新聞記者から転身。家業の「つっぱり棒」の3代目を継いだいま思うことは?

〝持続可能な社会を!〟と叫ばれる一方で、後継者不足に悩み、廃業になる企業が後を絶ちません。そんななかで、誇りを持って家業を受け継いだ〝跡取り娘〟を取材してきました。

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竹内香予子さん(40歳・大阪府在住) 平安伸銅工業(株)3代目社長

儲かる、儲からない、も大切だけれど
それより祖父や父の築いたものを
よりよい形で次に繫ぎたい

つっぱり棒業界でトップシェアを誇る平安伸銅工業の跡取り娘が竹内香予子さん。「新聞記者でしたが、転職を考えていた時期に、父が体調を崩し、母の勧めもあって入社しました」。

当初はゆっくり経営を学ぶつもりで、商品開発からスタートしましたが、先代の体調が悪化。そのため、’11年からは、財務や総務を担当し、社長の実践見習いとして、社内の意思決定を行うようになりました。

「つっぱり棒は、価格競争の真っ只中。改善を重ねていたため、経営状態は悪くありませんでした。でも、状況は消耗戦。縮小均衡を脱し、成長軌道に乗せるには、改革が必要でした。実力も実績もなかったのですが、これがファミリービジネスの温かいところで『姫が騒いどるから、手伝ったろうか』とみな手を貸してくれました。でも、一緒に改革を進めてくれる“改革が得意な人材”がどうしても必要だったのです」。

そこで、県庁職員だった夫を1年がかりで説得し、家業に入ってもらうことに。ビジョン策定が得意な妻と、計画・実行が得意な夫の二人三脚体制が整い、香予子さんは、’15年に社長に就任しました。

「まずは、実店舗中心だった営業を、アマゾンなどネット通販へと拡大しました。また、つっぱり棒を生かしたインテリア性の高い新ブランドを開発。さらに、つっぱり棒研究所を立ち上げて、SNSやメディアで発信するとともに、“つっぱり棒マスター認定講座”を開催して、顧客からも、情報を発信してもらえる仕組みづくりを構築しました。入社以来、がむしゃらに仕事に打ち込んできましたが、新規事業が軌道に乗った36歳のとき、先送りしてきた妊活を始め、37歳で第一子を出産しました。コロナ禍も重なり、思うように仕事ができず、不安的な時期もありましたが、今は、家族の幸せがすべての基盤と思えるように。「娘が成長した先までの長期的な視点で事業を考えるようになりました。祖父、父が築いたものを次に繫げたい思いです」。

コロナ禍以来、在宅勤務を実施。写真はこの春のキックオフミーティングの様子。入社時20名程度だった社員数は70名に。
36歳から妊活をして38歳で出産。
社長就任後に開発した新商品DRAW A LINE。つっぱり棒とライト、棚などさまざまなパーツを組み合わせてスタイリッシュなインテリアとして活用できる。
2×4材にかぶせて簡単に棚を作れるLABRICOは大ヒット商品に。
自宅をショールームとしてメディアに発信。
EC営業に力を入れた結果アマゾンでの売り上げが大幅に改善。

竹内さんは社員を「メンバー」と呼びます。会社が目指す価値観がメンバー全員に浸透し共有できるよう発信をし続けています。

<編集後記> 改革は「しよう」と思えばできるんだと痛感

京都と羽田さん老舗の3代目というより、ベンチャー企業の勢いを感じました。家業の後継者との横の繫がりも強く、若い後継ぎさんのメンターも引き受けているそう。誌面の都合で、産休明けに葛藤したお話などが書けなかったので、別の機会に紹介したいです。(ライター・秋元恵美)

撮影/前川政明 取材/秋元恵美 ※情報は2022年9月号掲載時のものです。

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