日光でじんわり感じた心の触れ合い

「私たちのCHALLENGE STORY」を担当しているライターの孫 理奈です。6月号のテーマは「母と同じ道を行くということ」。あえて母と同じ道を選んだ方のストーリィです。今回は伝統工芸日光彫の平野秀子さん、央子さん親子を取材しました。

全盛期は約400人の方が関わっていた日光彫ですが現在は衰退の一途を辿り、彫師さえも10人ほどしかいません。しかし女性初の彫師の母を継ぎ、彫師の世界に飛び込んだ央子さん。そのきっかけとなったのは、電気が点いた部屋でひとり作業するお母さまの姿でした。「母と同じ道を行けば比べられるのはわかっているけど、悩んだときに聞ける存在は大きい」と央子さん。このまま日光彫がなくなるのは寂しい、ではそうしないためには日光彫をどう発信していけばいいか? 向ける視線の先を同じくし、協力して頑張っていく母娘の姿が見えました。「現在は外国人のお客様も増え、昔のような大量注文よりオンリーワンの作品が求められるのを感じています」と、自分探しに余念がありません。

お宅にたくさんの日光彫の作品があり、2代目であるおじいさまと平野さん母娘の作品を拝見しましたが、「ここまで違うとは!」と驚きました。「彫刻は性格が出るんですよ」という言葉に納得。男性であるおじいさまの作品は線が優しくて女性らしく、お母さまは迷いがない勢いが感じられる作品でした。そのおじいさまが亡くなられる際、「跡を継いでくれて私は幸せだった」とお母さまに言葉を遺したそう。同じ道を選んだ央子さんに、お母さまもいつかそんな想いを告げるのかなと取材をしながら感じました。「この日は定休日のお店が多いから」とお昼ごはんを準備してくださり、湯葉もごちそうになりました。日光ならではのおもてなしを受けて、心もじんわり熱くなりました。人との触れ合いを感じられるのがこの仕事の良いところで、いつも取材先でこんな有難く嬉しい気持ちをたくさん感じています。

日光に行ったのは修学旅行ぶりだったので、取材後にカメラマンさんと日光東照宮を観光して帰りました。お話を伺った後だったので彫り方が気になって仕方がない観光になりました(笑)。いろんな視線で見たら観光ってさらに深く楽しめるんですね! しかし花粉症の時期で目と鼻が大変なことになり、帰りの電車は2人共ぐったり。そんなエピソードまで楽しい思い出になりました。

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