【LIFESTYLE】パリ近郊 花とともに暮らす (71) Pivoine (芍薬)

6:00

濃い目のコーヒーを入れた。

太陽がそろそろ地平線を追い越そうとしている。今週は夏日が続く。むっとした空気と雲の後ろに雷雨が隠れている予感がする。こんな日にはミツバチが騒ぎ出すかもしれない。何かをひきさくようなあの音がいつ空を響かせるのか。それでもなかなか舞台の幕は開かない。雨が降る前に週末のウエディングに向けて花を切りだすことにした。蜂はまだ静かに眠っているだろう。養蜂箱のすぐ横にあるロシアンオリーブの枝を切りに出かけた。

膝のあたりまで伸びたグラミネをザクザクとかき分け歩き進む。麦畑の辺りまで埋め尽くされたグラミネが黄金色に輝いて見える。何時もはまだ眼をつむっている時間。朝焼けに浮かび上がる静けさは、心に届く思いがけない贈り物のように感じた。

切りおろしたシルバーの枝を手に持ち芍薬畑へ足を運ぶ。周りは伸びきったグラミネが何処までも果てしなく続き、歩くごとに煙の様な花粉が小さく舞う。その先にボルドーやピンク色の花が踊るように咲いているのが小さく見えた。

 

5月が終わろうとする頃、芍薬は何かを決心したかのように突然咲き出す。春のまだ早い時期に奇妙な赤い新芽をひょろりと出し、暖かさが進むにつれ背丈をぐんぐん伸ばし大きく広げる葉。菜の花が咲き出すとその葉の中から突然現れる蕾はちっぽけで、木琴の棒のようなその姿はちょっと滑稽でもあり、あの大輪の豊かな花になっていくことが想像もつかないくらいなのだ。

そして麦の穂が風に揺れる頃。大きくなった硬いつぼみがボン、とはじけるようにほぐれ、そこからほんの少し花の色が見え出したかと思うとあっという間に豊かに咲き切り、薄紙のような花びらはある日バサッ、といっせいに散り落ちてしまうことになる。劇的な最期までがこの花の魅力なのだと思う。

色とりどりに咲く芍薬畑の中で白を探した。白と緑の宴の席。大人の2人には優しい白の芍薬が良く似合う。甘さを抑えたこの花が今の季節を運び込んでくれに違いない。白がやっと咲き出した。祈る様な気持ちで毎日待っていたその色。ちょうどその時に美しく咲いてくれますように、と一つずつ手で触りそのふくらみ具合を確認し摘み取って行った。

大胆で繊細。

無数の花びらはクレシェンドに流れ出す音の粒。

音の波に乗った初夏の風と共に芍薬が心の中を駆け巡る。

 

 

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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