世界で活躍する19歳バレエダンサー永久メイを救った先輩のことば

アジア人が不利とされているものはいろいろありますがバレエもそのひとつかもしれません。骨格が違う、目の色髪の色が違う、メンタルも違う。でも、ロシアの世界的なバレエ団でひとり、主役を踊る19歳がいます。それが彼女、永久メイ。JJ12月号ではそんな彼女のインタビューを掲載しています。今回はそのインタビュー【後半】をご紹介します。

【PROFILE】
2000年生まれ、兵庫県出身。13歳でモナコ王立グレースバレエ学校に留学。在学中にスカウトされ、卒業後、マリインスキー・バレエ団に入団。マリインスキーはロシアバレエの双璧をなす世界屈指のバレエ団。10代で主役を踊るのは日本人として初。

「できないのにできる、と言うことは無責任だ」

―15歳で世界5大バレエ団のひとつ、ロシアのマリインスキー・バレエ団の芸術監督からスカウトされ、そして今年、ずっと夢だった『ジゼル』の主役を踊りました。日本人初の快挙です。

まず「練習していいよ」って言われた時、泣きました(笑)。『ジゼル』は悲恋の話ですが、主役の村娘ジゼルの気持ちはJJ読者のみなさんにもきっと共感してもらえるはず。喜び、悲しみ、切なさ、色々な感情の表現や解釈がダンサーによって違うので、ダンサーとしては踊り甲斐のある演目です。個人的にも一番大好きな演目なんです。そんな『ジゼル』の主役ができることになって、舞台まであっという間でした。

でも実は公演の1週間前にスランプに陥り、今までできていたことが何もできなくなってしまったんです…。そんな時、憧れのエカテリーナ・オスモールキナさんに「舞台では練習は裏切らない。今までしてきたことの成果が出るだけ」とアドバイスしていただいて。どんなにできなくても、努力を続けて、それを自信に変えていくしかないと痛感しました。本番はもうやるしかない!って挑みました。冷静でいられた自分が逆に不思議でしたね。母が側で見守ってくれていたというのもあるかもしれません。

―そして今、マリインスキー・バレエ団の2年目ですね。JJ読者でいうと社会人2年目のような感じかなと思いますが、いかがでしょうか。

1年目よりも大役に恵まれてロシアでも少しずつ認知されてきたこともあり、前よりも緊張するようになりました。でも今は、緊張した方がいいパフォーマンスができると思っています。リラックスしすぎると失敗に繋がってしまいます。本番前はあえて心配な点を考え、適度に緊張感を保って自分のパワーに変えられるように心がけていますね。

実は今年の6月に怪我をして、バレエを始めてから人生で一番長くお休みしています。モナコでは先生方が厳しかった半面いろいろとサポートしてくれていましたが、ロシアではひとりだからその分不安。怪我をしても最初は無理をしてレッスンに出ていました。ドクターストップがかかっても、出欠を取る係の人の目を盗んでレッスンに参加するぐらい、とにかくバレエを休むのが怖かったんです。このまま休んで、筋肉がなくなって踊れなくなるんじゃないかって。

でもいつものパフォーマンスができないのに「できます」って劇場に申告して結局踊れなかったり、公演でも力を出し切れなくて…。その時、「できないのにできる、と言うことは無責任だ」ととても反省しました。自分としてはとにかく頑張りたい、と思って無理をしたけれど、その結果いい仕事ができないのであれば、何よりお客さんに失礼だし劇場にも迷惑をかける。尊敬する先輩に「今きちんと休まないと、長い人生バレエをやっていけないよ」と諭されたのも大きかったです。プリンシパル(ダンサーにおける最高位)の方々は、みなさん圧倒されるぐらい努力をして、自己管理を徹底しているんです。それを見て、今、無理をしたら体がボロボロになって将来後悔すると、やっと気が付けました。

―休む時は休む。ずっと働き続けるには必要なことかもしれませんね。

今は夏休みということもあり、日本に帰ってきて母や妹とおしゃべりしたり、出かけたり。貴重なお休みなので、バレエのことは考えないようにしてコンビニ巡りをしてみたり、TDLに行ったりしています。日本のドラマや映画が大好きで、それもリフレッシュ法のひとつですね。今は、『あなたの番です』に夢中。日本にいるうちに映画もいろいろ観に行くつもりです。本当にフツーの19歳ですね(笑)。

ただ、とにかくバレエが好き。バレエを踊っていないと落ち着かなくて、不安になるんです。だから、踊れなくなることが一番のストレス。踊りに対しての厳しい評価を見てしまうと、かなり落ち込んでしかも結構引きずりますし…。でもなるべく自分に集中して、自信を持てるように努力している最中。どんな小さなことでも自分の力をすべて出せるようにしていたら自信になるし、それを続けていれば誰かが見てくれていて、結果に繋がるから。

3個下の妹みたいに、流行に乗ってタピオカとか飲んで楽しそうにしているのも羨ましいなって思うこともあるんです。でも、今まで努力してきたことを無駄にしたくないっていう気持ちと、バレエを踊っていたいという気持ちが上回るんですよね。だから、SNSで調べたトレンドは、妹に報告して、代わりに経験してもらったりしています(笑)。

オフの顔は普通の19歳!?

モナコに留学1年目、13歳の頃。バレエは楽しいけれど、環境の変化に戸惑っていました。

これが、マリインスキー劇場。今はこのすぐ近くの寮で生活しています!

夏休みは日本に帰国。妹と大好きなTDLへ行きました。バレエを忘れて、しっかり満喫♪

撮影こぼれ話

「すみません、もう1回いいですか?」。素人から見ると完璧では?と思えるポーズも、自分から申し出て何度もトライしていた永久さん。美しすぎて、尊い!2020年には同じロシアの名門「ボリショイ・バレエ団」が、2021年には永久さんが所属する「マリインスキー・バレエ団」が来日するので、観に行
くことを決意!

撮影/井上ユミコ ヘア・メーク/佐川理佳(TRON) スタイリング・取材/味澤彩子 編集/小林麻衣子
※この掲載の情報はJJ12月号を再構成したものです。