【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊳5月の色。

 

週末の海から帰ってくると麦の穂が大きく伸びていた。

A

たっぷり積もった朝露が麦の穂を白く輝かせている。昨日まで立っていた海岸や泡立つ白い海と重なった。陸地に広がる波を見ながら車で村を出る。

大麦や今にも散りそうな菜の花に挟まれた細い道をのろのろと走り出す。

前にも後ろにも車はなく、トラクタ-とすれ違うのが唯一面倒なこの道は、他の車に合わせてスピ-ドを出すのが苦手な私には気が楽だ。その時の気分で速度を変えて走るのだが、今日は周りの風景を見ながら、のんびりと進んだ。

B

ほんの少し先にある集落の辺りまでくると、道端の家の垣根からスノ-ボ-ルの木が見えた。わさわさと枝になり、大胆なのに可愛い。うす緑色の丸い花はもう少しで真っ白に変わりそうだ。麦畑がどこまでも広がる道を走り続けた。

目の前にはいつも空がある。

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13年前ここへ越してきた当初は、土ばかりに目線がいっていたような気がする。それが、いつしか外に出れば必ず空を見上げるようになった。朝、昼、夜、時間や季節によって空は驚くほど表情を変えていることに気が付く。

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軽やかに高く感じることもあれば、垂れさがって重たく感じる時もある。今日の空は白とグレ-が混じった青。その中に吸い込まれそうに進んでいくと森に辿り着いた。

突然、空気が変わった。

森の中のぐねぐね曲がる道を下りていくと、ブナや白樺の新緑が風を起こし、ひゅんひゅんと後ろへ飛んで行く。緑がどこまでも身体の中を突き抜けていくような気がした。

5月の森が好きだ。

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木々の若葉を透かすように届く光りが、森の匂いを運んでくれるような気がするからかもしれない。水と空気と光が一緒になって枝から葉を送り出し、5月の森は魔法がかけられたように様々なニュアンスの緑色で埋め尽くされる。朝露でしっとりした早朝の静かな森、木漏れ日の眩しさ、優しい夕方の緑。ただその傍を通るだけでもその気配が辺り一面に流れ出ているような気がする。

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この時期、麦畑や森の道端に白い花が群生しているのをよく見かける。森のチャ-ビルと呼ばれるこの野生の花が緑を背景に浮き出すように咲いてしているのだ。繊細な白い花がふわふわと軽やかで、靄のように咲く姿は夢を見ているように美しく、思わず立ち止まらずにはいられない。

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五月の色は白と緑。

率直で軽やかなこの月に似合っているような気がする。

F2

緑は白の為、白は緑の為にある。

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/