3人の娘の母・伊藤比呂美さんに聞く「子どもの思春期ってどう受け止めましたか?」
──詩、小説、古典の現代語訳、新聞やラジオでの人生相談など多方面で活躍する作家・伊藤比呂美さん。VERYでも以前、人生相談をしていただきましたが、やっぱり悩みは尽きません。現在、早稲田大学等で教鞭をとる伊藤さんに「女の人生」について出張講座を開いてもらいました。今回は、子どもの思春期についてです。
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©吉原洋一
伊藤比呂美(いとう・ひろみ)さん
1955年生まれ。詩人。青山学院大学文学部卒業。’80年代の女性詩ブームを牽引する。
結婚、出産をへて’97年に渡米したのち、2018年に帰国。現在熊本に在住。『良いおっぱい 悪いおっぱい』『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』『父の生きる』『読み解き「般若心経」』『閉経記』『ショローの女』など著書多数。
『女の一生』(岩波新書)巻末年表によれば、伊藤さんご自身の30代は、「生活に不満はなかった。よい夫で、仕事は充実して、子どもたちも健康だった。世間ではよい夫婦、理想の夫婦といわれていた。その枠に押し込められるのがいやでいやでたまらなかった」「Nと離婚。以後も家族として同居を続けることにする。いろいろある。ほんとにいろんなことが人生にはある」という波乱の時期でした。
育児の話
──今、子どもが小2なのですが、これから育児で何が起きるのか全然想像もつかないです……。伊藤さんは3人の娘の母ですが当時を振り返って思うことはありますか。
予言すると、これからあと数年は、元気な小学生との穏やかで楽しい日々が続き、その後、嵐が来ます(笑)。子どもが思春期を迎える頃、お母さんはちょうど更年期に入っている時期だから、不安定な二人が始終家の中で顔を突き合わせているわけで大変です。何もしないと、ゴジラ対ガメラみたいな怪獣同士の戦いになっちゃう。大切なのは子どもが怪獣になってもあなたは人間でいないといけないということ。言い換えれば、自分はお母さんではなくて、野生動物保護センターの所長なのだと思えばいいということです。野生の生き物をいつかは森に返すのが自分の役割だと思えば気が楽ですよ。
──なるほど。森に返すのがミッションですね(笑)。いま伊藤さんは大学で詩の授業をしています。今の若い世代と付き合う中で感じることはありますか。
VERYの読者の皆さんの中にも、女であることの不利益をこれまでの人生の中で感じた経験を持つ人が多いはず。でも今の学生たちは、ノンバイナリー(=性自認や性表現において、男性・女性といった枠組みを当てはめようとしないセクシュアリティ)ですと言ってくる子も多い。
私自身は、自分が女であることが生き方や創作の原点だったからはじめは面食らいました。ただ、彼らが社会の中心になる頃には、女だから、男だからという前置きが取り払われているのかもしれない。そうしたら女であるがゆえの苦しみなんて過去のものとして忘れて生きていくことができるのかな、なんて、最近私はそんな未来をちょっと夢見ますね。
POINT
お母さんではなく「野生動物保護センター」の所長だと思う
■担当ライターが選ぶ
悩んだ時の比呂美本
『女の絶望』(光文社文庫 660円)
「夫と話すことがありません(三十九歳)」「夫のほかに好きな男ができた(四十代前半)」「主人の不倫が発覚しました(三十二歳)」「夫の勃起力が続きません(三十代)」……みんな悩んでいる。離婚、セックス、不倫、育児、介護……など主に既婚女性の悩みの多くを網羅。なぜ、こう思ってしまうのか。ではどうしたらいいのか。悩みの根本原因から解決法まで、ここまで具体的かつ親身に答えてくれる本ははじめてでした。「誰にも相談できない」と思ったときに効く!本です。2冊目には『人生おろおろ 比呂美の万事OK』(光文社文庫)『女の一生』(岩波新書)『閉経記』(中公文庫)も。
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取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2022年9月号「伊藤比呂美先生「女性の生き方」集中講座」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。