【男の子の育て方 対談連載vol.4】「男の子の性が雑に扱われ過ぎている問題~男性トイレ編、男性の水着編」

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

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太田さん(以下敬称略) 前回、田中さんがエマ・ブラウン著の『男子という闇 少年をいかに性暴力から守るか』(原題 To Raise a Boy)に出てくるように、男の子たちの体も尊厳と敬意を持って扱われるべきというお話をされていらっしゃいましたが、私も本当にそのとおりだと思います。

田中 「男の子の性」って、ちょっと雑に扱われてると思っていて。 

太田 男子トイレの話なんですが、私が小学校の時、同級生の男子が「女はいいよな~」って、言ってました。
どうしてかというと、「トイレに入ったら、大をしているか、小をしているか、わからないから」って。当時、子どもだった私は爆笑してしまいました。「え~っ!」みたいな感じで。
私はそんなこと知らなかったので、家に帰って妹とか母に「男の子ってさ、ウンチか、オシッコか、わかっちゃうんだって~」と笑って話すほどだったんです。
でも、今でもとても覚えていて、頭の中で引っかかっているんですよね。
本当は笑いごとではないと。
男の子は個室に入ってウンチをするとからかわれることもあるようですし、それ以前に、男性の小用の便器というのは、とてもプライバシーがない空間だと思います。
次男は小4なんですが、先日、大きな公園に遊びに行った時に、トイレを使おうと思ったら目隠しがあまりにも少なかった。外から丸見えとは言わないけど、結構、見えやすい作り感だったんです。そうしたら、息子は「僕、ここヤダ……」と言ってトイレから出てきちゃったんですね。確かにデリカシーのないトイレでした。
多くの男性は、既にトイレはそういうものだと思ってるから、慣れてるし、気にしない。

そんなトイレを嫌がる子どもに対して、親は「それはね。男の人はそういうこと気にしないことになっているんだよ」と言うことでいいのかなと思いました。
それが当たり前でいいのか、そういう社会でいいのかどうか。

田中 男子便所の小便器は、横を見たら、他人の性器が見えちゃうんです。
僕は小さい頃から男子便所がイヤだったんですけど、それを伝えると周りからは「気にしすぎ。そんなに気にする問題じゃない」って言われました。
加えて、「自分の性器が変なの?」とか、「お前、人に見せられないような性器なの?」みたいなことまで言われるんですよね。そうじゃない。単純に自分のからだの性器の部分がさらされていることがイヤなんです。
あとは混んでいるトイレ。例えば野球場のトイレに行くと、小便器の前で用を足していると、すぐ真後ろにピッタリと人が並ぶんですよ。イヤでイヤで。全然落ち着いてできない。
それが当たり前だったからとはいえ、多くの人が違和感を持っていないことが問題だと思いますよ。

男子の水着も上半身裸はおかしい!

太田 トイレがそんな様子だなんて、本当は、衝撃ですよね。
他人の性器を見ようと思えば見える状況というのは、尊重がないことだと思うんです……。
女性同士でそんなことがあったら大変……と思うことが、男性の場合は問題ないとされているわけじゃないですか。男は平気。男は気にしない、と。でも本当にそうなのでしょうか。
プライバシーとか、性的な尊厳とか。男の子は明らかに雑に扱われてると思います。

あとは水着ですね。以前、ある講演の時に会場内で質問を募ったところ、30歳前後の男性が言いました。
「男の子の水着は上半身裸なんですけど、それがすごくイヤだった、でもそれを言いづらかったということを覚えていて……」と。
そのことを別の講演で紹介したら、参加者の女性が
「今まさに、うちの小学生の息子がそれと同じことを言っています」と。
最近は、ラッシュガードを着てもいい小学校が増えたようですね。うちの息子もラッシュガードが欲しいと言い出したので購入しました。いいことかもしれません。

田中 ただ、それに関しては上半身裸が良くないというよりも、日焼け防止といった理由が大きのかもしれません。

太田 私に話しに来てくれたお母さんのお子さんのクラスでは、みんなラッシュガードを着ないんですって。
「みんなが着けていない中で、自分だけ着けるのもイヤなんです」ということでした。
個別に相談をして学校にラッシュガードの着用許可を取るということもできるのでしょうが、日焼け防止だけの問題でもないですしね。
嫌がらない子にも全員ラッシュガードを着せるべきというつもりもないですが、内心違和感がある男の子の違和感が尊重されていないし、違和感表明自体をしづらい空気があるんですよね。自分が尊重されないと、他者への尊重について学びづらいのではとも気になります。

田中 先ほどのエマ・ブラウンの著書をふまえると、同じことが女子だったらどう思うか? という視点が大事です。やっぱり様々な問題を考えないといけなくて、水着の話にしたって、女子の上半身が裸だったら、みんな違和感を抱くわけじゃないですか。
女子トイレの便器が、ドアもなく周りから丸見えだったら「ありえない!」というふうになりますよね。
逆だったらどうかと思えば答えは簡単。男性のからだや性だって、もっと尊ばれるべきです。
なかなか大人はそこまで想像が及ばないんです……。

太田啓子
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。
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