のちに”青田買い自慢”できそうな才能発見!|大久保佳代子のあけすけ書評

純文学度高めですが、 おうち時間、エンタメ小説の間に読んでおくと 後々”青田買い”を 自慢できそう!

五大文芸誌のひとつ、文藝賞の第56回受賞作。純文学系は苦手意識があり敬遠しがちなのですが、分量が少な目なのと好きな作家である村田沙耶香さんのコメントが帯にあることで手に。文学濃度は濃いけれど描写が俯瞰的で簡潔、淡々と一定のペースで無機質に進んでいくので一気に読了できました。

終始、主人公の男性「私」(山田と呼ばれているが本名は不明)のアイデンティティ、自意識、エゴイズム、絶望や希望などがドロドロとうごめいている印象。おそらくLGBT的な葛藤を抱える彼が、女相手に勃起する強い男性的性欲を持ちながら、美に執着し女装にハマっていく姿は、滑稽に思えそうだが、全くそんなことはなく怖さを感じる。主人公にとっては「美しさ」が全てであり、そうでない「醜い」ものは徹底的に軽蔑。その見下し方があまりにも酷く、セックスや暴行の描写もかなりエログロなため、読後は少なからず不快感が残ります。さらに「この作品は何が伝えたいんだろう?」と不可解感も。でも、不思議とクスッと笑えたり共感できる部分も所々に。

私がもっとも感情移入できたのは、主人公の同僚かつ女友達であるつくね。「つくねの顔立ちは(略)上の前歯がいくらなんでも前に出すぎているし、目が小さい。鼻が下向きの矢印のようなかたちをしていて気持ち悪いし、輪郭もなんだかいびつだった」という酷いブス描写。主人公は、つくねが美しくないから劣等感を抱くことなく安心して付き合えると。この気持ち、非常に分かります。私も仕事柄、最高レベルに美しい女優さんと共演することがあります。そういう時、自分を汚物のように感じ存在を消したい気持ちになることが。時に「美しさ」って「財産」や「地位」なんかよりもずっと最強となり得ます。「美しくないことによって、人生のあらゆる局面で、死ぬまでずっと損をし続ける」のも確かにそうかもしれない。あと、つくねはバンドを組みドラムを担当しているのですが「ブスだから何か他のことで頑張らなくちゃっていう、そういう意識があったような気が」と。これまた私も学生時代、自分が美人でないと自覚した時から面白い人になろうと「人は見た目より中身」へシフトチェンジを。結果、今現在「見た目」である「醜」よりのビジュアルを生かした仕事をしているという皮肉な結果になっていますが。今、まとまった時間がある中で、気軽なエンターテインメント小説にちょっと飽きてきたのなら、スパイス的に挟み込む一冊としておススメします。『改良』というタイトルの奥深さを含めて読む人それぞれの感受性に丸投げしてくるのを受け取ってみてください。ぜひとも美人側の人の感想を聞いてみたいところです。

『改良』 遠野 遥 河出書房新社 ¥1,300 女になりたいのではない、「私」でありたい。ゆるやかな絶望を生きる男が唯一求めたのは美しくなること。圧倒的な筆力とニヒリズムで迫る28 歳の新しい才能はショッキング!
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おおくぼかよこ/ ’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」 (TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。

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取材・文/柏崎恵理
※2020年6・7月合併号掲載
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