【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.14】テレワークは、かつての「内職」のようなものです。家事だって増えました。

進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。

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「デジタル社会と男女」について③

Q.最近はテレワークが増え、家にいる主婦たちも仕事の幅が増えたのではないでしょうか。例えば、介護のために退職を余儀なくされたという方も、再び仕事がしやすくなったと思いますが、どうでしょうか。

ジェンダーの研究者という立場からお話しをすると……。
ネガティブなデータを言いますが、いいですか?

Qはい、お願いします。

昭和の内職は「マッチ棒を箱につめて何銭」の時代でしたが(笑)、テレワークは新しい内職です。
内職は、時給が安く、労働を買い叩かれることが多いのです。
もちろん、小さい子どものいる主婦や家族介護で仕事を辞めた人たちが、在宅勤務が可能になることで、確かに仕事が可能になるのは事実です。
でも、ITはただのツールです。ツールがあっても売るスキルがないと戦えません。
例えば、少数言語の翻訳能力があるとか、webデザインの能力があるとか、そういった自分だけのスキルがないと市場で買い叩かれます。

Q結局、 自分のアピールできる長所がないとダメってことですね。

そう。東さんはライターというスキルがあるから、テレワークができているんですよね。

Q.スキル、ないです(笑)。「あなたの代わりはいくらでもいるよ」と言われて、仕事がなくなりそうで怖いです。新しい人がたくさん入ってくるので、〈しっかりやらなきゃな……〉と思います。ただ、誌面だけでなくwebがあることで、書く仕事の幅は広がっています。おっしゃるとおり、一般的にwebの単価は安いです(笑)。

確かにそう。仕事の幅は広がっているけれども、単価は上がらない。
テレワークの大きな問題は、労働者が横につながらないために交渉力がないことです。
だから会社には都合がいいのです。

Qそうか。会社も言い値でお願いすることができたり、経費も安く済みますよね。交通費もかからない。

はい。実態はやはり、かつての内職と同じ。仕事の保証がなく、低賃金で買い叩かれます。

Qそうかもしれませんね。主婦にしてみれば仕事に取り組みながら家事をしなければならない。結局、働く量が以前より多くなる。

そうです。だから〈市場価値のあるスキルを自分が持ってるかどうか〉が大事なんです。ZOOMなどのWEBアプリは、単なるツールにすぎません。

Qスキルがあったうえで、ITのツールをどれだけうまく使いこなすか、ですよね。

内閣府の調査による令和2年度の年収別テレワーク実施率データがあります。

出典:令和3年度 内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書」より

全体のテレワーク実施率はおよそ20%ですが、年収1,000万円以上では50%を超えます。年収とテレワーク実施率が相関しているのです。

東さんはどこに入りますか(笑)?

Qいちばん上です。300万円未満です。

テレワークに置き換えられない仕事をしている人たちを「エッセンシャルワーカー」と呼びますが、感謝はしても待遇が良くなるわけではありません。
それに対して、年収1,000万円以上のプレーヤーだと半分以上がテレワーク。こういう人たちを「オンライン階級」と呼ぶ用語まで登場してしまいました。
そこでも格差が開いていきます。

Q怖いです……。

データは赤裸々に語ります。
はい、それでは次を見ていきましょう。
夫と妻が共にテレワークをしている場合には夫が有利な場所を優先的に独占し、妻は台所の片隅に追いやられるとか、ひとりになれる場所がないとかの不満も耳にしました。それに妻のテレワークは子どもや宅配便などで寸断されます。それでもテレワークを続けているあいだに、夫にも変化が起きました。

テレワークを続けている間に、家事育児が増えましたか? というもの。
見事に増えているのです。

出典:令和3年度 内閣府「第3回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より

Q.ホントにそうだと思います! 家で仕事をしていると、いろいろ気になってしまって、結局、家事が増える……。

はっきり出ていますよね。
おととしの暮れあたりから、テレワークがなくなって会社出勤に戻った人たちもいましたが、一方で、そのまま元に戻らなかった人たちもいます。
また、テレワークの経験者は継続を希望し、テレワークがなくなった人も再開を希望していることがわかります。
男女とも家庭内の家事や育児の負担が増えましたが、他方、男性の家事参加が元に戻らないという良い影響もあります。

「テレワーク勤務なのに、家に居場所がない!」と言っていた男性がいました。
その場にいた女性が彼に放ったひと言は、
「あなた、会社に貢献しないと会社に居場所がないでしょう? 家も、それと同じよ」
ですって(笑)。

Q確かに(笑)!

満員電車が減ったのもポジティブな変化かもしれません。
テレワークを経験してみたら、「通勤地獄なんて、もうやってられねえや!」と思ったのではないでしょうか(笑)。

Q.一方で、私の担当編集者の男性のように、会社に行ってオンライン仕事という方もいますよね(笑)。

オンラインで打ち合わせしていても、「今どこですか?」と聞いたら「会社です」という人も多いですね。
私から見たら〈会社でオンラインの仕事してるって、どういうこと?〉と思うけどね(笑)。

 

取材/東 理恵

上野千鶴子

1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。

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