専門家に聞いた「 ウィズコロナ時代の夏のお出かけ」どう変わる?

長い自粛期間を経て「そろそろ子どもとお出かけしたい」と思っているママも多いのでは。6月19日から外出自粛解除が全国に適応され、8月からはソーシャルディスタンスを保ちながらの県をまたぐ観光振興も始まる予定です。一方で「新しい生活様式」には「旅行はひかえめに」とあり、WHOも可能な限りSTAY HOMEを推奨。ママの間からは「結局、旅行して大丈夫なの?」「日帰りのほうが安心?」「新幹線や飛行機は?」と戸惑う声も。まだまだ分からないことも多い、ウィズコロナ時代のお出かけ事情。アメリカの国立研究機関博士研究員でウイルス学・免疫学が専門の峰宗太郎先生にママの疑問をぶつけました。

 

峰宗太郎先生が提案「今年はお出かけの予定をたてる前に、まずは家族で話し合おう」

「この感染症は非常にやっかいなところが多く、とてもむずかしい相手です。『ただの風邪』『インフルエンザのほうが危険』という人もいましたが、インフルエンザよりも重症になる人が多く、亡くなる人も多い。でも、例えばエボラ出血熱のように感染したら多くの人が亡くなってしまう病気とは異なり症状の重さにばらつきがあり半分程度の人は無症状で普段通りの生活を送ることができる。だからこそ、無自覚に出歩いてしまう場合があり収束させるのが難しい……。今、できることは一人ひとりが『手を洗う、マスクをする、体調不良なら外出しない。 “人から人”の感染が主なので不特定多数の人との接触をできる限り避ける』という感染症対策の原理・原則に基づいて賢く行動すること。そして、家族でリスクの取り方を冷静に話し合うことです。

 

国の政策は『感染症対策と経済対策を天秤にかけてどちらもダメージをそこそこに抑えていく』という方向なので、政府が規制をまた強化するのは医療崩壊が起きそうな方向になった時ではないかと個人的には考えています。ワクチンができるまでの間は旅行をしない、その1年も貴重だからリスクを負って旅行する、どちらが正解とも言えません。『誰かがこう言っているからこうするべき』という明確な指標はなく悩むお母さんも多くなるでしょう。でも、ウィズコロナで生活していく今後は、自分たちで判断していくことに慣れていかないといけません。リスクをとること・自分で判断して責任をとるということに慣れていないと最初は難しいと思いますが、この感染症に対する『さじ加減』や『相場観』を掴めれば徐々に適応できるはずです。まずはどの程度のリスクなら許容できるのか、『うちはどの程度のお出かけからスタートさせるのか』ということを話し合うべき。家族の価値観をある程度すり合わせておく必要があると思います。

 

外に出ることを過剰に恐れていると子どもも大人もメンタル的な問題が生じるので、人との接触を減らすことを意識したお出かけは積極的にしてほしいと個人的には思っています」

次のページでは、ママからの質問を先生にぶつけてみました!

Q久しぶりの旅行を計画しています。あまり遠出はしないほうがいい?(A.Kさん・3歳の男の子ママ)
「旅行に限らず何事もリスクを下げながら、が望ましいです。まずは近場・公共交通機関を使わずに自家用車で行ける範囲からが安心かもしれません。感染症の流行は “人の移動”そのものよりも“発症する人と接する機会”が増えることで拡大します。移動を控えるよりも不特定多数の人との接触を避けるほうが大事ですね」

 

Q自家用車がない場合、レンタカーやカーシェアは? 飛行機・新幹線の利用は?(A.Iさん・1歳の男の子ママ)
「インフルエンザと同様に“人から人”の感染が多いのが特徴なので、レンタカーやカーシェアでもしっかり消毒、手を洗えば過剰に恐れる必要はありません。飛行機や新幹線については乗客全員が黙って乗っている分にはそこまでリスクは高くないですが、お酒を飲むなどしたり大きな声で話したりしている人がいればリスクは高まります。公共交通機関を使用すれば不特定多数の人と接する機会が増えます。心配になって楽しめなくなっては本末転倒。計画の時点からどれくらいリスクをとれるか、家族で話し合いを」

 

Q高齢の両親との旅行や、妊娠中の旅行。新生児を連れての旅行は?(Y.Kさん・4歳の男の子ママ)
「高齢者(65歳以上、リスクは年齢が上がればより高まります)、持病を持つ人、そして妊婦さん。感染すると重症化する可能性が高い人=ハイリスクの方々はより安全に過ごすのがベターですね。今年は行動を制限し我慢してもらう夏になりそうです。新生児の感染報告はありますが亡くなった例はわずか。ある程度は大丈夫ですが新生児はいろんな病気には弱いので、感染症が流行している状況では慎重に」

