子どもと遊ぶのが苦手なママへ「頑張らない」遊び方

好評連載中の『こども遊び研究所』。コロナ禍で外遊びがままならない今、遊びのプロである井出武尊さんと、しげおかのぶこさんが毎週おうち遊びを提案しています。一方で子どもとの遊びが苦手、遊ぶ時間が取れないといったお悩みも読者から寄せられています。そこで今回は井出武尊さんに、遊びが苦手なママへ、遊びの効果と頑張らなくても遊びになるコミュニケーションのヒントについてお話しいただきます。

 

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◉井出武尊(いで たける)さん
2004年東京藝術大学先端芸術表現科卒業。子どもと遊びの企業にて多数のプロジェクトに携わり、15年以上にわたって子どもの遊具や遊び場のデザインを手がける。幼少期における表現活動の重要性を感じており、遊びのプログラムの開発、ノウハウの提供、情報発信などに幅広く従事。子どもの表現教育のためのミュージアム設立が目標。2021年1月現在、5歳の娘と毎日遊ぶ様子がSNSを通じてママたちの関心を集めている。
Instagram:@takeru_ide

遊ぼうとしないで
触れ合うだけで遊びになる

 

――子どもと一緒に遊ぶことは、子どもの成長にどのような効果が望めるのでしょうか。

 

一人で集中してずっと遊ぶ子どももいますし、ママやパパと一緒に遊ぶのが大好きな子どももいます。どちらの場合でも、幼少期の子どもにとって、ママやパパが一緒に遊ぶ時間がとても楽しい時間であることは間違いないと思います。同じ遊びだとしても、一人で遊ぶより、ママやパパと会話をしながら遊ぶ方がより集中して長く遊ぶというような研究結果もあります。集中して遊ぶことは将来の学習意欲などにも繋がると考えられています。

 

――子どもと遊ぶのが苦手というママもいます。

『こども遊び研究所』で僕が意識しているのは、準備や遊び方が簡単なこと、どこの家庭にもある道具を使うこと。なによりも楽ちんであることが最優先です。でも「大変だ、私にはできない」って言われることはままありますし、僕も実体験として遊びを億劫に感じたこともあります。

遊ぶ時間がないなら「お風呂の10分間を活用してみては」と提案できますが、子どもと遊ぶのが苦手な場合はそうはいきません。子育てはすごく大変に感じるときもあると思いますし、仕事をしているママも増えています。時間の融通がきく働き方をしているならまだしも、ママもパパもフルタイムで働いていたら「がんばって遊びましょう」とは言えません。時にはテレビや動画に頼るのも良いと思います。

 

――子どもと遊ぶことにプレッシャーを感じているママもいるかもしれません。

 

子どもと遊ぶ時、構えすぎていませんか? 実はスキンシップだけでも楽しい遊びになります。連載でもご紹介している『毎日5分のじゃれつき遊び』は簡単でおすすめ。親子でじゃれあってスキンシップをすると子どもたちの脳にはたくさんの良い刺激が与えられ、感情をコントロールできるようになるそうです。すると保育園などで先生が「集合」と呼びかけるとちゃんと集合するようになり、遊ぶときは夢中で遊ぶ。集中と発散が上手にできるようになるそうです。

▶︎記事を読む『毎日5分のじゃれつき遊び』

 

 触れ合うだけでも立派な遊びになります。

 

 

――触れ合うだけなら、すぐにできそうです。

 

もっと言うと、声に出すだけでもOK。子どもが積み木を1つ積み上げたら「1個積み上げた。上手だね」、崩れたら「崩れたね」と、見たまんま言うだけ。声をかけることは子どもにとって、遊びの始まり。声を出すことで一緒に遊んでいると子どもは思い、次のアクションをしてくれます。どう遊んでいいかわからなかったら、ひとまず状況を声に出してみてはいかがですか。

 

 

――親も「上手に遊ばないといけない」という固定観念が強いのかもしれないです。

 

おもちゃにしたって、説明書通りに遊ばないといけないというルールはありません。本来は組み立てて遊ぶおもちゃでも、並べて遊んだっていいし、組み立てたところから崩していってもいい。おもちゃの遊び方は一つじゃないことをママやパパにはもっと知ってほしいですね。

おもちゃの遊び方はいろいろ。子どもの発想次第で広がっていきます。

 

“繰り返し遊び”を要求する時こそ
成長のチャンス!

