【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす ㊿黄の秋。
ガシリ。
足の下で奇妙な小さな音がした。何か丸いものを踏みつけた感触。背中を丸めて伸びた草の中を探してみると、朝露に濡れたこげ茶色の皮が破れクルミが見えた。大きな木の下、黄色い落ち葉に混ざりその実がポロポロ落ちている。秋の気持ちのいい木漏れ日。地面からじんわり立ち上る暖かさを身体の奥で感じる。秋が少し深まりクルミを拾う季節がまたやって来た。犬が座り込み、早速その一つをがりがりとかじっている。同じようにその場ですぐ食べてみたくなったが、歯でかじり割るそんな術もなく、陽だまりの中に隠れているクルミを、宝物を拾い集めるように一つずつコートのポケットの中に入れていった。
秋の庭は小さな音であふれている。乾燥しだした木々の葉が風に吹かれカサカサとこすれる音や木から落ちる林檎の鈍い音。鳥たちののんきな鼻歌。マロニエの実はおもちゃ箱をひっくり返したように転がっていて、それを避けながら落ち葉の上を歩く音。一日が始まる白紙の時間に庭を歩くと、そんな微かな音がどこからともなく聞こえてくるのだ。
きらっ、と光るものが見えた。アスパラガスの実に朝露が小さなレンズのようについている。まぶしさに眼を細めているとモンシロチョウが1匹ひらりと舞って来た。その蝶が黄オレンジに染まったオカトラノオの葉にするりと着陸すると、瞬きをするように1,2度、羽を動かした後、気持ちよさそうにじっと動かずとまっている。春から始まり何世代かが生まれ育った蝶たちも、そろそろ姿を隠す時期。聞こえるはずのない羽の音が、微かに耳に届いたような気がした。
春になると虫たちがいそいそと黄色い花に惹かれ集まってくるが、いつの季節でも人間の自分もその色を見ると、弾むような気持ちになる。青空に映える黄色く染まった木の葉やセイタカアワダチソウ。太陽の周りをまわる星のように、知らず知らずのうちにその色を追っている自分に気が付いた。今日の陽に照らされた鮮やかな黄色たちが、随分寒くなった朝の身体をじんわりと暖めてくれるからかもしれない。
夕方の散歩。
陽が沈む時間が随分早くなった。
闇夜の少し手前の空に黄色が残る。
秋の夜の黄色はノクタ-ンが似合う。
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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/