「ご主人と付き合っています」 5年前、私の携帯にかかってきた電話

「つい読み始めたら止まらない」、〝美味しいおせんべい〟的な当連載。今回よりロングバージョンでお届けです。

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◯ 話してくれたのは...早見有さん(仮名)

横浜生まれ。大学卒業後銀行に勤務。25歳で結婚と同時に円満退社。29歳で長女、30歳で次女を出産。趣味は読書と美術鑑賞。明るく社交的な早見優さん似のはつらつ美人。

夫 東京生まれ。大学卒業後メーカー勤務。38歳のときIT企業に転職。真面目で前向き。子育てには積極的で、現在高校生の娘2人とも仲が良い。趣味はサッカー。

「ご主人と付き合っています」

その女から私の携帯に電話がかかってきたのは、5年間住み慣れた大阪を離れ、夫の転勤で、東京に戻る引っ越し作業をしているときでした。夫は先に戻り、私と子供達は小学校の終業式に出席するために、残っていました。

その電話にすぐにぴんとこなかった私は、てっきりお世話になっている会社か取引先の方からと勘違いし、「お世話になります。すでに東京に勤務していますので、夫の携帯にお掛け頂けますか?」と、天然発言。すると、「ご主人とはどういう関係ですか」とわかり切った質問。「夫婦です」とあっさり答えた辺りから、急に胸の辺りがざわついてきました。

続けざまに、付き合いは3年になる、妻とは離婚寸前と聞いている、自分も東京に行きたい……と一方的に話され血の気が引いていきました。呆気にとられながらも、どう対応するのがベストか、いろんな考えが渦巻きました。そして、「私たちは円満です。あなたが騙されている。夫がしたことは悪いけど、私はあなたを心底憎み、復讐を考えますが、今後一切夫と連絡を取らないで下さい。そして2度と私にも連絡するな」と、ぶっちり電話を切ったもののその場から一歩も足が前に踏み出せません。

一体何が起こったの?これは夢?信頼していた夫への想いが音を立てて崩れ、目の前は真っ暗。とにかく事実を確かめたくて電話をすると、最初の5分間はしらを切り通していた夫も遂には「ごめん。遊びだったんだ。本気じゃないから。家族のことはずっと大事にしていた」と小声で言いました。「どうするの?」「別れる」「好きだったの?」「うん」「あの女の年齢と職業は?」「OLで29歳」「どこで知り合ったの?」「もういいでしょ。別れるから話はこれで終わり」と折り畳もうとするので「あっそ。もう東京には戻らない。引っ越しも辞めた」と言って電話を切りました。その後何度も着信がありましたが無視。

私たちは大学の同級生。25歳で結婚し、年子で二女に恵まれ、結婚12年目を迎えたばかり。些細な喧嘩はありましたが、気心が知れ、そこそこ仲良くやっているつもりでした。夫は仕事もできるし、家事も結構手伝う。短気ですが信頼できる人でした。しかし、思えば浮気の兆候はいろいろあって、

・何しろ外泊や出張が多かった
・やたらとトランクスを新調
・恋愛小説をこっそり読んでいた
・メガネからコンタクトに変えた
・夫婦で街中を歩くのを嫌がった……

こんなにサインはあったのに夫を信頼しきっていた私がバカに思え、もう腹立たしいやら悲しいやらで、親友に泣きながら、電話をしました。すると笑いながら、「うちも浮気したことある。浮気しない夫を探す方が大変。本気じゃなさそうだし、許してあげたら。そもそも100%信じていた○子の純粋さに驚く」とあっさり言われ、気持ちがラクに。

それでもう1人の親友に電話。すると「よくやった。愛人に対する態度完璧だし最大の復讐よ。電話して来るなんて○子にとって最高の発覚の仕方。○君に何か買ってもらって許したら」と呑気。そして「そもそも男女は違うの。男の浮気はおしっこするようなもの。盆暮れ家にいたなら単なる浮気で本気じゃない。でも浮気を認めろと言われたら離婚したら」と。本当に良い友達を持ちました。このアドバイスで少し平常心を取り戻せたのです。