 

Qこの夏、帰省したり、親戚で集まるのは控えるべき?(A.Dさん・3歳の男の子ママ)
「『するな』とも『しても大丈夫』とも言えません……。帰省する人が増えると思いますが、どれだけの規制をすれば次の流行が抑えられるかは誰にも分からない。一人ひとりが感染状況を把握しながら感染症予防の原理・原則から考えた上で判断を。ただ、感染症対策という面だけでなく人との接触を怖がる・拒否する・“自粛警察”と呼ばれる人もいるので、帰省先でのびのびと過ごせるかどうかを考えるとリモート帰省を楽しむのも手ではないでしょうか」

 

Q行き先で気をつけることは?医療体制が脆弱な離島、また海外などは避けるべきでしょうか。(K.I・1歳の女の子ママ)
「国内に関しては、国が規制するほどの流行状況ではなければ個人の判断に。自分が感染するリスクも、自分が人に感染させるリスクも、深刻度の受け止め方は個人で違うので各自で考えて行動するしかない。自分が人に感染させてしまうのでは、と気になるなら旅行は控えたほうがよいでしょう。ただ、海外旅行に関しては国内の旅行と同列には考えることができません。感染流行が落ち着いていない地域も多いので国内よりもリスクの高さは高いでしょう」

 

Q旅行する際、宿泊先をどのように選ぶべきでしょうか。貸し切り宿やキャンプ場のほうが安全?(K.Kさん・4歳の男の子&2歳の女の子ママ)
「宿泊先は“不特定多数の人とどれくらい接するか”が判断基準。一棟貸しの宿泊施設でもフロントで不特定多数の人と接することがあれば安全とは言えず、そういう意味では大型ホテルでもキャンプ場でもあまり変わりはありません。いちばん気をつけたいのは宿泊施設での食事。クラスター発生状況を分析すると宴会、ビュッフェ、飲み食いしながら歌う場所はあきらかにリスクが高い。このスタイルでの食事が組み込まれた旅行は感染の可能性が非常に上がるので、ツアーなどを利用する際は個人で注意を。複数ファミリーで旅行に行く場合も、食事は家族単位で、とするのも安全策としては有効でしょうね」

 

Q友人家族とのBBQやキャンプは?(M.Sさん・7歳&4歳の男の子ママ)
「汚染されたものを触れることで感染する接触感染に気をつけるよりも、“感染者がいる可能性がどれくらい上がるか”を意識するのがいいでしょう。人数が増えれば感染者がいるリスクは上がります。結果的に誰も感染していなければ楽しい時間を過ごして終わりですが、クラスターになる可能性も。お互いをどれくらい信用できるか個人の判断に任せるしかないですが、大人数でのキャンプやBBQはつい気が緩んで感染症対策の原理・原則を徹底できなくなるので、まずは“家族単位”で行動することからスタートさせるほうが安心なのではないでしょうか」

 

Q日帰りのお出かけについて教えて下さい!(A.I・4歳の男の子、1歳の女の子ママ)
映画館はそこまでリスクが高くないと言えます。黙って座っているのであれば感染のリスクは通勤の満員電車と変わらない。ただし、ほかの人が触れる場所を触ったらその都度手洗いを。海や山、川などアウトドアは人と人の距離がたも保たれていればリスクは少ないでしょう。マスクはそもそも人混みでないと意味がないので、人と接触する時はしているほうが安心ですが周囲に人がいなければ外していても問題はありません。基本的に公園やアスレチック施設などの屋外は人が密集しなければリスクは高くないし、人が密集すればリスクは上がります。温泉・入浴施設は一概にリスクが高いとは言えませんが、サウナなどでも感染者が一人いればリスクは高まります。レジャー施設は絶叫系のアトラクションでは大きな声を出さないというのは難しいでしょうから飛沫感染のリスクはあります。ガイドラインなどを制定して様子をみながら再開していくことになるでしょう。ライブ、屋外フェス、夏祭りは屋外であっても人が密集して声を出したりするので当面は難しいのではないでしょうか」

 

ワクチンが開発されるまではおでかけに限らず、あらゆる生活でリスクがあり、それをどう受け止めるかは個人・各家庭で決めていかなくてはいけない――。
ママとして、家族を守るため情報感度の高さや判断力を養っていく必要がありそうな、この夏。峰先生の言う通り、賢く行動して、夏の思い出を作れますように。

峰宗太郎先生

医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部卒業、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科修了。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。病理学・ウイルス学・免疫学が専門。新型コロナウイルスの最新情報も積極的にシェアを行っている。Twitter:@minesoh

取材・文/増田奈津子