
H(相談者):うちの場合はまず、勉強以外のことがすごく得意で、運動をやらせると運動会でも一番目立って他の学年の知らないママにも噂されちゃうくらいだし、友達関係も良好というかややヤンチャなくらい。スポーツ以外にもファッションにも興味があるし、毎朝ドライヤーかけちゃうし、彼女はいるし、みたいな感じで。
オ(おおたさん):中学受験も、自分でやりたいと言ってるんですよね?
H:特に強い意志があったわけではなくて、友達が日能研に入ったから自分もという感じで、今も「なんでやるの?」って聞くと、せっかくここまで頑張ったから無駄にしたくないと言います。
オ:なるほどなるほど。ご相談内容としては、どの辺がポイントになってきますかね?
H:受験するかもそうですし、今一番悩んでいるのは志望校です。サッカーと野球をやってるんですけど、中学からは駅伝をやりたいというので、該当する学校を3校ピックアップはしたんですが、偏差値でいうと、57と50くらいと35くらいのと、バラバラしていて。本人の偏差値は今40くらいです。今の偏差値に対して上二つはかなり無理があるし、偏差値35の学校に行くために、家庭教師つけなきゃいけないの?という思いも正直あります。
オ:いまの状況がどういう風に変わっていったら、お母さんの不安や不満が軽減されると思います?
H:私が考えているのは3つです。一番いいのは本人の偏差値が上がって50ちょっとの学校を目指せるレベルになってくれること。2つ目は志望校の範囲を広げること。3つ目は、現状を受け入れる。もうこのまま変わらない可能性がかなり高いから、腹を括るっていうんですかね。お金も時間もかけるけど偏差値35の学校に行くっていうのを。
オ:3つの方法があるとおっしゃってるのはその通りです。自分のスタンスの選び方があるんだと気づかないお母さんが多いのに、そこが見えているのは素晴らしいと思いますね。駅伝の強い学校っていうのは3つくらいあるんですね。
H:付属じゃないところであればもうちょっと幅は広がるんですけど、本人は大学受験をしたくないと言ってるので。本人の希望はもうこんなに辛いなら受験は一回で終わらせたいって。
オ:それもすごく真っ当な感覚ですけどね。
H:そうはいかないよって思ってはいるんですけど。
オ:そうはいかないっていう現実にぶち当たるのも一つのいい経験だし。でも、受験がしんどいっていう感覚、はっきり言って僕も受験システムってクソみたいなものだと思うので、そこを見抜けるのはすごくいいセンスだと思うんです。その渦中にいながら、でもここまでやってきたから最後まで頑張りたいって思うことはすごく賢いと思うし、サッカーやっても野球やっても結果が出るのは学びのセンスがいいんだと思う。生きていく上ですごく重要な能力に長けていて、だからこそ中学受験のクソシステムに乗っかり切れない葛藤があるんだろうなと思いますね。すごく自律的なお子さんだと思うし、いかに彼の自律性を潰さないようにするかっていうのが息子さんの子育ての一番重要なところかなっていう気がします。そこにきて、先ほどの3つの立ち位置があるっておっしゃられた考えの整理の仕方とか、お話をされている時のお母さんの口調からも、自分にできることって限られてるとか、息子さんの個性や人生を認めてらっしゃるのもすごく伝わってくるんですよ。すごく立派だなぁと思って。僕からアドバイスするようなことはほとんどなくて、お母さんがしっかりされているからこそ、こうやってセンスのいい子が育つんだろうなって思いながら聞いてます。
H:いえいえ。
オ:さっき3つのスタンスがありましたよね。最初の一つは願望じゃないですか。でも、多くの人はこれに固執するんです。でもお母さんは、それはあくまでも本人次第だし、頑張ったからってどうにかなるとも限らないってちゃんとわかってる。現実的にお母さんがどうにかできるのは2か3じゃないですか。そこで言うと、2ができれば、現状を受け入れるっていう3の葛藤は解消できることなのかしら?
