【連載30年以上】漫画家・おのえりこさんが「子育てと漫画家をなんとか両立」できた理由

『こっちむいて!みい子』は、30年以上の長期連載となるギャグ漫画。小中学生の子どもの日常を描くのんびりしたテイストですが、時に性教育、LGBTQ、戦争、児童虐待など社会派のテーマも描き、SNSでもたびたび話題になっています。作者のおのえりこさんに「みい子」の連載を続ける中で感じていることや、育児の真っ最中に漫画を描き続けた当時のエピソードをお聞きしました。

※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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PROFILE

漫画家。5月5日生まれのおうし座。1990年、月刊漫画誌「ぴょんぴょん」にて、「こっちむいて!みい子」の前身となる「元気爆発ギャグKID みい子で~す!」の連載がスタート。1992年「ぴょんぴょん」休刊に伴い、「ちゃお」 で連載継続。1995年「おさわがせKIDS白書 こっちむいて!みい子」としてリニューアル連載開始。Twitter @marimiiko

連載から30年以上、
変わったこと変わらないこと

多様性に対する意識は大きく変わったと思います。私の作品に限らず、あらゆるテーマを色々な角度から自由に描けるようになったのは昔と比べて良い変化ですね。スマホの有無などの変化はありますが、みい子はいつの時代も、子どもたちの半径5メートルくらいの日常を描いてきた漫画です。でも初期の作品を見返すと「女の子らしい恰好をしなくちゃ」なんていうセリフが当たり前のように出てきます。今なら、「女だから、男だから」という描き方はしないだろうなと。最近、LGBTQの子の話(「なつきという子」)を描きましたが、これは以前からいつか描きたいと温めていたテーマでした。連載を始めた頃は、自分が将来こんなテーマを描けるなんて想像もつきませんでした。

──なつきの話は読者からどんな反応がありますか?

LGBTQ当事者の読者からは、大人も子どもも含め、「描いてもらって嬉しかった」という感想を多くいただきました。TwitterなどSNSでダイレクトに反応が返ってくるのも昔と違いますね。丁寧なお手紙も、当事者の方や教師の方、学童で働く方などからいただけて嬉しかったです。

子育て真っ最中だったから
描けた「みい子」

──みい子の両親は共働きで家事育児に忙しいという設定です。仕事と育児にてんてこまいな姿がとてもリアルで……。

娘2人は就職し、家を出たので今は夫婦二人暮らしです。それまではずっと育児が日常にあったので、みい子は我が家のありのままの暮らしを描いているような感覚だったんですよね。連載が始まって1人目が、6年後に2人目が生まれたので、みい子を描いていた時期と子育ての時期がほぼ重なっています。30数年間、ネタのストックがなかなかできず、いつだって自転車操業だったので、毎回子どもたちとのやりとりからアイデアをひねり出していました。みい子たちが、いつも家中を走り回っているような感覚だったんです。それでも仕事や育児に行き詰まって、「もう無理!」と思ったときは、そのありのままの状況を漫画に描いちゃうことも多かったです。本当にリアルタイムで育児に追われながら描いていたので、お母さんたちに「分かる!」って言ってもらえるのはとても嬉しいんです。

──娘さんたちはお母さんの仕事について何か言っていましたか?

子どもたちは私が漫画を描いているとそばに寄ってきてすぐさま原稿を読むので、反応が怖かったです。面白いときとそうでないときでまるで違うんですよ。面白いときはゲラゲラ笑ってくれます。それって大抵は、読者の反応とも同じなんです……。

今、育児中の
お母さんたちへ

──今、VERYの読者も育児の最中という人が多くて。

子どもを育てながらの仕事や暮らしって、毎日毎日何やってんだか、という感じであっという間に過ぎていきますよね。私の場合、すぐに保育園に入れなかったものの実家の親や夫の協力体制があったので恵まれていました。それでも手が足りなくて、お隣の奥さんやアシスタントさんの彼氏とか、編集部のバイトの大学生さんまで色々な人に時給をお支払いして手伝ってもらっていました。おかげでお金は右から左でしたけど。何でも自分で抱え込まないで、とにかくまわりを巻き込んでみんなで育児をしてね、と言いたいです。助けてって言うのが苦手な人も多いけれど、言ってみると意外と手を貸してくれる人がいると思うので。

──漫画には、会社員や自営業、専業主婦家庭、離婚した夫婦など連載開始当初から色々なタイプの家族が登場します。これは意識的に設定しているのですか。

読者にも色々な家庭環境の子がいるので「これって今の私みたい」と思って読んでほしいと考えています。色々な子どもと親がいたほうが面白いと思いますし。毎月お話を作るのが大変で、見聞きしたことはなんでもネタにしてきたので登場人物がどんどん増えていったという事情もあるのですが……。

 

NEXT>>>戦争や性教育、時事問題や社会問題なども描く理由とは?

広島、長崎、東京……
戦争の話を描き続ける理由

──時事問題や社会問題にからめたテーマも増えています。

この30年の間に、子ども向けジャンルの漫画自体がとても少なくなりました。「小学〇年生」に代表されるような学年誌も一部を残してなくなっています。子どもって、学校で教わることに限らず、新しいことを知ることが大好きだと思うんです。いままで知らなかったことを漫画で知ることができるような話を描きたいなと。読者からリクエストが来ることも多いです。「病気で長期入院しています。私みたいな子の話を描いてほしい」とか。これは手紙をくれたご本人にも話を聞き、実際に漫画にしました。こういったテーマ性のあるものは、取材をして時間をかけて描いています。