 

――自分ルールなこだわりや、繰り返し同じ遊びを要求してくる子どももいます。それに付き合うのがしんどいというママの声も。

 

個人差はありますが、子どもたちは大人に比べるとこだわりが強い傾向があります。大人なら社会常識や急いでいるからとか、他人と一緒にいるなどの日常の取捨選択で譲れても、子どもは自分のこだわりが一番のプライオリティです。

繰り返し遊びでよく聞くのは、せっかく外の遊び場に連れて行っても、家にあるのと似たようなおもちゃで遊んでいるため、違うおもちゃで遊んで興味の幅を広げてもらいたい、という親御さんの声。でも子どもたちは家でいつも遊んでいるおもちゃが大好き。大好きなおもちゃはどこででも遊びたい。好きなことをとことんやりたがる子どもたちは多いのです。

 

――同じようなおもちゃをほしがる場面ってよくある光景です。似たようなおもちゃを買ってあげてもいいのでしょうか?

 

ものによりますね。おままごとの場合、キッチンを中心に食器や食材のおもちゃを買い足して、ごはんの準備をするママの真似ができるよう遊びを広げていくのは一つの方法です。
また、レジやお医者さんセットなどおままごととは別の方向性のおもちゃを買い足せば、そこにお店屋さんごっこが加わったり、お料理中にケガをしてお医者さんに行くみたいな、また違うストーリーに遊びが発展していきますね。

極端な話、同じおもちゃでも数があるほど遊びはおもしろくなります。食材がたくさんあって5人分の料理作ることができれば、家事の真似だけだったのがお店やさんごっこができる。ブロックならたくさんあるほど複雑な表現ができるので、数はある意味では正義。

ただし同じものばかり買いたくない親御さんの気持ちもわかります。そんな時は「食材はあるから食器にした方が遊びは広がるんじゃないの?」と交渉してはいかがでしょうか。
この時大切なのは、「もう持ってるじゃない」と即座に否定しないこと。子どもの気持ちを一度受け止めた上で他のものを提案してみてください。

 

――うちの息子がしりとり、簡単な掛け算と足し算にはまって100回以上は同じ問題を出題し、答えています。今では出題されるたび「いい加減覚えているでしょ。自分で考えて」という反応の繰り返し。もう少しこの遊びを発展させることはできますか?

 

今、息子さんは言葉や数、量に興味関心があるのでしょう。たとえばひらがなの書かれた積み木は、音として覚えている言葉を、遊びを通じて文字として認識していきます。

このように、数の場合もおはじきを使って見える化したり、出題された答えを紙に書いて見せるなどをすると、子どもは理解しやすくなります。出題をママがしてもいいですね。5+5までは指でできますから、移動中などどこでも行えます。

目の前にたとえばリンゴが1つあるとして、この1個と「イチ」という音、アラビア数字の「1」がイコールになるってなかなかすごいこと。「1+3=4」って瞬時に答えられるようになる前に「4つ」を数える時期を経ますが、遊びを通じて学習できるタイミングだと捉えれば、何かに“ハマっている”時期は、大きく成長するチャンスでもあります。逆に子どもの興味がない時にひらがなの積み木を渡しても全くのってこないでしょう。繰り返している今がチャンスです。

 

