怖いのは乳がんだけじゃない! 女性のがん死亡数1位は「大腸がん」

近年、著名人の乳がん告白が相次ぎ、関心が高まる乳がん。STORY10月号「私たちのCHALLENGE STORY」でも乳がんをテーマに取り上げ、病を克服した方の体験記と医師に聞いたセルフチェック方法などを掲載しています。

しかし気を付けなければいけないのは、乳がんだけではありません。女性のがん死亡数の1位は、なんと「大腸がん」!意外と知らない大腸がんの現状や検査方法、さらには予防法があるのか……など東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科/臨床試験管理センター准教授・石黒めぐみ先生にお話を伺いました。

命を守るために大切な情報を、2回に分けてお伝えします。


【前編】 女性のがん死亡数1位の「現状」と「検査方法」

~「老化」はがんの原因の1つ! 40歳からリスク急増 ~

厚生労働省健康局がん・疾病対策課「平成29年全国がん登録 罹患数・率報告」より、石黒先生が作成

現在、日本人の2人に1人ががんになり、男性は4人に1人、女性は6人に1人ががんで亡くなる時代。原因は1つではありませんが、「老化」もがんの原因の1つです。

大腸がんの罹患率(がんにかかる確率)は40歳を過ぎたあたりからグッと右肩上がりになり、年齢が上がるにつれてリスクが高くなります! これは、乳がんや子宮がん、卵巣がんなどの、いわゆる「女性のがん」のイメージのがんとは異なります。

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」2020年のがん統計予測から作成

「女性のがん」といえば、乳がんや子宮がんなどに意識が向きがちですが、実は死亡数でみれば「大腸がん」が第1位! 罹患数でみても第2位です。近年、日本の大腸がんの罹患数は増えており、注意が必要です。では、なぜ大腸がんに罹患する人が増えているのでしょうか?

答えは“先進国になったから”です。大腸がんは一般に先進国や高脂肪食の国で頻度が高いため、日本が先進国になり、ライフスタイルも欧米化していることが原因のひとつだと言われています」。(石黒先生)

~ 大腸がんは、早期発見できれば怖くない! ~

1.では大腸がんとは、いったいどんながんなのでしょうか?石黒先生は

①いま日本で「いちばん身近ながん」
②早期発見できれば「治りやすいがん」
③「有効な検診」があるがん
④治療法の確立が進んでいるがん

といった4つの特徴をあげます。

検診も治療法もあり、早期発見できれば治る可能性が高い病気。つまりもし罹っても、むやみやたらに恐れる必要はない“がん”と言えそうです。

Ⓒ石黒先生

このデータからもわかる通り、早期に発見できれば、治療後の5年生存率は9割以上で、ほぼ完治が見込めます。とにかく、早期発見が大切なのです。

~ 早期発見できる唯一の方法は「検診」~

大腸がんは、大腸の粘膜に発生するがんですが、早期がんや小さながんでは自覚症状がありません。がんがある程度の大きさになると、

●血便(便に血がつく)
●便通の異常(便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す)
●腹痛(腸閉塞)

などの症状が現れますが、こういった症状が現れる前の早期に発見するためには「検診」しかないといいます。

「乳がんのように自分で触って確認することができないので、検診が唯一早期発見できる方法です。

大腸がんの検診は“便潜血検査”いわゆる検便になります。1mL中に1000万分の1グラムの血液、お風呂に1滴くらいのイメージといったほうがわかりやすいでしょうか。便の中の目に見えないわずかな血液を検出できる検査です。

ご経験がある方も多いと思いますが、自宅で便を少量取って調べるだけなので安心で簡単、そして費用はかかっても数百円程度です」。(石黒先生)

気を付けていただきたいことも2点あります。

その1.便潜血検査は簡単な検査なので、精度は100%ではない 「ただし、100%ではないとはいえ、数年かけてがんが大きくなる過程で必ずどこかでひっかかります。便潜血検査を毎年受けることで、命に関わるような状況になってしまうことは高い確率で避けられます。大腸がんで死亡するリスクを60~70%減らせると言われていますよ」。(石黒先生)
その2.すでに症状のある方は、便潜血検査ではなく精密検査を! 「基本的に検診というのは、症状がない方が対象です。症状のない方から“大腸がんかもしれない”という方を絞り込んで精密検査へとつなげるためのもの。もし気になる症状があるのであれば、便潜血検査ではなく精密検査を受けるようにしてください」。(石黒先生)

~ 知っていれば心構えができる!大腸がんの精密検査 ~

何か症状がある方や、便潜血検査で“陽性”と判定された方が受けるのが「精密検査」。

精密検査には4種類あります。それぞれ、メリットやデメリットがあります。

Ⓒ石黒先生

この中で、組織検査(生検)やポリープを取ったりすることができるのは「内視鏡検査」のみなので、がんが強く疑われる場合や、二度手間になるのは嫌という方は、初めから「内視鏡検査」を受けるのがよいでしょう。

そのほか、大腸がんの手術を受けたことがある方・大腸ポリープを切除したことがある方、血縁者に大腸がん罹患者がいる方なども定期的な内視鏡検査が勧められます。


~内視鏡検査のホント~

まだ受けたことがない方にとって、内視鏡検査は未知なる恐怖……。

ひそかに皆が思っている2つの疑問にお答えいただきました。

Q.1 大量の下剤を飲まなきゃいけないって本当?

A. 内視鏡検査に限らず、大腸の検査には腸の掃除が必要です。オーソドックスな方法としては、2Lほどの下剤を飲みます。味は薄いスポーツドリンクのような感じです。今は濃いめの下剤1L+水1Lや、錠剤たくさん+水といったいくつかのバリエーションもあるため、不安なことがあれば医師に相談してみてください。  

Q 検査中、お尻はまさか丸出し?

A. もちろん違います(笑)。以下の写真のようにお尻の部分に切れ目が入った検査用パンツを着用するので、その点は安心してください。
Ⓒ石黒先生

○ お聞きしたのは…

石黒めぐみ先生
石黒めぐみ先生
東京医科歯科大学医学部附属病院 消化器化学療法外科/臨床試験管理センター准教授。平成10年東京医科歯科大学医学部卒業。同大第二外科入局後、同大大学院腫瘍外科学特任助教、同大学院応用腫瘍学講座准教授などを経て現職。大腸癌研究会「大腸癌治療ガイドライン」作成委員。平成30年10月より独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)出向中。抗がん剤の新薬審査に携わる。著書に『「大腸がん」と言われたら』(保健同人社)、『大腸がんを生きるガイド』(日経BP社)など。

【後編】では「予防」と「ちまたの噂や疑問」について、お伝えします!(明日10月4日配信)

 

取材/篠原亜由美

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