産婦人科医の高尾美穂先生が、体も心も揺らぐ30~40代の女性に優しくアドバイス!第4回の前編は、寝ても疲れが取れずつらいという、Sさんのお悩みについてです!
教えてくれたのは
高尾美穂先生
産婦人科専門医・婦人科スポーツドクター・ ヨガ講師。産婦人科専門医として、女性の健 康をサポートしつつ、それぞれのライフステージ・ライフスタイルに合った治療を提案す る一方、スポーツドクターとして、女性のプロアスリートへのサポートも行っている。
【相談テーマ】寝ても取れない疲れはどう取ったらいいですか?
相談者:Sさん(44歳)
神奈川県在住
11歳双子の男の母
フリーランスの仕事と派遣社員のWワーク
生活のベースを整えないと、仕事のやりがいや自己実現は感じられない!
Sさん:最近疲れがたまっていて、特に仕事が忙しいときなど、「寝たのに疲れがとれない」という日があります。昔から寝起きがいいので朝は起きられるのですが、そういうときはだるさが残ってしまうんです。
高尾先生:睡眠時間はどれくらい取れていますか?
Sさん:普段は12時過ぎに寝て6時に起きる生活ですが、忙しいときは寝るのが1時を過ぎることもあります。
高尾先生:それは睡眠時間が圧倒的に少ないですね。Sさんはまず、睡眠への意識を変えていくことが必要です。今は、いわゆる「睡眠負債」の状況。これが続くと、体はギリギリの状態になるので免疫力も落ちるし、40代の女性でいえば更年期症状もひどくなるなど、さまざまなリスクにつながります。さらにこうしたリスクだけでなく、生活する中で幸福感や充実感を得るためにも、睡眠は非常に大事なんですよ。
Sさん:幸福感や充実感ですか?
高尾先生:はい。人間は、ベースにある「生理的欲求」や「安全欲求」を十分に満たさなくては、幸福感や充実感につながる高度な欲求には進めないといわれています。これは、アメリカの心理者、アブラハム・マズローという人が提唱した「マズローの欲求5段階説」という有名な理論を知るとわかりやすいかもしれません。「マズローの欲求5段階説」では、人間の欲求を5段階に分けると、ベースにあるのが食べる、休むなどといった「生理的欲求」。これが満たされると次にケガをしないよう安全な環境で過ごすといった「安全欲求」が芽生えます。さらにここが満たされると次に「社会的欲求」、そして「承認欲求」、最後に「自己実現欲求」という順に人は自分の欲求を満たしていくというものなんです。
Sさん:なるほど!仕事で自己実現をしたいと思っても、睡眠を削っていて仕事に力を注いでいると充実感や充足感を得ることはできず、ただ疲弊していくばかり、ということなんですね。
高尾先生:そうです。睡眠時間を考えると、Sさんは夜23時には寝たほうがいいですね。23時に寝るためにはどう過ごせばいいか、時間を逆算して生活を整えてみてください。
Sさん:23時に寝ようとすると、かなり頑張らないといけないかもしれません……。
体が変化する40代は、ギア全開では乗り切れません!
高尾先生:そこで頑張ったらダメ(笑)。Sさんは44歳なので、年齢的には更年期にさしかかっています。つまり、体が変化しようとしている曲がり角ということ。車だって、カーブを曲がるときはスピードを緩めないと事故になるのと同じで、この年代は自分にかかる負荷をボリュームダウンしないと、不調に陥ってしまう時期です。いかに頑張らずにやっていくかということを心がけていくことが必要です。
Sさん:でも、どうすればいいんでしょうか……。
高尾先生:まずは、夫や子どもたちに、体調が不安定な年代だということを話して、Sさんの状況をみんなにわかってもらいましょう。そしてSさんが23時には寝られるよう、家事はある程度家族に任せるというスタイルに切り替えられるといいですね。仕事についても、フリーランスの仕事の量はご自身で調整できると思うので、今は仕事のボリュームを落とすように意識してください。頑張りすぎず、「体が変化している時期なのでギア全開では曲がりきれない」ということを十分意識してください。
Sさん:それはいいですね。家族と話し合ってみたいと思います。また、生活を整えていく中で、疲れているときの食事で気をつけるべきことはありますか?
高尾先生:Sさんは、どんな栄養をとるかを細かく考えて悩むより、料理を楽しむ時間的な余裕を持つことが大事です。とりあえず、美味しくごはんが食べられればいいと気楽に考えましょう。そして、毎日クタクタになるまでタスクで埋め尽くすのではなく、料理を楽しむゆとりが持てるよう、見直してみるといいですね。
【高尾先生の処方箋】疲れを取るためにできること
1:睡眠時間をしっかり確保する
2:家事や仕事の量を減らすよう意識する
3:料理を楽しむゆとりを持つ
後編は、こりや腰痛対策についてです。ぜひご覧ください!
撮影/中林 香 取材・文/須賀華子 編集/倉澤真由美