【LIFESTYLE】パリ近郊 花とともに暮らす (78) 最終章。赤を探して。
朝7時。
流し台の前に立つ。
コ–ヒ–をいれる為に水道の蛇口をひねる。電子ケトルのスイッチを入れ、目の前にある小窓から外をぼんやり眺めた。景色はほんのりと赤色。太陽が地平線からちょっぴり頭を見せた所。そんな目に見えない光景を想像していると、ブクブクという音がだんだん大きくなり、カタンとスイッチが切れた。お湯が沸くほんの数分間。台所の小さな窓と壁があっという間に赤レンガ色に染まっていった。
しっかり姿を現した、おおらかな朝陽に照らされ、いそいそと犬と散歩に出かけた。長袖のTシャツとセータ―。朱色の庭と吐く息の白さ。きりっと澄んだ空気の中で、背中にそそぐ陽が妙に暖かく感じられて心地よい。遠くに見える牧草の馬の背も同じく朱色に照らされている。こんな秋晴れの朝は何か新しいことが始まりそうで、訳もなくウキウキとした心持ちになる。
ポタジェに着き、トウモロコシの隣に咲いていたボルド–色のスカビオサの花を摘もうとすると、ぽつんと赤いものが見えた。幸運を呼ぶてんとう虫。一生懸命何かを食べているのだろうか。秋日和に誘われてど真ん中の一等席を見つけ、日向ぼっこをしている様にも見える。なかなか飛んで行こうとしない小さなその真っ赤な虫をじっと見つめた。
季節にはそれぞれの色がある。植物が再び動き出す春先は新芽の萌える赤色。梅や桜の透けるような白や桃色がバトンを受け継ぎ、虫たちが盛んに飛び交う元気な黄色の季節へと移って行く。さわやかな新緑の初夏を超え数えきれない程の色で覆い尽くされる夏。庭に色の音粒が尽きることなく流れ、そして実りの秋に辿り着く。
秋の色を表すのは難しい。寒さが重なるごとに、時にはゆっくりと、時には劇的に色を変えていく森や庭。熟しきった赤い実。そして秋の風に揺れては落ちる黄銅色の葉。フラットのかかった微妙なニュアンスが、秋と言う季節を言葉では表せない何か奥の深いものにしているような気がする。そしてそんな色音が何処からともなく聞こえてきて、日々の暮らしのふとした瞬間はとてつもなく優しいものとなるのだ。
赤を集めよう。
やがて来る灰白の冬に明かりを灯す為に。
秋の入り口。
眠りの季節へ向かう最終章が始まった。
【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/
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