【アラサーの悩み】「男ウケ」って目指すべきなの?|小説家「山内マリコ」さんからのメッセージ

恋愛に仕事、将来のこと…アラサー世代は日々「このままでいいのか」「こうでなくてはならない」という悩みを抱えていたりします。でもそれって、本当に自分のための悩みなのでしょうか。不特定多数の「誰か」のために、無理をしていませんか?そんな窮屈さを抱えているみなさんに、小説家・山内マリコさんの『The Young Women’s Handbook 女の子、どう生きる?』から抜粋したエッセイをお届けします。大切なのは、他人ではなく、自分で自分を「いいね!」と思えること!

結論、女っぽいを目指さなくていい!

〈人生得するのは「女っぽい顔」に「シンプルなおしゃれ」!〉と銘打たれた今月号(『JJ』2018年4月号)。なかなかの身も蓋もなさで、これぞ赤文字系雑誌のコピーという風格です。

シンプルなおしゃれで「人生得する」のはなんとなく想像がつきます。服に無駄なお金をかけないセンスは、間違いなく人生において有益です。しかし「女っぽい顔」で人生得すると言われると、「ええーっ!?」と思ってしまう。なにかたくらんでそうですが、ろくなことにはならなそう。そもそも、世の中いろんな女性がいて、「女っぽい」の定義だって女の数だけあるはずです。

なのに一人一人の持ち味を無視して、「女らしくしなさい」と強引にふりかざされることがあります。親にそう言われたことのある女性も多いのでは?

ここでは顔だけに限らず、ちょっと「女っぽい」について考えてみます。

「女っぽい」ないし「女らしく」が意味するイメージは、たぶんこんな感じです。外見はきれいでかわいくて、愛嬌がありよく笑い、華奢で小柄で、清潔で上品でちょっと色っぽい。性格は優しくて明るくて、穏やかで控えめ、でも芯はしっかり強い。得意なことはお料理で、赤ちゃんや子供が大好き。お年寄りにも親切だし、とにかく家庭的で素直で愛情豊か。尽くすタイプ。

これらの特性は、そりゃあ素敵です。美人で性格もよくて、高嶺の花として男性たちから崇められてそう。だけど完璧に女らしい女性って、生身の人間ではない感じがします。あまりにも都合よくできているキャラクターというか。自我のある人間ではなくて、男の妄想で作られたアンドロイドみたい。女らしい外見も性格も、相手を喜ばせる魅力だし、得意なことは誰かのお世話。
つまり「女らしさ」は煮詰めると、「男らしい」人のための、サポート役の素質なのです。

「わたしはそれでいいの、男らしい人と結婚して、家族のために尽くすいいお母さんになるのが夢なの」、という人ももちろんいますよね。わたしも独身のころは、好きな男性のタイプにあれこれ条件をあげすぎて、わけがわからなくなったあげく、「うーん、男らしい人かな」とまとめたもんです。

でも結婚してみてつくづく思うのは、夫がそれほど男らしい人じゃなくて、本当によかったということ。だって男らしい人に男らしさを発揮されたら、家事はひとつもやってもらえず、浮気されても許して耐え忍び、暴力をふるわれても「これも愛情だわ」とけなげに信じて受け入れ、最悪の場合、殺されたりもしかねない……。男らしさと女らしさって、極論そういうこと。強者と弱者の組み合わせなんです。

だから男性に「男らしさ」を求めることも、自ら「女らしく」なっていくことも、同等に危うい。そもそも、すでに女である以上、わざわざ女っぽくならなくてもいいのです。

ネットでちょっと話題になった、「男女の理想がどれだけ違うか一瞬でわかる比較画像」があります。同じタレントが女性誌か男性誌かによって、ヘアメイクや雰囲気が全然違うと検証されたものです。

たとえば女性誌のカバーを飾る石原さとみは、後れ毛たっぷりのゆる巻き髪に濃いめの丸チーク、オレンジ色の潤んだ唇をすぼめて、とてもかわいい。一方、男性誌のカバーを飾る石原さとみは、ストレートヘアにすっぴんみたいな超ナチュラルメイク、デニムのサロペットを着て、こちらもとてもかわいい。前者は女性が理想とする石原さとみ、後者は男性が理想とする石原さとみ、というわけです。

ここから導き出されるセオリーはただひとつ。男性は、飾り気のない女性が好きであるということ。メイクは薄く、髪はストレートで、清潔感と透明感のあるシンプルなファッションを好む。そしてメンズライクなカジュアルをされるとかなりグッとくるらしい。つまり、ちょっと男っぽい格好の方が、女っぽさが際立つようなのです。なぜなら女の子は、すでに充分、女っぽいから。

もし、本気で男子にモテたければ、男の本音が詰まった男性誌を読むべきです。でも、自分が好きなものじゃなく、男性の好きなものばかり選んでいると、男の目線でしか自分を評価できなくなってしまいます。それは女の子にとっていちばん危険なこと。男性に褒められたり好かれたりするのはうれしい。けど、まずは誰より自分が自分を「好き!」と思えなくちゃ。男性に好かれるのは、そのあとでもいいと思うんです。

無理して女らしくなることは、本来の自分自身を押さえつけたり、萎縮させたりすることにもなりうる。そしてやたらと「女らしさ」を称揚し、女性にもとめてくる男性の本音は、「( 俺にとって)都合のいい女になれ」という意味だと思って間違いないかと。

人間は、男らしさも女らしさもひっくるめて持っているものです。自分にとって自然な、男らしさ・女らしさのバランスが、「自分らしさ」ってことなんでしょうね。

山内マリコさんから、CLASSY.世代に向けてスペシャルメッセージ!

30代になったとたん、「もっときれいめな、女らしい格好をしなければ!」と焦りました。しかし「女らしい」ってなんだ?きれいで可愛くて優しそうで清楚な「女らしさ」に、実は危険がたくさん潜んでいることにわたしが気づいたのは、30代も終わりかけてからのことでした。焦って「女らしさ」に逃げ込む前に、それがなんなのか考えてみるのは、とても大事なことだと思うのです。

『The Young Women's Handbook 〜女の子、どう生きる?』発売中!

雑誌やSNSの素敵なあの子にキリキリしちゃうあなたへ−。雑誌『JJ』の巻頭を飾る特集コピーに対し思うことを綴ったエッセイ。迷ったり不安になったりしたとき、お守りのようになる言葉が満載。『JJ』連載を単行本化。

著者:山内マリコ
1980年生まれ。2012年「ここは退屈迎えに来て」(幻冬舎文庫)でデビュー。主な著書に「選んだ孤独はよい孤独」(河出書房新社)、「あたしたちよくやってる」(幻冬者)など。「あのこは貴族」(集英社文庫)の映画化と、雑誌「CLASSY.」の連載小説をまとめた「一心同体だった」の刊行を控えている。

著者/山内マリコ イラスト/kinucott 再構成/CLASSY.ONLINE編集室
※この記事は、『The Young Women’s Handbook 女の子、どう生きる?』(光文社刊)を再編集したものです。