H:最終的に3となると、お金のことにもやもやしますね。たとえば日能研の志望校別特訓とかはキャンセルしちゃったんですよ。代わりに家庭教師にしてるんですけど。ランクが高い家庭教師を選んじゃったので、最終的に3になるのなら、ランクを下げてもいいかな、とか。
どんな学校に行くことになっても
あなたならまた新しい道を
素敵に歩くことができると思うよっていう
励ましをしてあげると、
お子さんにとっての一生の励ましになる
オ:特訓みたいなものにお金をかければ成績が伸びるかって言ったら絶対そうじゃないから。不必要なものをやらされたら負荷がかかってパフォーマンスが落ちるはずだから、適度に引き算してあげるのは前向きな意味で正しいと思うし。あとは家庭教師に対して息子さんがどういう風に感じてるか。家庭教師がいてくれることを頼もしいと思っていて、それが息子さんの心の安定や頑張る力の礎になっているなら続ければいいし、単にお尻を叩いてくれる存在なら引き算しちゃってもいいのかもだし。
H:3月末くらいからお願いし始めたんですけど、だんだん息子のレベルがわかってきて、まずは基礎からやりましょうっていうことで、6年の夏休みなんですけど計算問題をずっとやってるんですよ。
オ:家庭教師の先生にとって、なかなか勇気がいることだと思うんですよ、6年の夏に計算問題をやるって。だから自信があるんだろうなと思いますし。期待しないで聞いてほしいけど、たしかにこういうセンスがいい子は基礎が固まると伸びる可能性があるかなと私も思っちゃいます。問題は、要するに何のために家庭教師をつけてるかっていうことの整理になると思うんです。一つわかりやすいのは、短期間で成績を上げてくれるっていう、世の中一般に思われている価値。でも、僕が付き合いのある優秀な家庭教師が何をやってるかというと、この子がこの子らしくあるがままに生きていくために、いまこの中学受験をどう乗り越えるべきなのかをアドバイスしてます。そういう人たちが優秀な家庭教師だなって僕は思うんです。息子さんが家庭教師に信頼を置いていて、この先生がアドバイスしてくれるようにやって得られた結果なら納得して受け入れるって思えるなら、それってプライスレスだと思うんです。そこで仮に35の偏差値のところに行ったとしても、お子さんには成功体験になると思うんです。自分らしく受験ができた、もともと駅伝がやりたい中で自分はここを選んだって思えたら、そこに堂々と通おうって思えると思うんです。そういう中学受験ができたら理想だなと思うので、お金と時間はかかりますけれど、特にお金の部分に関しては、かけたお金がどこでどう返ってくるかっていうのを視野を広げて、もう一回家庭教師の価値を考えてみると、少しはもやもやも和らぐのかなって。話はちょっと脇にそれちゃうけど、今の中学受験で特に大手の塾に通っていると、どうしても大手のパッケージ的なやり方で子どもを当てはめがちなんですよね。それがたまたま合う子はいいけど、子どもは一人一人違うので、そこで違和感を持った子がいた時に家庭教師っていうニーズが高まってると思うんです。でも、ただ単にお尻を叩いてもらって成績を無理やり上げるためだけにつけるなら、むしろつけない方がいいと僕は思ってるんですよ。試行錯誤して自分の学び方を身につけていく機会を奪うから。
H:見張り続けて、言われた通りにやらせれば成果が出るっていうのは春休みに確認したんです。その時は偏差値50くらいに上がったんですよ。でも、そのやり方じゃしょうがないので。
オ:そう! そこで、そのやり方をやってもしょうがないって手を離せるのが素晴らしいし、それって大正解だと思いますよ。伸び代は確認できるわけじゃないですか。基礎力をしっかり固めた上でできる範囲で自分でやってみようって本人が思えたら、その伸び代まではいくはずだし、その可能性が十分ある子な気がするから。
H:早く気づいてほしい。
オ:気がつくような気がしちゃうなぁ。
H:2月に間に合うかはわからないですよね。
オ:そうそう、それが2月の2日や3日に気づくこともあるんですよ。
H:全部落ちてから、あ~ぁって気づくのかなぁって。
オ:ちゃんと選べば大丈夫ですよ。でも一部で悔しい不合格を喰らってそこに甘さがあったんだなぁって学べれば、それは先の人生にも活かせる強烈な教訓になるから。志望校の範囲を広げるっていうのは、おそらくこれからお母さんはやっていかれると思うし、見つかるんじゃないかなって。さっきの3校を軸にしながら、どんな学校に行くことになってもあなたならまた新しい道を素敵に歩くことができると思うよっていう励ましをしてあげると、お子さんにとっての一生の励ましになる。お母さんが12歳の時にこんなこと言ってくれたなって。就職でも何でも悩んだ時に、それが一生の支えになると思うんです。息子さんにはぜひ日本の受験システムに過剰適応しないで、そのセンスを最大限に活かしてほしいなと思います。2月1日の朝もちゃんとドライヤーかける子でいてほしいなって。
H:ドライヤー、かけると思います(笑)。
オ:そういう子でいてくれたら、すごく楽しい人生を送るんじゃないかな。
H:だから、中学受験しても楽しいし、しなくても楽しいだろうなって。どこに行っても楽しめる子なので。
オ:そうそう、そうやってお母さんが信じられてるから、お子さんも自然にそう思ってると思うんです。それが子どもを信じるっていうこと。そこが素晴らしいなと思って。今回はお悩みじゃなくて、こんな素敵なお母さんがいましたっていう回ですね。でも、息子さん、なんか見つける気がするなぁ。今は色々試行錯誤している段階で、でもこれだけ自分で考えてできる子なら、最後に俺の中学受験はこうなんだって決められると思う。振り返ると、あの中学受験っていい経験だったなって親子で思えると思う。
このお母さんはこのスタンスのままいったらいいと思います。想いは十分息子さんにも伝わってると思うし、後ですごく感謝されると思います。中学受験という範疇を超えて、子育てのスタンスとして、素晴らしいと思います。すごく心温まるお話を聞かせていただきました。
Profile
おおたとしまさ
教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/
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イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子
VERY NaVY11月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2022年10/6発売VERY NaVY11月号に掲載しています。*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。