【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす④空から落ちてくるもの。
ストン、と地面に何かが落ちる音が聞こえた。
誰もいない裏庭で雑草取りをしている最中、自分とその音だけがぽつんと一緒にいるような感じがした。
あっ、そろそろこの時季が来たかな、と地面に視線を走らせるとやっぱり落ちている。洋梨がゴロンと無造作にいくつか転がっていた。
ここに引っ越してきた初めての秋、地面にこうして転がっている洋梨を見かけクエスチョンマークで頭がいっぱいになった。どこを探しても梨の木は見当たらなかったのだ。
地面に落ちているのだから、とその木を見つけようと必死で辺りを見回す。視線を少しずつ上げていくと、空との境目にある枝に梨の実がなっているのがやっと見えた。
20メートルほどある大木、梨は空から落ちて来たのだ。
クルミの木には緑色の実、そして果実の他にも初夏からあふれるように咲き乱れていたバラやビバーナムの優しい白い花が赤い実に変わっている。
実りの季節が来た。
今年は林檎も豊作、例年より早めでもう地面に落ち出した。
家の中、長食卓の端っこ・窓際、ここが私の居場所で、そこから見える大きな林檎の木の下にも黄色い実がゴロゴロと転がっている。
この木はもう随分お年寄りだが、それでも、毎年あくびをしながら背伸びをするように少しずつ枝を伸ばしている。この10年の間に1,2度いくつかの枝を選定・切り落としたが、それ以外は人間の思惑とは無関係にのんびりと生き続けているのを見ると何だかほっとする。
決して大きいとは言えないけれど、甘くておいしく我が家ではコンポートにして食べるのが大好きだ。自然に、ぽとん、と落ちる時が熟れ時、それを拾い集めるに限る。枝にぶら下がったまま熟した果実は格別においしい。
落ちている林檎の中には鳥に食べられているものもある。
移住し始めた頃はなるべく全部拾おうと躍起になっていたのだが、ふとある時、自分がえらく欲張りに感じるようになった。餌が豊富な春夏が終わり、秋から冬にかけて鳥たちは必死で食べ物を探していくに違いない。この老木がくれるふんだんな林檎。 ‘’こんなに沢山あるのだから鳥にも分けてあげましょう。’’ とム-ミンママなら言うだろう。鳥の分を庭に残すことにした。
林檎がまた木から落ちた。
実りの音に出くわす度にその音が一つずつ心の中にしまわれていき、何とも言えない暖かい心持ちになる。
それぞれの音に秋の色や木漏れ日が一緒にひっついてくる。