モモコグミカンパニーが「BiSHより緊張する仕事」本のチカラは偉大です!

2021年末に初の『NHK紅白歌合戦』出場を果たし、2023年をもって解散することを発表した”楽器をもたないパンクバンド”BiSHのモモコグミカンパニーさん。本誌9月号の新時代創作プロジェクト連載「1 PICTURE 1 STORY」vol.4で、初の”超短編”小説『インターネットダイビング』を綴った彼女が、物語を生みだす原点でもある”読書体験”を語る。

「小説作品で好きなのは、実写映画化もされている森絵都さんの『カラフル』。”同じ自分でも明日生まれ変わっていいんだ”という作品のメッセージをすっと受け入れることができて、人生の見え方がガラッと変わりました。

私は”毎日同じような日が続いていくんだ”と感じていたんですけど、『明日から生まれ変わった気持ちで生きていけば、人生が急に輝き出すんだ』って、新鮮な気持ちになりました。それまでは小説とリアルって別のものだと思っていたんですけど、作品と日常はリンクしていて、こんなに世界の見え方が変わるなんて素晴らしいなって思いました。

それから、人として尊敬してるのが夏目漱石さん。小説家としてより、生き方を参考にしています。最初は”偉い人”ってイメージだったんですけど、『私の個人主義』という講義の記録本を読んで、『この人すごく優柔不断で迷っていて、ストレートに成功した人じゃないんだ』って思ってから、すごく親近感が湧いて好きになりました(笑)」

モモコさんが読書に没頭するようになったのは、BiSHでの日々がきっかけだという。

「じつはBiSHに入ってからのほうが、本を読むようになりました。スケジュールが忙しかったり、ライブで激しいパフォーマンスをしている日々の中で、自分の心の拠り所として、小説があって。読書でしか得られない、静かな時間が好きです。でも乗り物酔いしやすいので、移動中はあまり読みません(笑)。

私は喫茶店が好きで、自分で連載もやらせていただいているぐらいなんですけど、本は静かなお店でちまちま読むのが好き。読むのがあまり早くないので、毎日ちょっとずつ読み進めることが多いですね。ペースでいえば、月1冊読めたらいいなというぐらい。読みたい本がないと、読まないんです。

いま読んでいるのは、窪美澄さんの先日直木賞を受賞された短編集『夜に星を放つ』です。窪さんの作品は昔から好きで、新作が出るたびチェックしています。あと、学生のときに『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』で出会った村上春樹さんの作品は、全部読んでいます。『ねじまき鳥クロニクル』がいちばんのお気に入りかな」

2022年3月に刊行した長編小説デビュー作『御伽の国のみくる』の執筆にあたり、本の読み方に変化があったモモコさん。

「自分で小説を書くにあたり芸能界の方が出された話題作は読んでおこうと思って、芥川賞候補になられたクリープハイプの尾崎世界観さん、EXITの兼近さん、かが屋の加賀さんやBKBさんの作品などを読みました。”演者としてのリアルの自分”と”創作する自分”をどうやって分けているかが、みなさんそれぞれ違っていて、すごく勉強になって。

いまも読書は心の拠り所ですが、100%エンタメとして楽しむだけではなくなりました。一冊の本の中でいくつ重大な事件が起きてるんだろう、ターニングポイントがいくつあるんだろう、登場人物は何人いるんだろう……というところを自然にチェックするようになったんです」

“紅白歌手”の肩書きも通用せず…「宗教の勧誘」と思われ門前払い

“小説を読む場所”だった喫茶店を舞台に、今モモコさんが挑戦していることがある。それが彼女のオフィシャルサイト「うたた寝のお時間」で不定期に更新している、喫茶店マスターのインタビュー連載「コーヒーと失恋話」だ。

「自分ひとりで喫茶店に直撃訪問してるんですよ(笑)。一応マスターのお気に入りの喫茶店に行くというリレー方式でやらせていただいて、事前に1回はお客さんとして絶対行くようにしています。でもアポのときは突然お店に行って、交渉します。

『BiSHのモモコグミカンパニーという者です。こういう連載をやってまして、●●のマスターがすごく好きな喫茶店ということで、私も前に一度お客として来てみて好きになったので、ぜひ取材させていただけませんか』

モモコグミカンパニーという名前の響きもありますが、きちんとお話ししても、基本的にすごく怪しい人だと思われてしまいます……。もちろん、断られることもあります。本当に無理だと思ったときは、ときどき『去年、紅白にも出させていただいて……』と言ってみたりするんですけど全然刺さらなくて(笑)。大体は、”だから何ですか?”みたいな表情をされます。

でも紙の本を持っていくと、信用してもらえることが多いんです。いきなりパソコンを広げてホームページを見せたら宗教の勧誘かと思われてダメになったこともあったのですが、本を見せると安心される方が多いことに最近気づきました。ただそれでも、間違いなくこれが全部の仕事の中でいちばん緊張します(笑)」

初めて読む人に、おすすめの1回は?

「第3回の『邪宗門』という荻窪駅にある喫茶店で、90代の女性マスターを取材した記事が気に入っています。お店にある『くもりガラス』をベースにしているんですが、透けて見えすぎないところにグッときて。マスターの年齢やモノの見え方と掛けて、自分の空想も交えながら、取材記だけどちょっと小説チックに書けた感触があります。もし気になっていただけた方は、ぜひ読んでみてください。

この仕事はアポイントメントだけじゃなくて、写真撮影の許可やスケジュール管理、編集まですべて自分でやっています。取材先の喫茶店からすごい赤字や要望をいただくこともあるんですが、編集者さんって大変だけど楽しいんだなって思いました。

それから、マスターと話したいとは思っても素の自分だったらたぶん緊張して話せないので、こうして理由を作ることで話すきっかけができて、すごく楽しめています。ほとんど趣味なので(笑)。最近は更新できていないんですけど、またやります」

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<PROFILE>
モモコグミカンパニー/BiSH(ももこぐみかんぱにー/びっしゅ)
2023年をもって解散することを発表した“楽器を持たないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。メンバーの中で、もっとも多く作詞を手がける。2018年に初の著作『目を合わせるということ』を刊行。2022年3月に上梓した長編小説デビュー作『御伽の国のみくる』(河出書房新社)が好評発売中
Twitter:@GUMi_BiSH
Instagram:@comp.anythinq_

Photo_Takuya Iioka Hair&Make-up_Yumi Hosaka[éclat]