しかし、そう易々と気持ちは落ち着きません。不機嫌に引っ越しをし、沸々しながら新生活をスタート。自分が悪いのに夫は不機嫌で、お互いぎくしゃくしていました。その女からは連絡はなく、夫も別れたと言います。でも気になってつい携帯チェック。すると、ほかに数名の女性とのやり取りが出てきました。気持ちに拍車がかかり、夫のPCを調べ、過去を遡るとあの女の前にも浮気していた形跡が。私の知らない夫の顔でした。

またまた女友達に相談。「別れたくないならほかの浮気を知っていることも携帯を見たことも夫に言わない方がいい。離婚はいつでもできるから様子見たら」と言われ胸の奥に封印。もう私のこと好きじゃないんだと辛かった。浮気関係の本を読み漁り、心を落ち着けました

ところが同時期に、夫に数百万のカードローンがあることが発覚。女とのデートやプレゼント代にお金を使っていたのです。追いつめられた夫は金銭的に余裕のある私の親にお金を貸してもらえないか私に相談してきましたが却下。「貧乏しても1人で返せ」と突っぱねました。もともと夫はお金にルーズなところがあり、私や周囲が助けたらこの人はだめになると思い、あえて私はこれまでと同じ生活費を要求し、同じ生活を続けるようにしましたが、「私は見る目がなかった」と心底結婚したことを後悔しました。あろうことか会社の業績も悪くなり、突然リストラにも。重なるときは重なるもので、どん底状態。ただ、ポジティブな夫は黙々と就職活動を始め、小さいけれど伸び代のあるIT企業に転職

浮気発覚から半年の間に私たちの運命は大きく揺れ動きました。まだ浮気の後遺症も消えず、お金も使えず、ただただ子育てと家事の日々。いつも不安でいっぱいで、できた妻じゃない私はつい「あの女と連絡取ってないよね」とぶり返すようなことを言ってしまったりも。夫の心を取り戻すため、家でもキレイにしていようと、オシャレをしたり、褒め殺した時期もありましたが効果なし

あれやこれや試しても、自分がしんどいだけなんです。そんな時期が3年は続きましたが、ある日私と娘たちが仲良くケーキを食べている姿を微笑ましく見ていた夫が言いました。「家族の幸せそうな顔を見ていると頑張れるんだ」。心から出た言葉でした。そうだ、今の環境に感謝をして、身の回りの幸せを見付けようと思ったのです。

そう言えばいつもご飯は美味しそうに食べてくれる夫。毎日のご飯を充実したり、家のしつらいに気を配ったり、夫だけでなく私が快適に過ごせる環境づくりをするようになりました。携帯を見るのも止めました。意識を変えると私も楽しくなってきて、「ちゃんと働いてくれれば浮気ならいいや。自由にしてあげよう」という気持ちにもなりました。

もちろんそうは夫には言いませんが、「何時に帰る?」「どこに行くの?」など追いかけ発言を一切辞め、反対に「宴会楽しんできて」「忙しいなら会社の近くに泊まってもいいよ」など野放し発言をするように。でも「今度浮気したら、娘たちに全てを話し、3人で出て行く」と釘だけは刺しておきました。それが効いたのかどうかはわかりませんが、ほとんど9時前には帰宅、楽しそうに家で夕飯を食べるようになりました。

熱心に働き、徐々にポジションが上がり、年収も右肩上がり。転職して5年後には入社当初の1.5倍の給料を頂くように。夏休みには家族旅行に連れて行ってくれる一方で、自分の物は何も買わず、浮気発覚から7年後に全ての借金を返済したと報告してくれました。「お疲れ様。よかったね」と私も心から言えました。「マンション買い換えようか?」という夫の提案で、その1年後には前より広く、便利な場所に引っ越し

あの電話から9年経った今は子供たちも高校生になり、夫婦で出かけることが多くなってきました。気乗りしなくても、夫に誘われたら乗るようにしているうちに、結構夫婦で行動することが楽しくなってきています。外食やドライブ、家具を買い替えるためインテリアショップを覗いたり、スーパーにも良く2人で行きます。

浮気された事実は一生忘れることはないけれど、夫の本心を見極める目を持っていれば、何が起こっても修復できるんです。離婚の選択をしなくて本当によかった。50代を前に気心知れた何でも話せるパートナーがいるというのは心丈夫。これからも大切にしていきたいですね。

取材/安田真里 刺繍/みずうちさとみ ※情報は2015年掲載時のものです。

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