ヨシタケシンスケさん流「子どもの”好き”の見つけ方」って?

6月に刊行された絵本『あんなに あんなに』が話題になっているヨシタケシンスケさんへのインタビュー。第2回は、こんな時代にどんなふうに子育てをしていったらいいか悩んだり、頑張ったり疲れたり、そんなママ・パパたちへのアドバイス、メッセージをお届けします。(全3回。前回はこちら

 

 将来まで役立つ『好きなものコレクション』のススメ

 

ヨシタケシンスケ 2

——子どもが、将来の仕事につながるような自分の「好きなこと」を見つけてほしいと願うママが多いですが、ヨシタケさんは小さな頃から絵を書くのが好きで上手だったんですか?

「絵は好きだったんですが、描くのは本当に苦手で、美術系の大学に入ったんですけどデッサンの授業ではビリでした。目の前にある正解を写し取るだけのことがなんでできないんだってずっと言われ続けて、ある日もう嫌になってしまって、対象物を見ずに描く、という自分ルールを決めました。

見ないで描くようになると、色々考えるんですよね。そうするうちに、自分が何を見てるか、自分のすきなこと、興味のあるものがわかってきたんです。僕の場合はイラストでしたけど、写真でもいいし、音を録音することでも、俳句を詠むことでも、なにか自分が面白いと思ったものを自分が好きな手法で記録をしていく。そのことで自分とはなんなのか、自分は何をしたいのかが、だんだんわかってくるんです。

ふだん意識していなかった好きなものがデータとして自分のなかに貯まってくると、将来自分がどういう風に生きていきたいかっていうのを決めなきゃいけないとき、例えば職業を選んだり会社を選んだりするときに判断材料としてすごく役に立つんですよね。一番怖いのは、ずっと与えられてばっかりだと自分で選べなくなってしまうこと」

 

 好きなものが明確だと、
まわりの人にも優しくできる

 

——親が先回りしてあれこれ与えるより、子どもが自分の好きなものに自分で気づくことが大事なんですね。

「今はアニメでも映画でも漫画でも、なんでも手軽に見れちゃいますし、ものをつくるっていうことがどれだけ大変かってなかなかわからないものですよね。それは非常に危ういことだと思っていて。生まれてからなんでも与えられていて、なんでも見られる状態にあるときに、『何がほしい?』って言われてもなにも思い当たらない。そういう子も多いと思います。そんな時代だからこそ、<好きなもの>を見つけることがますます大事だなと。

それに自分の『好き』がある子は相手の好きも尊重できるんですよね。自分はこれが好きで、あの人は違うけど、あの人が好きなのもきっと自分のこれと同じくらい大事なものなんだろうな。バカにしちゃだめだなっていう、そういう人に対する思いやりも生まれてくるし、自分が好きなもの、例えばイラストで表現できないものを、音楽や、演劇など別の手法では表現できたりする。すると他人のやることに対して尊敬する気持ちが生まれてくる。想像力のいちばんだいじな使い道だと思います。好きなものをコレクションすることもやっぱり想像力に繋がっているというか。

まず最初は、パパやママにも好きなものがあって、それを楽しんでいるのを子どもにもどんどん見せていくのが大事なんじゃないかなと思います。それを子どもは真似ていくようになるので、まずは親が率先して好きなものをコレクションしていくのがいいかもしれません。あと利点としては、好きなものの軸ががしっかりしていれば他のことは我慢できるっていう、心のゆとりも生まれてくるんです。例えば大人だって、韓流ドラマを見る夜の時間さえあれば、仕事と子育て頑張ろう!って思ったりしますよね(笑)。好きがあれば頑張れるのは、子どもも大人も一緒なんです」

 

 子育てって長丁場。たまには「お母さんファースト」でいい

 

あんなにあんなに ヨシタケ

——頑張りすぎちゃうVERY世代も、好きがあれば前向きになれるのは同じですね。ママたちに、ぜひ自分がラクになるコツみたいなのがあれば教えてください!

「自分のマインドって、いきなり大きく変えたりはできないんですよね。だから、自分がちょっと笑顔になれる小ネタを少しずつでもストックすることをオススメしたい。ママだって<好きなものコレクション>です!それがお母さんだけじゃなくて結局は家族みんなのハッピーに繋がる気がします。自分はヘトヘトなのに子どもだけ機嫌よくってそれは無理な話なので、まずお母さんが自分自身をケアした後に旦那さんや子どものケアをする、という順番でいいんじゃないでしょうか。『まずはお母さんからね、ちょっと我慢してて』って笑顔で言えることがすごく大事だと思います。

僕の絵本にはいつもニコニコ笑顔のお母さんって出てこない。四六時中笑顔のお母さんなんていないんですよ。絵本の中でお母さんの笑顔を描く時は必ず笑顔になる理由があるときだけ。子育てはまだ先が長いので、お母さんたちにはぜひ自分を楽しませる、喜ばせることを大事にしてほしいですね。

あとは、こうあるべきだ、こうしなきゃ、あのお母さんはあんなに頑張っているのにっていう考え方からは距離をとってほしいなと。子育てに限らず、誰かの成功体験って、自分が同じようにしても同じになるわけではないし、正解はひとつではない。いろんな意見があることを忘れないようにして、その都度、自分にとって腑に落ちる考え方を選んでいけばいいんじゃないかと僕は思います」

 

『あんなに あんなに』(ポプラ社)

子育ては「あんなに〇〇だったのに」の連続。あんなにほしがってたのに、あんなに心配したのに、あんなに小さかったのに——。日常にあふれるたくさんの「あんなに」の中で大人になっていく子どもの成長が描かれた絵本。子どもの飽きっぽさあるあるに共感しつつ、子どもの成長、変化に胸がきゅっとなるやさしい一冊。

◉ヨシタケシンスケ

絵本作家。1973年神奈川県生まれ。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど多岐にわたり作品を発表。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。『つまんないつまんない』で2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞に選出。近著に『あるかしら書店』『もしものせかい』などがある。二児の父。

取材・文/北山えいみ 撮影/須藤敬一

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