水森亜土の元アシスタント・イラストレーター「東ちなつ」が若い女性の心を掴むワケ

可愛くてドリーミーで憧れる。そんな世界をつくり続けるクリエイターに今までのこと、これからのことをインタビュー。今回お話を伺ったのは、雑誌、広告、プロダクトデザインなど、各方面で活躍する東ちなつさん。チャーミングで多幸感溢れる女性の夢や喜びを表現する彼女に迫りました。
 

Interview

眩しい笑顔よりも、どこか憂いのある微細な表情を浮かべている女の子の絵。イラストレーター・東ちなつさんが描く女の子は、リアルで生々しく、でもそれがとても可愛くて甘い。誰かのいつかの瞬間に寄り添ってくれる絵に、思わず胸がひりひり、どきどき。だからこそ、幅広い世代の女心を掴んでいます。
 
「人生をすごく謳歌している子よりは、コンプレックスがある生きづらそうな子が好きなのかもしれません。自分もそうだっただろうし、そういう子の傷を癒してあげられたらなって。彼女たちのギザギザハートに染み込むような絵を描きたいという思いはいつもありますね」
 
柔らかな描線に強い思いを宿している東さんは、小さいころからイラストレーターを目指していたそう。新聞社でデザイナーをしていたお父様の影響で画材などが身近にあり、小学校高学年のときにはすでにイラストレーターという職業を知っていたのだとか。やがて、本格的に学ぶために日大芸術学部に進学。在学中に、ひょんなことから水森亜土さんのお手伝いをすることになります。
 
「亜土さんは、私の中で大きな存在です。当時ネット環境も整っていない中、亜土さんのことを調べて会いに行き、“好きです”と告白し(笑)、ラッキーなことにお手伝いをするようになって、たくさんの時間を一緒に過ごさせてもらいました。アンニュイな女の子も描けて可愛いキャラクターも描ける、ご自身もパワフルで好奇心旺盛で可愛らしい。素敵な方だなと今も尊敬しています。自分からアクションを起こすと会いたい人に会えるんだな、行動するって大事なことだな、と実感したのもこのとき」
 
大学では安西水丸さんのゼミに入り、そのご縁で原田治さんが主宰するイラストスクールへ通うことに。そこでの学びや出会いが、東さんのイラストレーターキャリアを一歩前に推し進めました。復刊する雑誌『Olive』で挿絵を描くことになったのです。
 
「小さな挿絵でしたが、本当に嬉しかったですね。このときは女の子の絵ではなく、竹久夢二、中原淳一に影響されたようなレトロで乙女な模様(パターン)をたくさん描いていて、それが採用されました。イラストレーターとしての最初の仕事です」
 

ギャラリー絵夢で行われた、水森亜土さんの個展をお手伝いしたときのもの。「“東ちなつ”という名前を看板に書いてくださって、感無量!」
 

5年前に息子さんが生まれてから、作品を描くときの気持ちに少し変化が生まれた

 
「若いころは、あまり人のことを考えずに描いていたかもしれません。尖っていたと友人達には言われます(笑)。私自身が人間と仲よくなりたい気持ちだったというか……『泣いた赤鬼』時期だったんですね、きっと。今は、もう少し柔らかい気持ちで描いている気がします。みんなと共感したいという思いがあって」
 
その表現の一つとして5年ほど前から取り組んでいるのが、砂糖細工作家としての活動「NEW KINKATO(ニュー キンカトウ)」です。「イラスト作品につけたりしていた小さな樹脂パーツを、樹脂の代わりに砂糖でつくるようになりました。地元・金沢に金花糖(きんかとう)という、煮詰めた砂糖を木型に流し入れてかたどってつくる伝統菓子があります。すべてが砂糖でできていて、色がふんわり可愛くて、作品に取り入れたいと思ったんです。昔から身近にあったものですが、現在は職人さんが少なくなっているという話を聞き、盛り上げられたらなと思い、芸術・アート作品に織り交ぜながらNEW KINKATOという活動をするようになりました。マザーグースの詩にあるみたいに、女の子ってお砂糖とスパイスでできているんじゃないかと思っていて、まさに女の子の二面性を描く私の作品とすごく親和性があると感じたんです。だから私が砂糖細工作家になったことは、偶然ではなく必然で、“私はこれをやらなければならない”と思い、作品をつくり始めました」
 

一見儚そうに見える東さんですが、“自分はストロングスタイル”と話します。

 
「思いは強いんです。好きなことがあるって実はすごく強みで。年を重ねたら落ち着いた格好をしなければと常識や固定観念があると思うんですけど、結局自分が好きなものがいちばん心地いいですよね。それと社会と折り合いをつけつつ、“そうしなくてはならない”とは女の子達に思ってほしくない。だから彼女達に、自分の好きなものをずっと好きでいいんだよ、と言ってあげられるような作品をつくりたいなと思っています。可愛いものやピンク色から卒業しなくていいんだよ、って伝わるものを」
 

Works Archives


 

 

 

尖っていたと言われる(笑)、日大芸術学部時代。

 
 

CHINATSU HIGASHI

東 ちなつ・イラストレーター、砂糖細工作家。金沢市出身。ペインティング、ハンドクラフト、コラージュなど、平面と立体を使い、チャーミングで多幸感溢れる女性の夢や喜びを表現。雑誌、広告、プロダクトデザインなど、各方面で活躍。
 
 
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