でも繰り返し遊びに付き合うのって、時にはしんどいこともあります。僕自身も、娘が人形遊びにハマった時は、僕も裏声で付き合っていたんですけど「いい歳して毎日何やってんだろう」って(笑)。ずっとTVゲームや動画を見ているなら違う機会も与えたほうがいいですが、子どもの自主性は大切にしたい。基本は同じ遊びでも違う要素を加えれば、子どもも違う体験ができ、大人も繰り返しの“無限”地獄から少し解放されます。

 

公園遊びが苦手なパパには、
有料の遊び場もおすすめ 

 

――子どもに体力がついてきて、ママが遊びに付き合えないという声も。外遊びに非協力的なパパに、もう少し協力してほしい場合、どう促せばいいですか?

 

出かけられる状況なら、ショッピングモール内の有料の遊び場はどうですか? 家ではできないダイナミックな遊びが、公園と比べて安全にできます。また、遊びが苦手なパパにとっては、見守ってくれて、時には一緒に遊んでくれたりするスタッフさんの存在も魅力的です。パパと子どもが遊び場で遊んでいる間、ママは買い物をすれば時間の節約にもなります。一人時間を自由に使うことができますね。

パパに遊びの苦手意識があるのであれば、おもちゃを導入しても良いかもしれません。道具があれば自然と遊びを誘発してくれます。既製品のおもちゃじゃなくてもいいです。袋の中に手を入れて中身を当てるとか、連載で紹介した『紙コップでメモリーゲーム』も準備も簡単で楽しいです。

▶︎記事を読む『紙コップでメモリーゲーム』

 

 

家事を“ゲーム”にすると
遊びタイムに転換できる!

 

――働いていると遊ぶ時間を捻出するのが難しいママもいます。家事の手伝いを促すような、家事と遊びを兼ねることってできますか?

 

家事は遊びに転換できます。この間、娘と雑巾がけで競争したら娘は雑巾がけが初めてだったからか、楽しくしていましたね。

洗濯ならどちらが先にたくさん干せるか競争するとか、洗濯物を干す際も子どもに次の洗い物を取ってもらう時に「黒い服」と色で指示を出す伝言ゲームにするとか。早く畳む競争だと散らかるので、逆にめちゃくちゃゆっくり畳んで見せるとか。

料理の場合は、小麦粉を粘土の代わりにしてはどうでしょうか。小麦粉に入れる水の量で硬さが変わりますから、様々な質感を知って遊びやすい硬さを学べます。作ったものは焼いてから絵の具などで塗ることもできますし。粘土遊びで使った小麦粉がクッキーやパン、ホットケーキの原料であることを知れば、調理の際のお手伝いがきっと楽しくなるはずです。

いずれにしろ、子どもが楽しくやれるように強制ではなく「一緒に遊ぼう」って誘うといいですね。

小麦粉を使って粘土遊び。レジャーシートを敷いておけば片付けも楽ちん。

 

 

――ひとり遊びで大活躍のYouTube。でも見せすぎを気にしているママも多いはず。

 

我が家でもYouTubeは心強いお守り的存在。YouTubeが言葉を教えてくれる側面もあるので、時間を決めるとか、食事中は見ないとかお約束の中で付き合いましょう。そのぶん、YouTubeに触れている以外の時間、お風呂に入っている時に遊ぶとか、視聴時間以外を意識することが大切ではないでしょうか。

 

――最後に、遊びが苦手なママたちへメッセージをお願いします。

早くから歩き始める子どもとそうでない子どもがいるように、発達のスピードは子どもによって違います。だから僕の伝えたことがすべてではなく、お子さんごとに興味関心や成長発達にあわせてほしいです。遊びは楽しいという感情に支えられています。遊びは自由で、遊ばない選択肢も子どもにはあります。それが遊びのいいところ。

この間生まれた娘がもう5歳。子どもの成長を見守れるのはあっという間で、貴重な時期。「遊び=辛いけど、しなきゃいけない」と自分を追い込まず、できることからお子さんと遊んでください。

 

取材・文/津島千佳