2021年10月26日 17:30
/ 最終更新日 : 2021年10月26日 17:30
CLASSY.
脳科学者に聞いた「ニュースやSNSで、有名人が炎上してしまう理由」4つ
私たちの日常をザワザワさせる〝うらやましい〟気持ち。リアルな世界だけにとどまらず、ネットの世界でも私たちの心を乱す〝うらやましい〟気持ちについて、その正体や付き合い方を話題の脳科学者、中野信子さんに教えていただきました。
世の中で起きているあの炎上やバッシングも〝うらやましい〟が原因!?
コロナ禍の渦中である今は制限が多く、我慢していることも多いからこそ「自分は我慢しているのにあの人はいい思いをしている」という〝うらやましい〟感情が増幅されているのも事実。世の中の炎上案件について中野さんの意見を伺いました。
1.SNSがみんなの「悪性妬み」を増幅させる
人のことがよく見えるからこそ損をしている気がして妬みが強くなる
情報量の多いSNSの世界は〝うらやましい〟と感じさせやすく、自分が損しているのではないかという気持ちも強くなります。コロナ禍の今は行動が制限され、心の余裕がなくなることで攻撃も起こりやすくなっています。特にTwitterは一見、公の場のようですが、発信者は匿名性のシェルターに隠れて一方的に相手を攻撃できる錯覚に陥りがちです。それが偏った意見だったとしても、似た意見の人がいると自分の声=名もなき民衆の正義の声と思いやすいことも問題です。
2.有名人の不倫への異常なバッシング
ルールを守らない人に対する「ズルい」という気持ちが攻撃に変わる
一見、妬みとは思えないかもしれませんが、バッシングの根底には「ズルい」という妬みの感情が。「自分はちゃんとルールを守っているのに、どうしてあの人は守らないのか」という気持ちが攻撃につながるのですが、攻撃している側は自分が妬みを持っている自覚はないでしょう。むしろ、ルールを守らない人たちをたたく行動に参加することが社会正義だと思い、自分の一言で社会が正されるのであれば、もっと積極的に言おうと思っているかも。
3.「世の中のために我慢するいい人」だからそうじゃない人が許せない
世の中のルールを大切にする人ほど勝手なことをする人が許せなくなる
人は「自分を大事にする」という行動と、「みんな(世の中)を大事にする」という行動の2通りのパターンを同時に抱えています。会社のために働いたり、家族のために自分の時間を使ったり、自分たちがちょっとずつ我慢することによって、みんな(世の中)がうまく回っているわけなのですが、その中に一人だけ我慢していない人がいたら、どうでしょう。この人に対して腹が立つ度合いは、自分の我慢の度合いに比例します。つまり、「一人だけ我慢していない人」を見た時に、許せない気持ちが強くなりやすい人は、いつも我慢して自分よりみんな(世の中)を優先している「みんなのために頑張るいい人」ともいえます。「みんなのために頑張るいい人」が、許せないと思った人をバッシングしてしまうという悲しい現象が起こってしまうことがあるのです。
4.オリンピックのメダルをとったのに責められる!?
金メダルはホールインワンと同じ「一人勝ちを許さない」
オリンピック選手へのバッシングは一見理解しがたいもの。ですが、自分に競技経験がなければ才能や努力のすさまじさも想像がつきにくく、バッシングする人にとってはメダリストも「一人だけ得しているように見えてズルい」と判断されることがあります。どんなに正当な勝利であっても、一人だけ勝つことを許容しにくい社会が存在するものです。ゴルフでホールインワンを取るとおすそ分けで赤字になるのでホールインワン保険があることがわかりやすい例。
そんな〝うらやましい〟気持ちをうまく処理するには?
「自分は豊かである」と実感している時、人間には、妬み感情が起こるようなココロのスキマがなくなります。その必要がないからです。他人を攻撃するコストをわざわざかけることをやめ、穏やかな心で誰かの幸せを心から喜び、誰かの不幸をともに嘆くこともできるでしょう。もし自分がそう感じられていないなら、ふだんから少しずつ自分を大切にする練習を。一番大切なお客様に出すのと同じように、とっておきのカップで紅茶を淹れて飲んだり、大切な人をケアするようにしてゆっくりお風呂に入ったり。「自分なんかこの程度でいい」ではなく「自分はこの器やケアにふさわしい」と自分が自然な自信を持てるようにしてあげてみて。いきなり背伸びしておどおどしながら何万円もするエステに行かなくても、自分を粗末に扱う卑屈なココロの習慣を変えていくのが目的です。今この記事を読んでいる方は、雑誌を読むことができるというその時間や知的な余裕をより味わって大事にしてほしいですね。本や雑誌を読む、好きな音楽を聴く、きれいなものを見る、おいしいものを食べる、運動するといった、自分を豊かに、大切にする練習を重ねていくことで、あなたはもっと自信にあふれた人になれるでしょう。
妬みをいい方向に転換できないこともあると思います。公平な第三者の視点や明確な評価軸が存在せず、努力が結果として報われにくい場面です。営業成績やテストの点数など、誰が見てもわかる形で努力が反映される場合は、もっと頑張ろうといい方向に努力しやすいもの。けれど、たとえば恋愛や結婚に関することは努力と結果との関係が見えづらく、自分の得にならないとわかっていてもブレーキがきかないものかもしれません。ふだんから自分の気持ちを冷静に分析するトレーニングをしたり、自分の〝うらやましい〟気持ちを話せて、フラットな視点でアドバイスをしてくれる人に相談してみましょう。
お話をお聞きしたのは…
中野信子さん
脳科学者、医学博士、認知科学者。脳や心理学をテーマに人間社会に生じる事象を科学の視点からわかりやすく解説した著書やコメントが多くの支持を集める。嫉妬する感情について取り上げているヤマザキマリ氏との共著『生贄探し 暴走する脳』(講談社+α新書)をはじめ、著書多数。
イラスト/島 タイガー 取材/加藤みれい 再構成/Bravoworks.Inc