──広島・長崎の原爆や東京の空襲など、戦争についての話も描かれていました。

昔はいろいろな少女漫画誌でも、毎年夏になると戦争の話が必ずと言っていいほど載っていたんですよ。それが今ではほとんどありません。他の人がしないことをやりたいという思いもあるので、誰も描かないなら私だけでも描こうと考えて……。読者からは「怖かった。親子で戦争について話しました」とか、「戦争についての本を読みました」と感想が来ることも。子どもたちが過去の歴史に関心を持つきっかけになるだけでも、描いていて良かったと思います。

編集部に抗議が
殺到したことも……

──性教育をテーマにしたときは、保護者からの抗議の電話が殺到したと聞きました。

そうそう。「えっ、こんなのんきな漫画に⁉」とびっくりしたのを覚えています。初潮や妊娠のしくみについて描いたのですが、話自体の問題というより、「おちんちんをおまたにいれる」というセリフに反応した方が多かったようです。でも、それこそが子どもたちが真実を知りたいのに分からないことだと思ったんですよね。2000年代初頭の話なので、今なら受け止め方も変わってきていてあれほどの抗議は来ないんじゃないかと思いますが……。当時はすごく落ち込みました。最近、みい子の過去作品の配信キャンペーンがあり、たくさんの方に読んでいただきました。中には昔の読者で久しぶりに読んだという人もいて、「この話覚えてる!」という感想も多かったようです。当時の読者には届いていたんだ、描いてよかったなといまさらながらに思いました。

──海外には、性教育の本もたくさんあるのに、と当時考えていたそうですね。

今でこそ性教育がテーマの本も日本で増えていますが、当時はそこまでではなかったので海外の子どものための性教育本を色々読みました。日本人の感覚とは違うので、セックスシーンもイラストでありのままに描かれているんですよね。それをそのまま日本でやるのではなく、みい子の日常の中で性について考える方法があればと考えました。でも、お叱りの声が多かったので単行本化するときに加筆したんです。「ママもパパとせっくすしたの?」とみい子が母親に自分が生まれた理由を聞くシーンです。それは批判に対する私なりの答えの一つでもありました。日本では30年前も今も、性のことを具体的に学校で教える機会が少ないです。でもそれでは子どもたちが自分の体を守れないと思うんですよ。性について知っておくことは自分の心や体を守ることにもなると伝えたくて描きました。

──子どもたちだけでなく保護者も読んでいるんですね。

はい。「サンタはパパとママ」という話を描いたときにも、ものすごい抗議が来たんです。「子どもの夢を壊す気ですか?」と。皆、きちんとサンタ業務をやっているんだと気づいて、これはちょっと悪いことをしたなと思っています(笑)。昔の読者が今、お母さんになって子どもと読んでくれているというパターンも多いですね。子どもに「ちゃお」を買ってあげたらまだ連載が続いていてびっくりしました、とよく言われます。三世代で読んでいますという方も。連載開始当初、小学校中学年だったみい子は、今や中学生になりました。ずっと読んでくださっている読者もいっぱいいるので本当にありがたいです。「もう描けない。やめよう」と思ったことも何度もあったけれど続けてきてよかったです。

VERY読者のみなさんへ

みい子は社会派

LGBTQ

「なつきという子」35巻収録

「現時点で小中学校の学習指導要領にはLGBTQが載っていません。存在しないことにされるのは当事者は非常につらい」とおのさんは話します。トランスジェンダーであることから学校生活に悩むなつきが登場する35巻にはLGBTQについての理解が深まる解説やおすすめの本・映画リストも収録。親子で読みたい一冊です。

仕事と育児

「春のお出かけ」21巻収録

妹、ももが生まれみい子は3人きょうだいに。出産、仕事復帰・きょうだいの子育て……と仕事と育児の様子がリアルに綴られます。大人も子どもも全員で家事を分担し、子どもが生まれてからも仲の良いパパとママの姿は何だかちょっとうらやましい。「こうだったらいいな、という理想も含めて描いています」(おのさん)。

戦争の記憶

「みい子のねがい」2巻収録

幼い子どもの命まで奪った長崎や広島の原爆について知る「みい子のねがい」(2巻)、「広島の女の子」(17巻)をはじめ、東京都心の空襲を今も実在する書店を舞台に描く「2015年のみい子のねがい」(29巻)など、遠い昔の出来事となりつつある戦争の被害の実態をみい子が追体験する話が定期的に描かれました。

性の話

「いつかはあたしも…?」14巻収録

友人たちが初潮を迎える中、まだ生理が来ないことが気になるみい子は妊娠のしくみに疑問がいっぱい。賛否両論を集めたという「いつかはあたしも…?」(14巻)は、生理やはじめてのブラジャーなど、やがて思春期を迎える子どもが今知りたい話を集め、性教育の本としても読める総集編『みい子セレクションGIRLS』にも収録。

小学生だったみい子も中学生に!

『こっちむいて!みい子』 (小学館 ちゃおフラワーコミックス)

いつも元気なみい子はしっかり者の弟まもるとかわいい妹のもも、共働きの両親との5人暮らし。ぶっきらぼうだけれど優しい幼なじみの竜平をはじめ、友人たちに囲まれて賑やかに過ごす日常を描く漫画シリーズ。インドネシア、ベトナム、タイ、韓国、台湾ほかで翻訳版も刊行され人気を集めている。現在月刊誌「ちゃお」に連載中。最新36巻が好評発売中。

取材後記
私が「みい子」をはじめて読んだのは連載開始と同時期、小学校低学年でした。今回改めて読み返してみて「このエピソード好きだった!」「セリフまで一字一句覚えている」というシーンに何度も出くわし驚きました。今は小2の息子が単行本に夢中。本当に朝から晩まで、宿題とかそっちのけでずーっと読んでます。面白いよね。みい子には子どもの心をとらえる魔法の力があるようです。(髙田)

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取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2022年7月号「漫画家・おのえりこさんが描いてきたこと」より。

*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。