【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊼ 秋桜

 

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朝の用事を済まし窓辺に座った。冷めたコーヒーを一口飲む。ぼんやりと宙を浮くような明るい光りが窓の外の植物や部屋の中を取りまいている。窓際から50cm余り。その間がモノトーンのまだら模様で埋まっている。影の絵。朝の陽が庭で勢いよく茂ったイチジクやバラの葉を映し,その絵が時々ゆらゆら動く。もうすぐ剪定をしようとか、あれこれ、とりとめのないことを考えながら思わず背伸びをした。今日も天気は良さそうだ。

裏庭に出て、伸び放題の芝生の上を歩いていると足の下にごつっとした何かを感じた。林檎。小さな黄色いものが木から落ちていたのだ。拾ってみると少し穴が開いている。鳥たちがつついたのだろう。

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そう言えば昨日もクルミの木の下で同じようなことがあったことを思い出す。まだ緑の皮で覆われたクルミが風で落ちてしまったのだろう。早速、そのクルミを拾い爪を立てその皮を剝いてみたが、あの独特の香りと油気はなく、ただ青臭い皮の水分だけが指に残った。林檎やクルミを拾い集めるにはまだもう少し時間がかかりそうだ。

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庭にある輪郭がぼやけた影と光りを目で追いながら、犬と一緒に畑へ野菜を取りに行く。池の近くを通りかかった時、電線にツバメが何匹か止まっているのが目に留まった。8月の終わりから9月の始めにかけて、冬の旅に出る前に、ツバメは突然こうして集まりだす。10000kmのアフリカ大陸への空の旅。彼らは何時経つのだろう。皆じっとしていて動かない。出発の合図を待ちながら、今日のぬくもりを満喫しているようにも見えた。

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9月の始まりは曖昧だ。

夏のきっぱりとした光線はどこかへすっかり消え去ってしまったが、秋のつん、とした空気もまだない。温度が少し落ちる夜に半袖の上にセをきたり、夏休みの余韻と高揚した気分で始める学校や仕事。何かと何かの間をにじむように過ぎていく時間。そんな空気と光りが庭にも漂っている。

 

裏庭に秋桜が咲いた。

夏に咲き始めたナスタチュームがオレンジや黄色の花をまだまだ咲かせている。

アジサイは薄いピンクの色を重ねだした。

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秋が届くのを待ちながら、何かと何かの間を花と色が咲き渡っていく。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/