【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊽秋日和
朝7時。
2階の窓を開けると、裏庭の大きな梨の木が柔らかい朝陽に気持ちよさそうに照らされているのが見えた。深い緑の葉がいつの間にか黄銅色に変わっている。辺りがみな、ほんわり明るいセピア色に染まっているような感じがした。空には少し雲があるのか、太陽の光が見え隠れする。その度に葉の色が深みを増したり軽やかになったりした。その様子が心地良く、しばらくその色とひかりの波を眺めた。スロ–スタ–タ–の9月の朝。今日は空気がほんのり冷たい。
いつもの田舎道を散歩する。麦が生えていたその場所はすっかり何もなくなってしまっていた。そこにトラクタ–が入り耕され、茶色の大地が地平線まで伸びている。さっきまでしきりに草を嗅いでいた犬が隣で片足を上げじっと遠くを睨んでいる。その先を目を凝らして一緒に見てみるが何も動くものはない。ウサギたちはまだ寝ているのだろうか。太陽はどんどん空を駆け上がり、大地の上には小さなゴマのような緑の模様がちらほらと浮き上がって見えた。新しく蒔かれた麦がもう芽を出している。また生命が始まった。まぶしい秋晴れの朝、その緑がより一層みずみずしく感じる。
秋の天気は変わりやすい。昨日の雨で潤った庭の植物もそれにつられるように葉の色を変えだした。地面には黄色くなった落ち葉が増え、包み込むような暖かさの赤と緑の葉があちらこちらに姿を現し、紫色に変わった思いもよらないミントの葉を見つけたり。いくつもの夜を超えながら、緑の世界に様々な色が加わっていくのを見るのは心が躍る。そしていつかその先に、あの何とも言えない深く暖かい風景が現れ、胸の奥まで届く。
道端に黄色い野草の花を見かける。夏の旅で何度も見た、元気いっぱいに群生していたその花が何故か違う花のように見えるのはどうしてだろう。秋の空気の中で咲く花はどれも本当にやさしい。どこからともなくやってくる金木犀の香りのように、ほんの少しの甘さと切なさが混じりあい、その余韻と一緒に庭に漂うように咲いているような気がする。
池の周りにツバメの姿が見えなくなった。
スズメは相変わらずおしゃべりで、元気にバラの赤い実を啄んでいる。
オ–ルで舟を漕ぐように、秋がゆっくり進んでいく。
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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/