【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㉔春からの手紙

2月になった。

立春を超えて、この所そわそわが止まらない。わくわく、と言えるかもしれないが、どちらかと言えば、そわそわがぴったりする。種をまく季節が近づいてきたからだ。

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1月はベランダの大掃除を少しずつしてきた。特に目的もなくその時々に乾燥させた花が思いのほか、あちらこちらにあるのに気が付く。柔らかなべ―ジュ色に変わった紫陽花は、十年前に剪定したものを取っておいたもので、今年切ったものはまだ緑の色が微かに残っている。花は切り取られた後も限りなく変化していく。自分と植物の記憶が重なるような感じがした。

少しすっきりしたベランダの作業台の上に種の箱を取り出す。

今の庭は雪や雨がよく降り、水分がたっぷりで、歩くたびに長靴の下に水がにじみ出るのを感じる。畑はまだまだ種をまける状態にはほど遠いが、運が良ければ2月末にはにラディシュやルッコラ、グリンピ-スの種をまくことが出来るだろう。そうこうしているうちに、トマトやキャベツの苗作りの為にポットに種をまくようになり、もっと暖かくなれば花の種も裏庭にまける。そのことを考えただけで気持ちがうきうきする。

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種をまけば緑の芽が出て、花が咲き、そこにミツバチやいろいろな虫たちが集まって受粉の手助けをしてくれる。そして又種が生れる。その種が自分ではじき飛んだり、風に飛ばされたり、鳥や人間と旅をし土に着地し、再び芽を出すことになるのだ。ひとつの生命の終わりがもう一つの始まりに繋がっていくことを想像すると、こんな小さな種の中に潜んでいる大きなエネルギ-にいつも驚きを感じる。

 

ナスタチューム種をしばし眺めた。

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ごつごつとした表面と丸みのある形はオレンジ色のあの可愛い花とは似ても似つかない風貌だ。コスモスの種はひょろんとしたエレガントなおしゃまさん、こんな小さな粒からあんなにのっぽで大輪の花を咲かせるのか、と驚かせてくれるのはポピ-の種。それぞれの花に個性があるように、種にもまた、それぞれに不揃いの思いがけない形がある。その多様性が自然の美しさを豊かにしてくれるに違いない。

 

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庭を歩いているとあちらこちらに草が元気に生えていた。黄色や白、青い花がちらほら見える。何もない、と思っている場所でも雑草と呼ばれる野性の植物が必ずやって来る。

 

土は生命の生れる場所。地球の子宮。

 

植物の生命の不思議な全てがそこから始まり、またそこへ戻っていく。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/